――長かった。 男は想った。ここまでの道のりは、とても長かったと。 目の前に、女がいる。 どこにでもいるような女、かもしれない。贔屓目で言っても、まあそこそこ というところだろう。だが、男にとっては、この世で唯ひとりの女性だった。 そして、この場にいない、もう一人の男にとっても。 彼女を求めた男は二人。だが最も重要な刻に、彼女の前に辿り着き、その控 えめな、僅かな哀しみを含んだ微笑を受けられる男は一人。そして、それは彼 だった。 一歩を踏み出す。 彼女はもう、手の届く所にいる。 なら、することはひとつだった。彼女を抱擁する。それだけの、それだけの 単純な一動作のために、どれだけの時と争いと別れと涙を経てきたことか。 しかし、その全てが、今ここで報われる。 両手を差し伸べる。 かつて、彼女との間には無限の隔たりがあった。自分の手が彼女に触れられ る時が来るなどと、冗談ですら思えなかった。 だがそれは長い歴史の末、限りなく近付き、この瞬間も近付きつつある。 そして、今。 二人の距離は―― 距離は―― 「どっけぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!」 ばきめぐしゃ。 ――通りすがりのスタンピード・ランナーによって、永遠に無限になった。 Lメモ優駿編「Dark十三使徒へようこそ!!」 OPテーマ「GOGO十三使徒」 ぐるぐる今日も大暴動 いつものこと楽しいけれどね 短い人生ジ・エンド なんだかワクワクしてきちゃう みんなにも分けてあげる 闇と破壊のダークな未来 少しくらい反抗しても滅殺 許してやらない やかましいのよ 狂信者なのよ ウチら 泣く子と地頭と ダークはどうにもならない 眠たくっても 疲れてても ひたすら殺し ほら そこの君も もう背後に死神立ってる 「有り金全部寄越しやがれ〜☆」 第一話「曲がり角は運命の出会い」 俺は走っていた。 全力で走っていた。 100メートル2.4秒(アジア記録更新――さらば伊藤氏)で走っていた。 もちろん姿勢は腕組みである。 俺の隣で、キセルを咥えてアイマスクをした駅員さんのような男が「どうし た樊瑞!」と叫んでいるのが聞こえていたが、それにも構わずとにかく走って いた。 俺は魔江田凶治(まえだきょうじ)。 ここ、試立Leaf学園の二年生だ。 この学園は、三日に一度は校舎が吹き飛んだり、かと思えば五分で再生した り、一方では魔王が復活したり、周囲を破壊しまくった挙句に勇者とか最終兵 器とか生け贄とかあんみつ百杯とかの力で倒されたり、その頃には別の魔王が 出現していたりと、とかく物騒極まりない。 俺は今まで、そういった異常現象にはなるたけ関わらずに過ごしてきたのだ が、いい加減授業と補習とクラブ活動と生活費稼ぎの野盗を繰り返すだけの平 凡なスクールライフには飽きてきたので、新学期を迎えるにあたって心機一転、 ちょっと勇気を出して新しい世界へ踏み出してみようと思ったわけだ。 ちなみに、俺が選んだ新しい世界とは―― 「よっしゃ、セーフ・タァァァァイム!!!」 前方に見えるT字路。あそこを右に曲がれば目的地のはず。 どうやら指定時間ギリギリで間に合ったようだ。 俺は8マンダッシュから四足走行にシフトし、ドリフトでコーナーリングし ようと―― 「なぁにィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイ!!???」 コーナーに入った瞬間、左側から突っ込んでくる影が! 回避している暇はない。俺は即座に決断すると、殺人的な速度で接触しよう とするソレに、手刀と足刀の乱舞を放った。 バランスの悪い状態から、しかし必殺だと自負できる攻撃―― 「う、美しい!」 通りすがりのユダも叫んだ。完璧だ! 影の正体が何だかは知らないが、何であれ細切れにして無力化出来る筈―― 「……!?」 キィィィィィィィィン!!! 甲高い音を立てて、俺の攻撃は弾かれた。 体勢を崩して壁に突入しかかるが、辛うじて方向転換し、ずざざっ! と地 面を削りつつ足を止める。 (馬鹿な……俺の飛燕流舞を防いだだと?) 戦慄しつつ、俺は影に目を向けた。 流石に、奴も全く無事ではなかったのだろう。