Lメモへーのき番外編8『我が姫を解き放て女王』(後編) 投稿者:へーのき=つかさ
 地球から遥か離れた宇宙の片隅。
 そこにヒメカワ星はあった。
 サイズはほぼ地球と同じ、自然に溢れた豊かな星だ。
 …ただ、何故かは知らないが宇宙からだと紫色に見えるところが少し不気味だが。
 その首都に、女王とそれに仕える者達が住む王宮があった。


「あ〜あ、ヤになっちゃうよねー」
「ホントホント」
 山のように資料の積まれた王宮の一室。
 そこでふたりのヒメカワ星人(見た目は子供だが、恐らく大人なのだろう)がでれーんと
椅子にもたれかかり、仕事もせずにぐちぐち文句を言っていた。
「そー言えばさー 女王様の病気ってどうなったんだっけ?」
「ん? 私は知らないけど」
 完全にだらけきったふたり。
 一昔前までいた、結婚相手を見つけるために入社した『お茶くみと書いてOLと読む』
的な奴等のようだ。
 お前達みたいなのがいるからキャリアウーマン目指すやる気のある女性達が雑用にまわ
されて人生相談したりドラマになったりするんだぞ。
 …まあ、それは本筋とは関係ないので他の場で話す事にしよう。
「…何やってるのあなた達」
 そんな不埒なふたりの後ろから、怒気(殺意の波動?)をまとった見た目30代(やはり年
齢不祥)の女性が現れた。
「「うひゃあっ!?」」
 ふたりは椅子から飛び上がった。
「あなた達…」
「済みませーんっ! 今すぐ仕事を…」
 ドカッ、バサバサバサ…
 後方を確認せずに後ろへ下がったため、ひとりの肘が当たり書類が崩れる。
「ああっ! 山が崩れたっ!」
「………」
 その女性(おそらくふたりの上司だろう)は、ため息を吐きながら顔を手で押さえた。
「駄目ねぇ…少しはまともに仕事しなさいよ」
「ごめんなさ〜い」
 あんまり反省したようには見えない。
「あともうひとつ」
 上司はキッと真面目な顔になった。
 その迫力に押され、へらへらしていたふたりの背筋がピンと伸びた。
「女王様のご病気については軽々しく話さない事。一応国家機密なんですからね。臣民の
不安を仰ぐような事は口にしないで下さい」
「でも…」
「言いたい事は分かってます。でも世間にはいろいろな人がいる事を分かっていてね。中
にはちょっとした事で暴動を起こす、偏狭的な人もいるんですから。」
 そこで一息ついて。      .....
「気をつけて。たとえ今回のようなただの風邪であってもね」
「「は〜い」」
「それではさっさと仕事を進めなさい」
 彼女はそのまま出口へと向かう。
 かさり…
 何かを踏んだ。
 足元を見ると、そこには一枚の紙が落ちていた。
「あなた達、こんなところにまで飛んでるわよ…あら?」
 彼女の目が、そこに書かれた文字を追う。
「軍事演習…どうしてこんな時期にするのかしら。しかも異星で大規模に?」


