Lメモ私的外伝5「命の刻印」 投稿者:ハイドラント
  嵐の下、夜の中を、二つの影が舞う。
  それは激しく動き、時に離れ、時にぶつかった。
  彼らの叫びが響くたび、二人の間で光が炸裂する。
「我は放つあかりの白刃!」
「プアヌークの邪剣よ!」
  正面から激突した光熱波が、あたりに光と爆音を撒き散らす。
  一瞬、光の中に二人の姿が浮かび上がった。
  一人は、素直そうな顔立ちをした少年。黒い服で全身を包んでいるが、はっ
きり言ってあまり似合っていなかった。
  もう一人は、やはり黒ずくめの若い男。こちらは胸元に薔薇など刺している
が、それが妙なくらい似合っている。
「葛田、答えろ! ハイドラントはどこに行った!?」
「知った所で、意味はないさ!」
  少年の叫びに、男は嘲りを込めて答えた。
  素早く間合いを侵略し、少年の喉元に貫手を放つ。
  少年は体を反らせて躱し、続いて放たれた突きもバックステップで外した。
  そして魔術の構成を編み上げようとする彼に、男が告げる。
「導師は、お前の師との決着を着けに行った筈だ。終わらせる為に、な。
  だがお前には関係ない。智波・・・」
  にやりと笑う。
「お前はここで、死ぬのだからな」
「我は放つあかりの白刃!」
  男の言葉をかき消しつつ、智波が呪文を叫んだ。
  空気を帯電させながら光熱波が進む先に、しかし葛田は既にいない。
(・・どこだ!?)
  一瞬、智波は彼の姿を見失っていた。
  そして。
「ヤスランの樽よ!」
  ぎしりっ・・・!
  右手から呪文の声が響いた瞬間、智波の周囲の空間が音を立てて軋んだ。
(動けない!)
  空間圧縮の魔術。
  動きを封じられた智波の目に、腰からナイフを引き抜く葛田の姿が映った。
  彼は笑みを浮かべつつ、ゆっくりとそれを振りかぶる。
(・・・死ぬ!?)
  そう思った瞬間、彼は魔術を・・・自分の願う世界を作る力を、瞬間的に発
動させていた。
「我抱き留めるさおりんの舞い!」
  魔術が効果を発揮し、世界が塗り替えられる。
  葛田の魔術が打ち消され、不安定な態勢で固まっていた智波はそのまま倒れ
込んだ。
  彼の頭上を、髪を掠めながら刃が飛び過ぎていく。
  次の攻撃が来る事を予想して、智波は動きを止めずに転がりながら立ち上がっ
た。
  正面に黒い姿がある。
  葛田は動いていなかった。ただ、にやにやと笑いを浮かべながら彼を見てい
る。
  その笑いの意味は明白だった。
  ――この程度で終わっては、面白くない――
  実際に言葉でそう言われたかのように、智波にはそれが分かった。
「この・・・!」
  爆発的に膨れ上がった怒りの感情に任せ、突進する智波。
  それを見て一段と笑みを深くしつつ、葛田が迎え撃つ。

  二つの影は、もう一つの影が見守る中、ひたすらに舞い続けた。




                           Lメモ私的外伝5




  今回は未来編です。
  いや、dyeさんや久々野さんの作品を読んでいたら、ちょっと書きたくなっ
たので・・・。
  と言っても、無論これは「私の考えた、一つの可能性としての未来」でしか
ありません。
  最初からそう開き直っているので、今回は(も?)内容が徹底的に自己中心
的なものになっております。
  まあ一応、状況説明を意図的にぼかして、汎用性のある未来(変な表現)に
したつもりではありますが。
  では、勝手な外伝第五作、どうぞ。




