**************************************** 放課後の夕方、姫川琴音は校舎から少し離れたこんもりと盛り土のされている場所…通 称黄昏丘にいた。 黄昏丘…そこは魔法少女にされてしまった学園決戦エルクゥ兵器や別人格に人気を奪わ れてしまったトレジャーハンターやらが訪れ、ほえ〜っとたそがれていたところから名づ けられた。 今では学園の名所のひとつに数えられるそこで、彼女は何をするでもなく、体育座りで 夕日を眺めていた。 でも、彼女は別にたそがれにここへ来たわけではない。 ここからだと夕日が綺麗に見えるから、それが理由だった。 ゆっくりと、しかし目に見える速度で沈んでいく太陽。 やがて完全に沈み、空には控えめに優しい光を放つ月が現れるだろう。 そして新しい明日がやってくる… 「明日か…明日は何が起こるのかな?」 心底嬉しそうに、穏やかな笑みを浮かべながら彼女は呟いた。 太陽が完全に沈んでしまった後、まだ空は赤く染まっているが… 琴音はすっくと立ち上がった。 「さ、帰ろう」 パンパンとスカートに付いた芝生を払い、歩きだそうとしたその時。 草むらで何かが動く気配を感じた。 「誰!?」 草むらに隠れて様子を伺っていたレミィは慌てた。 自分の迷彩は完璧だったはず。 ちゃんと迷彩服を着ているし、顔にはペイントを施しているし、頭から葉っぱやら枝や らを被っている。 まあ、強いて言うなら迷彩服が砂漠用だったり、ペイントがJリーグ風だったり、葉っ ぱがバナナの葉だったりするが、それは些細な事だ、問題無い。 とにかく彼女はこの場から逃げようとした。 自分が琴音を見張っていた事を知られてはいけない(すでに公然の秘密という噂もあるが) しかし、レミィは彼女の顔が自分とは違う方へ向けられているのに気が付いた。 そちらへと目を向ける… 「ぁ…!」 思わず声を出しそうになって口を手で押さえる。 (あのヒトは…?) そこにはもうひとりのヒメカワ星人が立っていた。 そのヒメカワ星人は、人間に直してだいたい20歳程度だろうか? ただ、人間とは成長のしかたが違うため本当の年齢は分からない。 彼女はビシっとしたスーツのようなものに身を包み、滑るような歩みで琴音に近づいた。 対して琴音は顔を曇らせる。 やや逃げ腰だ。 (コトネが、あのヒメカワ星人を恐れている…?) 琴音はヒメカワ星の次期女王候補のはず。 普通なら琴音の方が恐れられるはずなのだが… (何故ここにこの人が…!?) 琴音は混乱していた。 自分は今、ただの一学生としてこの学園に通っている。 だから彼女がここにいる必要は無いはずだ。 嫌な予感がした。 とてつもなく嫌な予感が。 ぴたり 目の前の女性の足が止まる。 琴音との距離は約1メートル。 静止するふたり。 そのまま一分ほど経っただろうか? 彼女が口を開いた。 「琴音様、ご機嫌麗しゅうございます」 「………」 琴音は答えない。 「連絡も入れずに突然訪問し、誠に申し訳ありませんでした」 (嘘だ…本当はそんな事思ってないくせに) 心の中で呟く。 「失礼ですが、早急に本題へ入らせていただきます」 「………」 「女王様が病に伏され、寝込まれてしまいました」 「!?」 (女王様が…?) 敵意に満ちていた顔が驚きに歪む。 「それだけならば特に問題にはならないのですが…実は、女王様の回復の見込みがないの です」 「え!?」 「当然最高の医療スタッフを用意しました。しかし、それでも助かるかどうか…」 「そんな…」 ギュッと制服の胸の部分を握り締める。 「そこでですね…」 女性が冷たい目を向ける。 「琴音様、あなたに今すぐヒメカワ星へお帰りいただきたいのです」 「今すぐですか!?」 「現在女王様のご病気は国家機密として処理されております。しかし、情報が漏れるのも 時間の問題。そこで私達王家に仕える者達で協議した結果、琴音様が女王様の代わりを勤 めるのが最良の策との結論が出ました」 「それはつまり…」 「はい、女王様の代わりに星の統治をして頂きたいのです」 「………」 「ご了解頂けましたか? それでは早速…」 女性は琴音の返答も聞かずに背を向けた。 「待って下さい!」 慌てて琴音が追いすがる。 「何か?」 「それで…どのくらいの期間、女王代理を勤めればいいのですか?」 「女王様のご病気が完治するまでですね…ただ、お亡くなりになられてしまった時は、そ のまま女王の地位について頂きます」 琴音の顔がさぁーっと青くなった。 