                    ☆★☆


(頭が痛い…)
 浩之は頭に響くゴツゴツした痛みで目を覚ました。。
 どうやらあのまま気を失っていたらしい。
 少しずつではあるが、意識が戻ってゆくにつれて周りの状況がだんだん掴めてくる。
 彼は今…
「なんで足掴まれて引きずられてるんだぁぁぁぁぁ!!!」
 ずっと感じていた痛みはこのせいだったらしい。
「ア、ヒロユキ目が覚めたノ!?」
「お前か! オレを引きずってくれたのは…ってレミィ!?」
「Yes!」
 レミィはいつもの眩しい笑顔で答えた。
 彼女は左手で気絶したままの琴音を抱え、右手で浩之の足首を掴んでいる。
「ホントーはヒロユキも抱えて行こうと思ったんだけどネ、やっぱり重くて…」
「だからって頭引きずる事ねーだろ!」
 まあ、それはそれで置いといて…
「ところでレミィ。なんでお前がここにいるんだ?」
「エ?」
 それを訊かれたとたん、レミィの笑顔が引きつった。
「エ、エット………ソウ! ミヤウチのエージェントとしてコトネを拉致しに来たネ!」
 当然とっさに出した嘘であるが、もし本当だったら仲間から情報漏洩の罪で銃殺されか
ねない内容だ。
 本人はそこらへん分かって言ってるのだろうか?
 とりあえず、浩之にはレミィが嘘を付いているのがバレバレだった。
 でもとりあえず突っ込んでみた。
「じゃあなんでオレまで連れてくんだよ」
「………人質デス…」
「ウソつけ」
 浩之を人質に取って誰を脅すつもりなのだろうか。
「ま、いいけどな。とりあえずオレの足を離してくれ」
「歩けるノ…?」
 心配そうにレミィが訊ねる。
「頭引きずられるぐらいなら歩く」
 浩之はよいしょと立ち上がった。
 一応手足をぶらぶら振ってみる。
 所々痛む場所はあったが、幸い骨折や脱臼は無いようだ。
「ダイジョウブ?」
「ああ、レミィが引きずらなければもうちょっと大丈夫だったと思うけどな」
「それは良かったデース」
「………」
 多分今の皮肉は通じていない。
「まあいいや、じゃあ行くか」
「ウン!」
 浩之はレミィから琴音を受け取り背負うと、ゆっくりと歩き出した。


 それからしばらく歩いて…
「………」
「ダイジョブ? ヒロユキ。何だか顔色が悪いヨ」
「いや、大丈夫だ」
 実は全然大丈夫では無い。
 今までの疲労と怪我のせいで、浩之の体力は限界に近づいていた。
「ううん…」
 背中の琴音が意識を取り戻した。
「コトネ! 目が覚めたネ!」
「宮内さん…!? どうしてここに…」
「あ、レミィが気絶してたオレ達を見つけてくれたんだよ」
「そうなんですか…」
 そう言いながらも琴音はレミィに警戒心を抱いたままだ。
 浩之はひそひそ声で話しかけた。
(大丈夫だって、とりあえず今回に限ってはレミィはオレ達の味方だ)
(本当ですか?)
(ああ、オレが保証する)
「ナニ話してるノ?」
「い、いや、なんでもない。それより琴音ちゃん、歩けそう?」
 浩之は誤魔化した。
 凄まじく不自然な振る舞いではあったが、レミィは特に気にした風は無かった。
 そして、話を振られた琴音は…
「あの…もう少しこうしていていいですか…?」
 ぽっと顔を赤らめると、浩之の背中に顔を摺り寄せた。
「えっと…」
「あの、ご迷惑ですか?」
 別に迷惑ではない、むしろ嬉しい。
 足と腰にガタが来てさえなければ。
「………」
 琴音は目を閉じて幸せそうな顔をしている。
「あ、えっと…その…」
 いよいよやばくなってきた。
「………」
 でも琴音の背中から伝わってくる安らいだ空気を途切れさせるわけにはいかない。
 が…もう限界だ。
「ヒロユキ?」