                              「命の刻印」




「お前を、ハイドラントと名付ける。」
  先生は・・・俺を拾った男は、『塔』に連れてくる時、一方的にそう告げた。
  俺は、別に感動も反発もしなかった。
  それまで名乗っていた名前――ミラン・トラム――に、俺は大した愛着も持っ
ていなかった。新しい名前を、さして格好いいものとも思わなかった。
  ただ、その名にどんな意味があるのか、それだけ問い返した。
「消火栓、という意味だ。火を消す為のあれだ。
  ・・・これから私は、お前をその名にふさわしい人間に育てる。
  意味が分からないか? つまり、平和な世界においては何の役にも立たない男、
役に立つよりは役に立たない方が望ましい男、そんな人間にする。
  消火栓と同じだろう? 火事が起きた時の為に存在するが、人々は皆、消火栓
が使われる事など無い方がいいと思っている。
  平時の為ではなく、非常時の為の男。
  お前はそうなる――いや、そうする。いいな、ミラン――ハイドラント。」
  そう言われても、俺はやはり大した感慨もなかった。
  冗談としては面白味に、本気ならセンスに欠けるな、と他人事のように思っ
ていただけだ。
  だが、俺は頷いていた。
  新しい名前と、その意味を、受け取ったのだ。

  そして俺は、ハイドラントになった。


  彼は一年部校舎の二階から、窓越しにそれを見ていた。
  嵐の中で戦い続ける、二人の魔術士を。
  葛田と智波。
  彼の弟子と・・・彼の宿敵の弟子。
  彼を「導師」と呼ぶ男と、彼の宿敵を「お師様」と呼ぶ少年。
「導師、か・・・」
  彼は独りごちた。
  ・・・俺は、あいつを導いてやれたのだろうか。
  ダーク十三使徒は、もう彼の許にはいない。
  皆、彼の命令ではなく己の意思によって、学園の各地で暴れ始めている。
  風見、ジンを始めとするエルクゥ同盟と十三使徒との最後の決戦は、既に始
まっているはずだ。
  SS不敗流の西山、結城も、己の大事な人を守る為に、使徒達と戦い始めて
いるだろう。おそらくは、EDGEも・・・。
  先刻この嵐の中を、へーのきがDシリーズと、OLH、榊らバイトの警備員
たちを連れて外へ出たのを見た。十三使徒を制圧するために出動したのだろう。
  そう言えば、マルチの魂を闇に染めると豪語した使徒がいた。彼がその言葉
を実行したならば、今頃はセリスか、ゆきか、あるいはその両方と戦っている
に違いない。
  この戦いを止める事は出来ない。もう、十三使徒は彼の命に従いはしないの
だから。
  ・・・だが、彼は満足していた。
(つまり、俺はあいつらを導いてやれたという事だ・・・)
  葛田だけが、最後まで彼の許に残った。
  そして今、彼の邪魔となるであろう智波を抑える為、窓の外で戦っている。
「葛田っ!」
  激しい風雨の音に押し流されつつも、かすかに声が聞こえる。
  智波の声だ。
「なぜハイドラントに従う? あの気狂い野郎が何をしようとしてるのか、本当
に分かってるのか!?」
「導師の考えなど知らん!」
  それに答えた葛田の叫びが――これは何故かはっきりと――彼の耳に届いた。
「俺は、お前と決着を着ける為に戦う! それだけだ!」
(・・・・!)
  一瞬、彼は呆然とした。
  そして、次第におかしくなり・・・こらえきれずに笑い出した。
  ・・・俺はどうやら、あいつも導いてやれたらしい。
  笑いながら、彼は――ダーク十三使徒の首長だった男は身を翻し、三階へと
続く階段を上り始めた。


  名前には意味がある。
  あいつがそう言ったのは、初めて顔を合わせた時のことだ。
  俺は最初からあいつが気に入らなかった。
  だから、あいつを呼ぶ時わざと名前を呼ばずに、そこの、とか、新入り、と
かいい加減な呼び方をしてやった。
  その時、あいつの言った言葉がそれだった。
  確かにそうだ。名前には意味がある。特に、俺達二人の名前には。