「それはつまり…もうここへは戻って来れないという事ですか?」 「そういう事になりますね…それが?」 「………」 その瞬間、琴音の頭の中を、今までの学園生活の思い出が走馬灯のように駆け巡った。 冷静に考えれば、四月の入学式からのわずかな期間に過ぎない。 しかし、その数ヶ月の思い出は彼女にとって何事にも代え難い物だった。 異文化との遭遇、他種族との交流、その結果得た大切な友人達… 普通に女王候補として生きていたら絶対に得られなかった楽しみと安らぎ。 使者の言う事は、つまりそれらを全て投げ捨てろという事だ。 (そんなのは絶対に嫌…) しかし、次期候補とはいえ女王。 自分の臣民達を放っておくわけにもいかない。 一個人『姫川琴音』を取るか、次期女王候補『プリンセス琴音』を取るか… 「琴音様?」 彼女の中で激しい葛藤が起こり… 「一週間…一週間時間をくれませんか?」 「何故ですか?」 「皆さんとちゃんとしたお別れをしたいんです」 『プリンセス』としての自分が勝った。 「…お別れですか…そうですね、本当は事態は急を有するのでそんな暇はないのですが、 きちんと礼儀を払うのも大切な事。仕方ありませんね」 「ありがとうございます…」 (何故感謝しなければならないのだろう) 条件反射的に頭を下げてしまった後で、琴音は心の中で舌を鳴らした。 彼女は自分の大切な物を奪おうとしているのに… 「それではこの星の暦で一週間後…来週の月曜日ですね。その日の正午にこの学園の裏に ある神社で待っています」 「はい…」 ヒメカワの使者は、用件が終わるとさっさと踵を返して去っていってしまった。 その場に残されたのは琴音、ただひとり。 ぽつん… 芝生に一滴の雫が落ちる。 「なんで…」 くぐもった声がもれる。 「どうしていきなりそんな事…」 琴音はその場にうずくまり、声を上げて泣き出した。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Lメモへーのき番外編8 〜我が姫を解き放て女王〜 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (コトネが星に帰る…?) 一部始終を覗き見ていたレミィは、目の前で行われたやり取りを信じる事ができなかっ た。 彼女はヒメカワ星の次期女王候補、姫川琴音を監視する目的で送り込まれたミヤウチ星 の調査員だった。 つまり、彼女がいなくなれば自分もここにいる理由が無くなってしまう。 本当だったら任務の終了を喜ぶべきだろう。 でも彼女はとてもそんな気分にはなれなかった。 そう、彼女もこの学校を愛してしまったから。 大切な友人がたくさんできてしまったから。 (アタシは…どうすればイイノ…) ☆★☆ 次の日… 「ちょーっと大変大変大変よ〜〜〜!!!」 「間に合ってます」 志保が教室に飛び込むタイミングを見計らい、浩之はピシャリと扉を閉めた。 ズガッシャァァァァァァァァァン!!! 「やっぱり騒音は元を断たなきゃな」 宿敵を葬り、意気揚々と自分の机に引き上げる浩之。 が、そんな程度で引き下がるほど志保のジャーナリズムは甘っちょろくなかった。 「ちょっとー! 今のはマジで痛かったわよ!」 「そりゃそうだろ、痛いようにやったんだから」 「なんですって〜〜〜!」 かくして始まる低次元な口喧嘩。 ふたりの醜態を見ようと野次馬が集まりはじめたその時。 「ね、ねえ志保。何か私達に用があったんじゃないの?」 あかりがふたりの間に割って入った。 「ああ、そういえばそうだった。私にはみんなを情報欠乏症から救うという大事な任務が あるんだった」 「ガセネタ中毒になるぐらいなら情報欠乏症の方がいいや、オレ」 「キーッ!」 「し〜ほ〜!」 とまあ、いろいろやり取りがあって… 志保は教壇に立ってみんなを見回していた。 「今日の志保ちゃん情報はちょっと凄いわよ」 みんなの興味を煽る志保。 「煽るだけならオレは寝る。おやすみ」 「ああ、ゴメンゴメンヒロ〜」 卑屈な志保。 でもすぐ立ち直り、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。 自身たっぷりに、自分の仕入れてきたHOTなネタを披露する。 「実はね………一年の姫川琴音さん、来週の月曜に転校するらしいのよ!」 「「「なにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」」 もともと転校転入の多いLeaf学園では、生徒の入れ替わりはそれほど珍しくない。 