丁度、大の字に転がっていた 状態から、シャガー! とヴァチカンの神父のような動きで跳ね起きたところ だった。 その姿は…… 「女!?」 ピンクのワンピースに包まれた細い身体。リボンが映える長い髪。文句無し の美少女と言っていいだろう。 だが俺は、文句を言った。 「すげえ似合わねえぞ、その格好で両手に銃剣(バヨネット)ってのは」 「くびり殺すわよ」 動きと格好だけでなく台詞まで聖堂騎士じみた奴だった。 俺は慎重に間合いを計りつつ、隙を窺う。 「どういうつもりだ? 俺のような一般生徒の行く手を、刃をもって塞ぐとは」 「あんたが本当に無害な一般生徒だったら、塞ぐまでもなく切り刻んでおしま いだったんだけどね。まさか南斗水鳥拳が飛んでくるとは思わなかったわ」 ってことは、あの時仕掛けてなかったらこっちが攻撃を食らってたって事か。 油断ならねえ女だ。 「とにかく、俺は急いでいる。女、さっさと財布と下着と住所氏名電話番号を 記したメモを差し出すがいい。さすればこの場は一応一時的に見逃してやろう」 「どうやら立場が分かってないようねオス豚。三時間後に肉屋の特売コーナー で変わり果てた身を晒すことになる未来を変えたいなら、ぐだぐだ言わずに現 金とキャッシュカードと各種権利書を差し出しながら土下座しなさい」 「んだと、この――」 言いかけて、俺はふと足元に目を引かれた。 何か、白いものが転がっている。 「あっ、それは!」 慌てたような声を上げる女。どうやら奴が落としたものらしい。 俺は構わずに拾い上げた。 「だ、駄目! 開けないで!」 「?」 言われて気付いたが、その白いものはロケットだった。蓋が開くようになっ ている。 俺は無論、ナノ・セカンドの迷いもなく、即座に蓋を弾いた。 (こーいうロケットってのは、願いごとを書いて入れておくもんなんだよな。 もし、「恋人募集中」とか書いてあったら……) 俺は三分間ほどぶっ続けで爆笑してやろうと、容量7000CCを誇る肺に 空気を送り込みながら紙を開いた。 そこには―― 『☆恋人募集呪☆ この呪符を見た人は、持ち主の恋人になる運命にあります。 もし運命に逆らうと、数々の災難が降りかかったりするのでご注意。 なお、効果は二人のどちらかが死ぬまで持続します。 神海呪術商会』 「…………」 「…………」 後悔。 十七年間の人生で知り得なかったその言葉の意味を、俺はこの五秒間で完全 に理解していた。 「……決めてたのに……それを見てもらうのは素敵な王子様にって……」 俯き、震えながら呟く彼女の姿に、俺は苦い想いを抑え切れなかった。 べき、と呪符をロケットごと握り潰す。 「いつか……いつか、目が紅くて犬歯が異様に発達してて切っても突いても死 なないような素敵な王子様に出会って、それを渡そうって決めてたのに……」 「……すまん……」 まさか、この女に使うとは思ってもみなかった台詞が、ごく自然に口をつい た。 ――罪は、贖わねばなるまい。 俺はロケットの残骸を投げ捨て、南斗虎破龍の構えをとる。 捨て身の構えだ。女にも、それは分かったろう。 「……女。名は何という」 「それを聞いてどうするの……?」 ――辿り着いた、贖罪の方法は同じか。 両手に銃剣を構えつつ、低く抑えた声で女が問い返してくる。 「知れたこと。――墓に花を添えずとも、せめて名は刻んでやらねばなるまい」 「そうね。――死にゆく者には、せめて殺す者の名を手向けにくれてやりたい ものね」 女の手首が返される。 二振りの銃剣を逆手に握り、彼女はその名を告げてきた。 「――死乃森阿修羅(しのもりあしゅら)――」 「うわすっごい」 「黙れ」 思わず素に戻ってしまった俺に、女――あしゅらが刃を向ける。 沈みゆく夕陽の残光を照り返し、紅く輝くその刃が…… (……夕陽……?) 「ってしまったっ! バイトの面接っ!」 「はっ!?」 俺の叫びに、何故かあしゅらも慌てたように顔を強張らせた。 だがもう構ってはいられない。俺は即座に身を翻すと、再び音速の世界に身 を投じた。 よもや、奴は追ってはこれまい―― (……!?) ずだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!! あたかも、ジャック・ハンマーが総鍛鉄製のタンバリンを叩いているかのよ うな凄まじい音が、俺の背中にぴったりとついてきていた。 