 かくっ

「きゃっ!?」


                    ☆★☆


「あーあ、琴音ちゃんに情けないところみせちゃったな」
「そんな事ないですよ」
「ソウソウ、疲労した金属はポッキリ折れるね」
 浩之がダウンしてしまったため、三人はしばらく草陰で休む事にした。
「でもちょっとゲンメツしただろ?」
 苦笑混じりで浩之が問う。
「全然」
 でも琴音は微笑みで返した。
「逆にちょっと安心しました」
「安心?」
 浩之は目を丸くした。
「はい、浩之さんは何でもできるスーパーマンなんかじゃくて、わたし達と同じただの人
なんだなって」
「ははは、オレがスーパーマンだったらそこらへん神様だらけだな」
「くす…そうですか?」
「Oh! アタシもGodに会ってみたいデス!」
「楽しそうですね…」
「!?」
 何時の間にか彼らの前にひとりの女性が立っていた。
 紫の軍服をまとい軍帽とマントを羽織ったその女性を見て、琴音とレミィが声を上げた。
「大尉!」
「この前のヒメカワ星人!」
「は?」
 浩之ひとり、誰だか分からない。
「この人はヒメカワ軍の大尉です。実は一週間前わたしを迎えに来たのがこの人なんです」
「ひとつだけ間違いがあります」
 女性はフッと笑った。
「今は『将軍』です。琴音様」
「え!?」
「世に言うスピード出世ですね」
「あなたという人は…また何かしたんですか!」
 珍しい事に琴音が怒りを露にしている。
「な、なあ琴音ちゃん。盛り上がってるところ悪いんだけど、オレには何が何だかまった
く分からねえ」
「このヒトショーグンだったんデスカ? アタシも知らなかったヨ」
「簡単に言うと…この人は目的のためには手段を選ばない人だって事です」
 琴音は、その将軍を見据えたまま答えた。
「手段を選ばない?」
「そう…今までに何度も悪どい行為を繰り返してはそれを揉消してきたんです」
「ずいぶんと嫌われたものですね」
 その将軍はやれやれを両手を広げた。
「まあ、あなたにどう思われていようと私には関係ありません。時間が無いのです。お急
ぎ下さい」
 そう言って、腰に差してあった拳銃に手をかけた。
 もし抵抗するなら実力行使も辞さないとの意思表示だろう。
「………」
「どうする、琴音ちゃん」
「ウ〜ン」
 見たところここにいるのは彼女ひとりだ。
 三人でかかれば倒せそうな気がすし、頭である彼女を倒せば他の兵士の士気も下がるはず。
 しかし、もし伏兵が潜んでいたら…
 琴音は取り押さえられ、恐らく浩之とレミィは助からない。
 だからと言ってこのまま膠着状態が続いたら追手が来るかもしれない。
「もう一度言います。時間が無いのです。今ならあなた達の無礼も見なかった事にしてあ
げましょう」
 その言葉に浩之はカチンと来た。
「ふざけんな!」
 浩之が吠える。
「ここまで来てみすみす引き下がれるかよ!」
「そうですか…」
 将軍の目が琴音を捕らえる。
 ビクッと琴音の体が震えた。
「琴音様」
「な、なんですか?」
「あなたはどうなのですか? この者達を命の危険にさらしてまで自由を勝ち取るか、そ
れとも大人しく私達に付いて来るか」
 卑怯な質問の仕方だ。
 このように問えば、絶対に琴音は返答に詰まる。
「どうなのですか?」
「………」
「琴音様?」
「…私はあなたにだけは屈しません」
 琴音は、はっきりとそう答えた。
「それは私への宣戦布告と取って構わないのですね?」
「構いません」
「そうですか…」
 チャッ
「「「!?」」」
 将軍は、あろう事か琴音に向かって銃を向けた。
「なんのつもりだ!」
「知れた事…我々の意志に逆らう者には死を」
 口調が変わった。
 思い通りにいかないと分かったため、本性を出したようだ。
「死って…殺しちまったら元も子もねえだろ!?」
「別に琴音である必要は無い。我々が欲したのは女王候補という操り人形だったのだからな」
「操り人形…キサマ、まさか!」
「そう、女王を抹殺し、新女王を裏から操る」
 悪びれる風も無く、彼女は容易く言って見せた。
「女王様…まさかあなた達が女王様のご病気を!?」
 琴音が叫ぶ。
「いや、あれは本物だ。『ただの風邪』ではあったがな」
「それにかこつけて自分達が権力を握ろうとしたわけか。随分とまあ、基本に忠実と言う
か…」
「それは誉め言葉として預かっておこう」
 浩之得意の皮肉も空回りだ。
「デ、デモ…コトネを殺しちゃったらその計画潰れちゃうヨ? それじゃ困るでショ?」
 レミィが苦しい説得を試みる。
「問題無い。他の女王候補を使えば済む事」
「テ、テメエ…人を物みたいに…」
「ただ、裏から操るには琴音が最も適していた。何せ格下の人間相手でも反論する事すら
できないのだからな。しかし驚いた、僅か数ヶ月でここまで変貌しているとはね」
「………」
「さて、琴音の代わりに誰を使うか? …そうだな、琴音の娘というのも悪くない。彼女
を今から徹底的に教育すれば立派な我々の傀儡になってくれるだろう」
 浩之はもう声も出ない。
「クズが…」
 ただ一言、それだけが出た。
「何か?」
 涼しい顔で将軍が訊ねる。
 浩之はすぅと息を吸い込み、
「クズ野郎が! 今までいろんな人間に会ってきたがよ。キサマほどのクズ野郎に会った
のは初めてだぜ!」
 胸に溜まった罵詈雑言をぶちまけた。
「テメエなんかに琴音ちゃんを渡してなるか! 琴音ちゃんはオレが護る!」
「ならば護ってみよ!」
 将軍は銃を浩之に向けた。