  ハイドラント――炎を消すもの。
  Rune――願いを叶える言葉。

  あれから数年。
  俺はまだ、名前にふさわしい者として完成していない。
  あいつを倒さない限り、俺は「ハイドラント」にはなれない。

  俺は非常時の為の切り札として育てられた。
  ・・・実はそうでは無かったのかもしれない。柏木賢志が俺を非常時の為の
人間にすると言ったのは、そういう意味では無かったのかも知れない。
  だが、俺はそう思い込んできた。
  切り札は最強の力を持っていなくてはならない。でなければ切り札たりえな
い。そう思ってきたのだ。
  俺は、『塔』にいた頃、そしてこの学園に来てからも、多くの者と戦った。
  その中には、俺を敗者の立場に貶めた者も幾人かいた。
  来栖川綾香。EDGE師匠。西山英志・・・。
  だが、俺が全ての力――魔術、暗殺技術、そして神威のSS――を駆使して
戦い、それでも敗れたのは、あいつと戦った時だけだった。
  あいつ以外の者は、一人の例外を除いて、全ての力を――特に、柏木賢志が
俺に教えた殺人術を――使えば倒せるという自信が、俺にはある。実際にどう
なるかは、やってみなくては分からないにしても。
  だが、あいつには及ばなかった。二度戦い、二度とも敗れた。
  俺は、あいつより弱かった。柏木教室の切り札ではなかった。
  だから俺は、まだ「ハイドラント」として完成していない。
  ・・・俺はずっと、そう思い込んできた。


  四階の階段の踊り場で、彼女は待っていた。
  つややかな黒髪。猫科の獣を思わせる眼差し。
「綾香・・・・」
  ハイドラントは呟くようにその名を呼んだ。
  綾香は答えない。
  ただ、壁に寄りかからせていた身を起こし、僅かに腰を沈めた。
  戦闘態勢。
(結局、こうなるか・・・)
  彼は自嘲の笑みを浮かべる。
(梓はいない・・・という事はやはり彰の所に行ったのか。
  彰・・・お前はどうするんだ?)
  そんなことを思いつつ、彼は静かに彼女との距離を詰めていく。
  

  Rune以外に、俺が全ての力を尽くしても勝つことは出来ないと思う、一
人の例外。
  それが、久々野彰だ。
  彼が俺より強いとか、そういう問題ではない。
  彼と俺では、力の意味が違うのだ。
  俺と久々野は、共に柏木教師から暗殺術を受け継いでいた。それぞれに異な
る殺しの技を。
  久々野の暗殺術はナイフや鋼線などの武器を用いることが多く、ハイドラン
トの暗殺術は素手が中心。教室内ではそう認識されていた。
  だが、俺の認識は違った。
  久々野の暗殺術は、生きる為に――あるいはもっと別の何かの為に、人の命
を奪う技術。
  対して俺は、殺す為に殺すだけの技術。
  俺が久々野に勝てる筈は無かった。
  それに、久々野は既に完成している。柏木賢志の立場を受け継ぐ者として、
柏木教室という軍隊の司令官として。
  久々野だけではない。
  梓は、この軍における攻撃担当者として。綾香は防御担当者として。二人と
も、二種の異なる戦士としてそれぞれに完成している。
  ただ一人、俺だけが未完成だ。
  ・・・いや。
  Rune。
  あいつも、まだ未完成だ。
  俺と同じく、名前にふさわしい力を身につけた、完成品にはなっていない。


「ハイド」
  あと数メートル・・・二人の距離がそこまで狭まった時、綾香が口を開いた。
  彼が足を止める。
「あなた・・・何をやってるの?」
「・・・何を?」
  彼は訝しげに問い返した。
  だが、彼女は黙っている。
  彼は、どう答えたものかとしばし悩んだ。
  数秒、沈黙して・・・そんな自分に、苦笑する。
  別に難しい事はない。彼の行動は、いつだって同じなのだから。
「いつも通りさ」
  だから、彼はそう告げた。
「いつも通り、好き勝手にやってる。そしたらこうなったってだけだ。」
「・・・そう。」
  綾香は、小さく笑った。
  そして、告げる。
「ハイド・・・あなたを、倒すわ。」
「・・・・・」
  彼は、答えなかった。
  黙って・・・右腕を、彼女に向けて突き出した。
  そして、ゆっくりと魔術の構成を編み上げていく。
  彼女は、足を少し開き、左肩をやや前に出す体勢をとった。
「あなたを止めるのは、Runeじゃない・・・」
  最後に――
  最後に、綾香は言った。
「・・・私の役目なのよ!」
「プアヌークの邪剣よ!」