振り返ると、姿は見えないのに、抉ったような足跡だけが俺を追うように次 次と地面に刻まれている。 「縮地!?」 このままでは追いつかれる。そう判断した俺は、懐からクロスリーブ・プロ ジェクトを取り出すと、即座に後方へ投げつけた。 この相対速度では、とうてい防げないはず―― ――が! 「御庭番式小太刀二刀術・陰陽交叉!!」 かきぃぃぃぃん! 放ったナイフは、十字に構えられた銃剣に阻まれた。 俺の隣に並んだあしゅらが、きっ、と鋭い視線を投げつけてくる。 「邪魔しないでよ!」 ちきぃぃぃぃん! バヨネットの一閃を左手の寸鉄で受け流す。 「俺の邪魔してるのは貴様だろ!?」 しゅぃぃぃぃん!! 抜き撃ちで放ったチャクラムは、ぎりぎりで見切られた。 「あんたの生命活動そのものを邪魔して止めてやりたいのは山々だけど、今は そんな暇ないわよ! いいからとっととどきなさいよどかないと斬るわよ斬る わよ斬る斬るキルキル貴方をKIIIIIIILL!!!」 がしがしがしがしがしがしがしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!! 「死ぬです死ぬデス貴様は死ぬDEAAAAAAAAATH!!!」 すぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! 「犬では私は殺せないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」 DOOOOOM!!! 「豚のような悲鳴をあげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 BAAAAAN!!! …… ………… …………………… 「……で、結局」 「途中で大体、予想はついてたけど」 数秒後。 同時に目的地に着いた俺達は、同時に睨み合い、同時に呟いていた。 「「こーいうオチか」」 「ええと……魔江田凶治さんに、死乃森阿修羅さんですか」 「うっわー、説得力に満ち溢れた名前だねー」 ぎりぎり、と歯軋りし合う俺達の様子に気付いているのかいないのか、受付 嬢はにこやかに俺達の差し出した応募用紙を受け取った。 「でも良かったですねー、丁度面接試験を始めるところだったんですよ」 「会場はこちらです。お急ぎ下さい……と、その前に」 受付嬢――小柄で童顔の女の子と、電柱を担いだセリオの二人組――は、一 秒毎に殺意を高め合う俺達の緊迫感にあくまでお構いなく、見事に声を揃えて 告げたのだった。 「「Dark十三使徒へようこそ!!」」 【次回予告】 運命の出会いを果たした魔江田凶治と死乃森あしゅら。 奇しくも、彼らは十三使徒新規募集に応じた同志だった! ハイド「あー、まずは体力テストを行う」 時給二千円三食昼寝おやつ付きに釣られて十三使徒の門をくぐった彼らに課 せられた試練とは!? ハイド「殺すけど死ぬな。生きてたら合格。以上だ」 次回「貴方は魔王を信じますか?」 乞う、ご期待!! 尚、次回があるかどうかは作者の関知する所ではありません。 *********************************** けー。 くけー。 もけけー。 と、このように口から漏れる奇声が抑えられない春先ですが、皆様いかがお 過ごしでしょーか。俺は危険です。色々。 ともあれ、十三使徒一般使徒物語ギャグ編「ダーク十三使徒へようこそ」開 始であります。 構想は結構昔からあったんですが、序盤以降のネタが浮かばなかったんで、 長らく眠らせてました。 なんとなくギャグが書きたいなー、と思ったので、なんとなく書いた次第。 ですので、第二話以降が次々と出る、などという奇跡は期待せんで下さい。 奇跡は起きないから奇跡です。起きたら陳腐。チンプー、と書くとなんかのア ニメのキャラのよーですが知りません。 ちなみに十三使徒一般使徒物語シリアス編もあるんですが、こっちは10K ほどで停止中。 完成はいつになることやら。バビっとひらめきがあれば進むと思うんだけど ねえ。にゃー。 実は第一話では入団試験受けて使徒になるとこまで書く予定だったのだけど。 全然届かなかったなー。 次で多分終わると思うけど。もしかしたら三話まで引っ張るかも。 そんじゃ、またー。