(どうする…?)
 浩之はレミィに目配せした。
(迷ってても仕方ないネ。イチかバチかヤルしか無いワ)
 普段はノーテンキで大ボケな彼女も、このような極限状態では頼もしいパートナーになる。
 狩猟民族としての性だろう。
(よし、じゃあ一斉にいくぜ!)
 ギリッ
 レミィが素早く矢をつがえる。
 将軍の目がそちらを向いた。
(チャンス!)
 浩之は素早くダッシュをかけた。
「もらったっ!」
「!?」
 ふたりがすれ違ったほんの一瞬、浩之は構えていた銃を奪い取った。
「どうだ! サラの『盗む』の能力は」
 浩之の『見よう見まね』炸裂。
 実はこの前サラに財布(しかも小遣いもらった直後)をすられて覚えたというのは秘密だ。
「さあ、覚悟してもらおうか」
 こちらには銃を持った浩之と弓を構えたレミィがいる。
 対して相手は丸腰。
 しかもどうやら伏兵はいないようだ。
 つまり三対一。
 しかし、将軍は少しもうろたえるような素振りを見せなかった。
 逆に不適な笑みを浮かべてさえいる。
「おい、何余裕こいてんだよ!」
 その様子に苛立ち、浩之が声を荒げた。
「浩之さん…」
「ん?」
 琴音がこっそり浩之に耳打ちする。
「ヒメカワ兵士はみんな武器なんか無くても十分強いんですよ」
「え? そうなの?」
「武器に頼るのは下位の一般兵だけです。上位の兵なら…」
「その通り!」
 ビクンッ!
 浩之の体が硬直した。
「な…!?」
 全身を鎖でギリギリと締め付けられるような感覚。
「ぐ…一体何が…?」
「やめて!」
 琴音が念動力を放つ。
 しかし何も起きなかった。
「コトネ?」
「力が大きすぎて全然相殺できない!」
「クッ!」
 レミィが浩之に駆け寄る。
「ヒロユキ! 今アタシが…アウッ!」
 バチッ!
 浩之の体に触れたとたん、彼女は勢い良く弾き飛ばされ大木に叩き付けられた。
「宮内さん!」
「ダ…ダイジョブ…」
 レミィはヨロヨロと立ち上がった。
「それよりヒロユキが…」
「ぐああああ…」
 浩之の体は浮かび上がり、苦しそうなうめき声をあげている。
(このままじゃ…)
 浩之は確実に殺される。
 そして、レミィと琴音も…
(そんなのは嫌!)
 自分が死ぬのはそんなに恐くなかった。
 元々自分の蒔いた種なのだから。
 でもそれの巻き添えをくらって他の人まで死ぬのは死ぬより辛かった。
(どうすればいいの!?)
 彼女は必死に答えを探した。
 でも見つからなかった。
 通常時のレミィはそれほど強いというわけではない。
 変身すれば話は別だが、満月が出ていないのでそれは無理。
 助けを呼ぶ…残された選択肢はこれだけだ。
 しかし助けを連れて来るまで浩之が持つようには思えない。
(わたしには…何もできない…)
 琴音はがっくりと膝をついた。
「コトネ!? ドーシタノコトネ、シッカリして!」
 何かが聞こえて来る。
 しかしそれだけだ。
 彼女の意識はもはや遠いところにあった。
(どうせ助からない…だったらジタバタするだけ無駄…)