  綾香と出会ってから、もう何年になるだろう。
  初めて会ったその時から、あいつは俺の目標になった。
  あいつはいつも自信に満ち溢れていた。
  そして、その自信にふさわしい才能を有していた。
  俺はあいつに自分を認めさせたかった。
  あいつと対等の立場に立ちたかった。
  俺が「ハイドラント」として完成する事を望んだのも、あいつにふさわしい
男になりたかったからだ。
  そして・・・
  そして、今――


「光よ!」
「プアヌークの邪剣よ!」
  綾香の放った光熱波を、ハイドラントの放った光熱波が迎撃し・・・そして、
そのまま彼女の方へと突き進んでゆく。
「くっ!」
  その場を飛び退き、熱波から逃れる綾香。
  ハイドラントの魔術は、柏木教室でも最大の破壊力を誇る。綾香といえど、
それとまともにぶつかるのは分が悪い。
(でも・・・)
  綾香は再び構成を編み上げつつ、内心で呟いた。
(あなたには、こういう真似は出来ないでしょ?)
「光よ!」
「タマンカマの玉よ!」
  綾香の魔術が完成するのと同時、彼の魔術も完成し、防御障壁が展開する。
  が。
「!?」
  ハイドラントの顔が、驚愕に引きつる。
  綾香の放った光熱波は楕円の軌道を描き、障壁を避けて彼を襲ったのだ。
「ヨークの翼よ!」
  咄嗟に彼は空間転移の魔術を行使し、その場から逃れた。
  一瞬後、彼がいた場所を熱衝撃波が打ち砕く。
(やってくれるな・・・!)
  綾香から五メートル程離れた場所に着地しつつ、彼は内心で感嘆していた。
(やっぱ、正面からじゃ勝てないか・・・まともに戦って勝てない時は・・・)
  ハイドラントは師の言葉を――彼らを育てた男の言葉を思い起こした。
(まともに戦わなければいい・・・反則使わせてもらうぜ、綾香!)

  綾香は、次第にハイドラントを追い詰めていった。
  柔よく剛を制す、と言うが、この場においては確かに、綾香の柔の魔術は彼
の剛の魔術を制していた。
  だが、綾香は気をゆるめていない。
(ハイドには、まだ隠している武器がある・・・)
  その事を彼女は知っていた。
「風よ!」
  彼の攻撃をかいくぐり、綾香の放った魔術が彼を弾き飛ばす。
  壁に激しく叩き付けられるハイドラント。
  止めの一撃を加えるべく、綾香は彼の懐に飛び込んだ。
  その瞬間、ハイドラントがにやりと笑う。
  バネの弾ける音が響き、ハイドラントの左手が――肘から下の義手が、床に
転がった。
  義手の下から現れた黒い銃口が、綾香の方に向く。
(左腕の筋肉に連動した銃・・・あなたの最後の武器。でも・・・)
  綾香はその時、既に魔術を完成させていた。
(知っていたのよ、私は!)
「鉄槌よ!」
  魔力を帯びた拳が、黒い銃を粉々に打ち砕く。
(勝った・・・)
  そう、思った瞬間。
  彼女は、「それ」に気付いた。
  その時には、もう手後れだった。  