しかし、それが学園でも有数の有名人だったらどうなるだろうか? 「琴音さ〜〜〜〜〜ん!」 「琴音ちゃんは俺んだっ!」 「琴音さんのいない学園なんてコーヒーの入ってないクリープと同じだっ! って何しや がる、うわっ!?」 「だから琴音ちゃんは俺ん(さくっ!)がはっ!」 通りすがりの柳川教諭がふたりを狩り取ると、ようやく一年の教室にいつもの空気が戻 ってきた。 「ったく、何考えてんだか…」 耕一は、だくだくと赤い液体を流し続ける肉塊を教室の隅に蹴飛ばすと、何事も無かっ たかのように授業を再開した。 ざわついていた生徒達もすぐ普段の授業態度に戻る。 しかし、一部に普段の態度とは違っている生徒もいた。 「ねえ、本当に転校しちゃうの?」 たまたま隣の席になっていた初音が、いつも通りの控えめな声で訊ねる。 「うん…」 少し困ったような顔で、控えめに答える琴音。 「そっか…寂しくなるね…」 夕暮れの黄昏丘、琴音はまたここに来ていた。 昨日のように夕日を見に来たわけではない、たそがれるためだ。 「みんなにはただの転校だって言っちゃったけど…よかったのかな…」 実際は違う。 彼女はヒメカワ星に帰ってしまい、おそらく二度と地球には戻れない。 「みんな行動力のある人達ばかりだから…もしかしたら転校だと信じて地球中を探し回る かも…」 そしてすぐに彼女が嘘をついていた事に気付くだろう。 「そうしたらヒメカワ星まで追いかけてきたりして…」 クスリと笑みを浮かべる。 が、すぐに元の沈んだ表情に戻る。 「たとえそうやって再会できても…わたしがみんなに嘘をついていたのは変わらない…」 彼女は膝の間に顔を埋めた。 「わたしはどうすればいいの…? みんなを安心させるため嘘を突き通す? それとも悲 しませるのを承知で本当の事を言う?」 「よっ、琴音ちゃん」 びくぅっ! 突然後ろから声をかけられ、琴音は心臓が飛び出るほど驚いた。 「ふ、藤田さん!?」 声をかけた主、それは彼女のひとつ上の先輩、藤田浩之だった。 「どーした琴音ちゃん、そんなたそがれてさ」 「べ、別にたそがれてたわけじゃないですよ。わたしここから見る夕日が好きなんです」 まあ、嘘ではない。 「たしかにここからは夕日が綺麗に見えるよなー」 浩之は琴音のすぐ後ろまで歩いて来ると、目を細めて沈みゆく太陽を見詰めた。 少しの間そうしていたが、ふいにくるりと顔を琴音に向ける。 そして、いつも通りの緊張感の無い声で言った。 「でもさ、琴音ちゃん。今日は違かったんだろ?」 「え? 何がですか?」 「ここに来た理由」 見透かされている… 彼女は正直、この先輩にだけは敵わないと思った。 「琴音ちゃん、隣いいかな?」 「あ、はい」 浩之はどっこいしょと腰をおろす。 「………」 「………」 そのまま何を言うでもなく、ふたりは夕日を見詰め続けた。 「………」 「………」 気まずい雰囲気。 「あ、あの…遅くなるといけないんで、わたし帰ります!」 琴音は傍らにあったバッグを胸に抱くと、すっくと立ちあがった。 「失礼します!」 がしっ! 「!?」 浩之の手が、琴音の左手首を掴んでいた。 支えを無くしたカバンが重力に引かれて芝生に落ちる。 「藤田さん…?」 浩之は真剣な顔で琴音を見つめ返している。 「あの…手、痛いです」 「………」 琴音の控えめな拒否の言葉にも、手を離そうとはしない。 「藤田さん…」 「逃げるのか?」 ぴくっ 『逃げる』という言葉に琴音は過剰に反応した。 「な、なんの事ですか?」 「琴音ちゃん、また逃げるのか?」 目的語の無い答を返す浩之。 でも琴音にはしっかり分かっていた。 入学当初、彼女はそのヒメカワ星人特有の能力によりバケモノ扱いされた事があった。 もともと気弱な彼女は反論する事もせず、ただその状況に甘んじるだけ。 そう、戦う事から逃げたのだ。 幸い、彼女に好意や同情の念を持つ者や、弱い者虐めをよしとしない人物達のおかげで すぐにそのイジメは無くなったが… 「琴音ちゃん、逃げたら助かるものも助からないかもしれないんだぜ? 戦うだけの勇気 が持てないなら、せめて誰かを頼ったらどうだ?」 はっきりと、普段の彼からは想像もできない重々しい言葉を紡ぐ浩之。 「頼るんですか…?」 琴音はそんな彼の目を見る事ができない。 「ああ、前の時みたいにみんなが自主的に助けてくれるとは限らないんだぜ?」 