『琴音ちゃん…』
 声が聞こえる…
『琴音ちゃん、また逃げるのか?』
(もう、疲れました…)
『琴音ちゃん、逃げたら助かるものも助からないかもしれないんだぜ?』
(どっちにしろ助からないんです)
『琴音ちゃん、自分の事しか考えてないだろ』
(みんなの事を考えて行動したからこうなったんです!)
『もしここで琴音ちゃんが諦めちまったらよ、オレ達のやってきた事はみんな無駄だった
事になるんだぞ!』
(わたしだって諦めたくないですよ! じゃあどうしろって言うんですか?)
『戦うんだ…もし戦うだけの勇気が持てないなら、せめて誰かを頼ったらどうだ?』
(頼れる人なんてもういないですよ!)
『………』
(もうほっといてください!)
『………』
(なんで死ぬ寸前までこんな苦しまなきゃいけないんですか? わたしが何かしたって言
うんですか!)
『何もしてない』
(そうですよ。わたしは何もしてないんです)
『何もしないからこうなったんだ』
(え?)
『もう一度言おう。もし戦うだけの勇気が持てないなら、せめて誰かを頼ったらどうだ?』
(それが…?)
『”戦うだけの勇気が持てない”なら、せめて誰かを頼ったらどうだ?』
(!?)
『分かったか?』
(………)
『勇気を持て。そして、戦え』
(戦う…)
『助け合うのと頼るのとは別物だ。いつまでも人に頼ってばかりいるんじゃない』
(頼る…)
『自分の力で…未来を切り開け!』


 すくっ
 琴音は突然立ち上がった。
「コトネ…? ダ、ダイジョーブなノ?」
「宮内さん…援護をお願いします」
 琴音はレミィの問いには答えず、右手の人差し指と中指を揃え、額に当てた。
 そのまま目を閉じ、呼吸を整える。
 キィィィィィィィィィィィン…!!!
 琴音を中心に高い金属音が響き始めた。
「その技は…?」
 将軍の目が琴音に向けられる。
 彼女の体は白く発光し始めていた。
「ス、スゴイヨコトネ! ヨク分からないケド!」
「ふっ…」
 レミィは興奮した風に叫ぶが、将軍は小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「まだ自分の立場というものが分かっていないようだな。お前のようにのほほんと暮らし
てきた小娘が、我ら軍人に敵うとでも思っているのか?」


(私の勇気…)
 琴音はひたすら集中していた。
(勇気を出す…わたしに足りないのは勇気…)
 自分の内にある、秘められた力を掘り起こしてゆく。
(足りないのは勇気だけ…それさえあれば、わたしは戦える)
 じわじわと自分に力がみなぎって来るのが分かる。
(わたしには、わたしを大切に思ってくれる人達がいる。そして、自分で道を切り開くだ
けの力も持っている)
 とても気分がいい、今なら何でもできそうな気がする。
(そう…わたしは勝てる)
 琴音はゆっくりと目を開いた。
(負ける要素は無い!)