  あの一瞬、彼女の意識は彼の左手に集中していた。
  ハイドラントの右手に集まっていた魔力を、見落としていたのだ。

「エルクゥの拳よ!」
  そして、一瞬前に綾香が放ったものと同じ魔術が、彼女の脇腹に炸裂した。

  くずおれた綾香を、ハイドラントは静かに見下ろした。
(初めて、綾香が倒れた・・・俺の前で・・・)
  そんな事を思う。
  綾香が、苦しげに息をしつつ、顔を上げた。
  彼を見上げる。彼は見下ろす。
(綺麗だな・・・)
  切れ長の瞳を見つめつつ、ハイドラントはそんな事を思っていた。
(なんで、こんなに綺麗なんだろう・・・いつでも、どんな時でも・・・)
「ハイド・・・」
  彼の気持ちを知ってか知らずか・・・綾香はかすれた声で言った。
「私を・・・殺すの?」
「・・・殺す?」
(俺が、綾香を、殺す・・・)
  彼は、想像を巡らそうとして――出来なかった。
  主語と述語と目的語をランダムに選び出して組み合わせる、言葉遊びで作ら
れた文章のように、それは一向にイメージとして成り立たなかった。
「俺は・・・」
  ハイドラントが、呟くように告げる。
「綾香、お前を――」
「ハイドラント!」
  彼の言葉を遮ったのは、綾香の声ではなかった。

  そこには、一人の生徒が立っていた。
  白衣を着た、かなり長身の男だ。
「ゆーさく・・・」
  その姿を見て、綾香が呟く。
  ハイドラントも知っている男だった。
  悠朔。綾香に真っ直ぐな想いを寄せ、何かと彼女の近くにいる男――つまり
ハイドラントを、以前から敵視していた。
  ハイドラントをいつか殺すと、公言して憚らなかった男である。わざわざ挑
戦状まで送り付けて来たほどだ。
  そして今、彼は怒りに満ちた眼差しで、ハイドラントを睨み付けている。
「綾香から離れろ・・・!」
  携えていた剣を引き抜き、彼が叫んだ。
  ハイドラントは・・・しばし、呆然としていた。
  やがて――
「くっ・・・くくっ・・・ははははっ!」
  笑い出した。
「何が可笑しい!?」
「いや・・・」
  笑いを収めて――それでもまだ口元がにやりと歪んでいたが――彼は言った。
「いきなり芝居じみてきたな、と思ってさ。」


  彰は、どうしただろうか・・・。
  屋上への階段を上りつつ、俺はそんな事を考えた。
  悠朔も綾香も、ここにはいない。
  あの後、俺は手間取る事もなく悠朔を片付けた。
  奴が弱かった訳ではない。いや、むしろ強かったと言っていい。
  だが、奴は戦い方を知らなかった。
  弱点――傷ついた綾香――が側にいる状況で、俺と戦おうとすること自体が
間違っていたのだ。
  案の定、俺が動けない綾香に魔術を放とうとして見せると、奴は自ら望んで
俺の攻撃に身をさらした。
  戦いとも呼べないような、あっさりとした決着だった。
(もっとも、奴を馬鹿と言う資格は、俺には無いか・・・)
  そして今、俺は最後の決着に向けて歩んでいる。
  彰と梓の決着は、もう着いている頃だ。
  彰がどういう決断を下したのか、俺は知りたかった。
  やはり戦ったろうか。それとも戦わずに説得したのだろうか。あるいは、ど
ちらもせずに逃げたのかもしれない。
  階段を上り切った。
  目の前に、分厚い扉がある。
  あいつは、そこで待っている。
  俺がダークに洗脳して放った刺客――松原葵――を退ける事が出来たなら、
あいつはここに来ているはずだ。
「俺は・・・ハイドラント。炎を消すもの・・・」
  扉に向けて手を翳しつつ、俺は呟いた。
「そしてお前は・・・Rune。願いを叶える言葉・・・」
  ゆっくりと、大きく、息を吸い込む。
「柏木教室の、二つの未完成品・・・」
  魔術の構成を編み上げる。
  彼の望んだ世界が展開し、現実世界を覆ってゆく。
「どちらが完成するか・・・・
  決着だ、Rune!」
  ハイドラントが吠えた。
  その声を呪文にして彼が解き放った魔術が、扉を吹き飛ばす。


  そして――
  砕けた扉の向こうに・・・・・




                                 Lメモ私的外伝5「命の刻印」  了