 琴音の目に飛び込んできたもの。
 それは驚愕し、顔を引き攣らせた将軍の姿だった。
「馬鹿な…特別な訓練も受けていないお前が何故このような力を持っている!?」
 琴音は一歩前に出た。
「力は誰だって持ってるんです。ただ、それを引き出せるかどうか」
 半身になり、指を額から離して標的に向ける。
「いきますよ…」
「くっ!」
 将軍は慌てて前方にバリアを展開した。
「無駄です…」
 琴音の指先に眩い光が灯る。
「必殺…魔貫光殺法!」
 螺旋状の光を伴った一条の光線が放たれる。
 それはバリアを容易く打ち破り、将軍の胸を貫いた。
「ば、馬鹿…な…」


「はあ…はあ…はあ…」
 琴音は荒い息を吐きながら、弱々しくも未だに立ち続けている将軍を見据えていた。
「くく…」
 将軍の口から笑いが漏れる。
「はっはっはっ………ハーッハッハッハッ!」
 それはやがて高笑いになった。
「負ける? 我がこのひ弱な小娘に負けるだと!? そんな事が許されていい訳が無い!」
「………」
 琴音は無言で狂った女性を見詰め続けた。
「だが我はただでは死なん! 貴様共も道連れだ!」
 彼女は懐から銀色に光る小箱を取り出した。
「マサカ!?」
 今までぼーっとしていたレミィが顔を強張らせた。
「けっ、悪役ってのはどうしてどいつもこいつも同じ事考えるかね」
「ヒロユキ!」
「藤田さん…」
 ふたりの後ろに、何時の間にかしっかりと二本の足で立った浩之の姿があった。
「悪役が最後に出す自爆攻撃は絶対効かねえって法則があるんだよ!」
 浩之は大きく腕を振りかぶった。
「いくぜ! 必殺、見よう見まねの…」


                    ☆★☆


 次の日、浩之はどんよりとした空気を纏って通学路をトボトボ歩いていた。
 何故か今日は傍らにあかりがいない。
 それどころか、同じ学校の生徒達が浩之を見るやこそこそと離れていく。
「ちっくしょ〜」
 浩之、男泣き。
「大体なんで最後の最後にあんな技が暴発するかな〜」
 背を丸めて溜め息を吐く。
「お陰で琴音ちゃん泣いちゃうし、レミィには軽蔑されるし、志保ちゃんニュースで尾ひ
れ背びれついて学園中に流れるし…」
 はたと立ち止まる。
「はあ〜」
 再び大きな溜め息を吐いた。
 昨日、浩之は実に頑張った。
 本来ならば、学園の生徒達に拍手で迎えられるべきなのだ。
 しかし一連の計画は秘密裏に進められて来たため、その活躍の部分は全くと言っていい
ほど知られていない。
「いいさ、きっとそのうち誰かが真実に気付いてくれる」
 がっくり肩を落としたまま、靴箱を開ける。
 中に白い封筒が入っていた。
 ズザザザザザッ
 浩之、高速バックダッシュ。
(カミソリメール…? それとも爆発物か!?)
 忍び足で近づき、指先で封筒を摘まんだ。
(どうする?)
 周りをキョロキョロ見回す。
「やあ浩之」
「ま、まま雅史!?」
 浩之は慌てて封筒をポケットに突っ込んだ。
「どうしたの?」
「い、いや別に…それよりお前…」
「ああ、噂の事? 別に気にしてないよ」
 雅史は輝くような笑顔を浮かべた。
「だって浩之は僕のも…」
 ガコンッ!
 浩之は雅史を頭からごみ箱に叩き込んだ。


「どうやら罠じゃねえみたいだな」
 その日の放課後…すでに日が沈みかけているが、浩之はようやくその封筒が罠でもなん
でもなくただの手紙である事を突き止めた。
「何しろこの前なんかいかにもラブレターってな感じの封筒に超薄型反物質爆弾が仕込ん
であったもんなー」
 ぴりぴりと封を切る。
 中には一枚の手紙が折り畳まれて入っていた。
 広げてみる。
 可愛らしいイラストが周りに描かれた、いかにも女の子といった感じの物だ。
 そこには短くこう書かれていた。

『藤田さんへ
 昨日は大変なご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
 つきましては、ささやかながら何かお礼をしたいと思い手紙を出した所存です。
 今日の昼休み、体育館の裏に来てもらえませんか?
 あ、もし迷惑だと思うのならいいですが。
 それではお待ちしていますので。
                                 姫川琴音』

 浩之はその手紙を持ったまま硬直していた。
 ぎぎっと首を動かし、時計を見る。
 夕方5:30
「………」

『今日の昼休み、体育館の裏に来てもらえませんか?』

 浩之はがっくりと膝を突き、次の瞬間には飛び起きて叫んでいた。
「琴音ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」



 その頃、黄昏丘では…
「藤田さん…わたしのお礼なんて迷惑なんですね…」
 琴音が思いっきりたそがれていた。



                                 〜Fin〜
────────────────────────────────────────

 PS版東鳩琴音シナリオ大幅改定萌え度アップ記念作品です(半分本当)
 とりあえず出せば場が(破壊されて)治まるという、ある意味ジンvsD芹みたいな扱いに
なりつつあるヒメカワ星人。
 それはそれでとっても大好きですが、元々琴音ってシリアス薄幸キャラですし、PS東
鳩で感動しちゃいましたし(後の方が本音)…
 ここは一発シリアスでもかますべえかと奮起しちゃったわけです。
 …でも初めは全然違う話だったんですけどね。
 全ては変わってしまった琴音シナリオが悪い(しつこい!)
 初めの案では、琴音が重い病に倒れて、特効薬のミヤウチ星人の生き肝を巡って琴音萌
え軍団(軍団っていうほど人数いないけど)とおせっかい王浩之がバトルしつつレミィを追
うという話でした。
 でも導入部とオチは書けてもその間が書けない。
 よってお蔵入りになりかけていました。
 が、PS東鳩を購入。
 琴音シナリオをやってしまったばかりに(まだ言うか)琴音シリアス化計画が勝手に発動。
 こんな話に化けてしまいました。
(注:この話で書かれている、琴音が入学当時虐められたとか、ヒメカワの女王が倒れた
とか、将軍が悪人とかいうのは、作者の勝手な創作なので他の方は無視してしまってくだ
さい)


 (自分としては)かなり長くなってしまったこの話ですが、実は削ったエピソードもい
くつかあるんですよね。
 主な物では…

 ●琴音が帰る前日の日曜日、浩之が鬱状態の琴音を連れ出し遊園地でデート。
  →琴音萌えの人が暴走しそうだったので削除(笑)

 ●逃げる浩之と琴音の前に逃亡計画を知った西山が立ちふさがる。
  「ここまでするからにはそれなりの覚悟があるんだろうな、藤田浩之!」
  んで熱い問答が繰り広げられ、浩之の熱意に西山が打たれ、道を開ける。
  →オレにそんな問答を書けと?
   無理っス(爆死)

 ●琴音を助けたレミィ、しかしヒメカワ兵に撃たれて倒れる。
  琴音はレミィの前に立ちはだかり殺気立つ兵士達を説得する。
  →初めはクーデターの設定が無かったんで『説得』というのもアリだったんですが…
   クーデター起こしてる相手に説得しても自分が撃たれるだけだわな。

 …などがあります。
 実は浩之と琴音のベッドシーン(滅殺)も入れようか削ろうか悩んだんですが…
 既に書いちゃった後だったんで、せっかくだから残しとく事にしました(笑)


 この作品でヒメカワ星人観を変えられたら嬉しいななどと思ってたり…


(そういやこの話って浩之主役化計画とも取れるなあ…(笑)
 ちなみにオレは、冬弥以外の主人公(祐介、耕一、浩之)はみんな好きです。
 なんで冬弥だけ好きじゃないかって?
 だって…ねえ…?(笑))