「そうですね…」 浩之は琴音の手首を放すと、地面に転がっていた鞄を拾い上げ、草を払った。 「ま、今すぐ言えとは言わねえよ。それにオレ以外の奴の方がいいかもしれねえし…はい よ、鞄」 「あ、ありがとうございます」 琴音は鞄を受け取った。 「んじゃ、今日はそれだけだからよ。また明日な」 浩之は背中を向けると手を挙げた。 「待って下さい!」 「ん?」 琴音に呼び止められ、くるりと首だけを回転させる。 「あの…藤田さんはどうしてわたしが隠し事をしているのが分かったのですか?」 「ああ、それね」 ん〜っと腕を組む浩之。 「ま、琴音ちゃんへの愛かな?」 「え"…?」 ボッ! 琴音の顔が火を吹いた。 「じゃーなー」 自分の台詞に照れたのか、浩之はオーバーアクションで手を振りながら駆けていった。 「藤田さんったら…」 まだ火照っている頬を手のひらで覆う。 冗談なのか本気なのか分からないところがタチが悪い。 でも、たとえ冗談だとしても悪い気はしなかった。 ☆★☆ 次の日の昼休み、運良く食堂の抗争に巻き込まれずにカツサンドとウインナーロールを 手に入れられた浩之は、ほくほく顔で屋上に向かっていた。 ちなみに連れの雅史は、ジンとDセリオの戦闘に巻き込まれ肉片になったところを柳川 に保護され、今頃は試験管の中で煮立っていい感じになっている事だろう。 まあいい、どうせ明日には生き返る。 たいして気にも留めず、浩之は屋上の扉をバンと開ける。 「あれ?」 浩之の第一声はそれだった。 眩しい太陽の光。 気持ちいい風。 そんな中… 「藤田さん、待ってました」 にっこり笑った琴音が立っていた。 「琴音ちゃんとこうやって食べるのも久しぶりだなあ」 「そうですね」 一緒に昼食を摂る浩之と琴音。 実際にはすでに浩之は食べ終わってしまい、琴音だけがしずしずと食べているのだが。 「あまり食べてるところを見つめないでください…恥ずかしいです」 「はっはっは、悪い悪い………おや、コロッケが入ってるじゃん」 「あ、はい」 「コロッケか…あの時の事を思い出すなあ…」 「え…?」 琴音はちょっと首を傾げ…何かを思い出したのか、ポッと頬を染めた。 「知り合って間も無いころ、食堂でさ…」 「や、やめてくださいよ…」 口ではそう言っても、実際には嫌がっているわけではない。 「触手でコロッケ早食いの一発芸見せてくれたよね。あれは笑えたなー」 「そうですか?」 琴音はにっこりと微笑んだ。 …って、やめれ、そーゆーネタは。 琴音も弁当を食べ終わり一息つくと、お互い会話が止まってしまいふたりとも沈黙して しまった。 普段なら話を振る浩之だが、今日に限ってはそういう気の効いた事はしない。 琴音は昨日の事を言おうとしている。 恐らく大切な事なのだろう、だったら人の力など借りずに自分でしっかり言うべきだ。 さらさらさら… 風がふたりの髪を撫でてゆく。 五分ほどそうやっていただろうか? 琴音はゆっくりと口を開いた。 「実は…」 「なんだって…」 さすがの浩之もこの告白は衝撃的だった。 「琴音ちゃんが女王になるだって!? だってまだ15歳だろ!? とても政治なんて…」 「………」 琴音は黙って浩之の言う事に耳を傾けている。 「あ、別に琴音ちゃんが馬鹿だって言ってるわけじゃないんだ。ただちょっと…っていう かだいぶ若すぎるからさ…」 その沈黙を怒りの表現と取ったのか、今度は弁明を始める浩之。 「それは分かってます」 ピシャリと答える琴音。 そして、その言葉を最後に再び沈黙が訪れた。 さらに三分ほど経ち… 「そっか…琴音ちゃん、星に帰っちゃうのか…」 浩之がぽつりと、寂しげに呟いた。 そんな浩之の姿を見て、琴音の瞳が揺れる。 「でもさ」 いきなりいつもの調子に戻り、くるりと琴音に向き直る。 「琴音ちゃんは帰りたくないんだろ?」 「えっ!?」 思わず大声を出してしまい、慌てて両手で口を押さえる琴音。 でももう遅い。 浩之は既に自分の推理を仮定から確信へと昇華していた。 「あの…その…」 自分の正直な気持ちを見抜かれてしまい、しどろもどろになってしまう琴音。 そんな彼女に対し、浩之はこんな質問をぶつけた。 「どうして帰りたくないんだ? 琴音ちゃん」 「え?」 意表を突かれ、豆鉄砲をくらった鳩のような顔になる琴音。 まさかこんな質問をしてくるとは思ってはいなかった。 ショックだった。 浩之は彼女の事を理解してくれていると思ったから。 本当に理解しているのならこんな質問などしてこないはず… 「だってそうだろ? 女王様だぜ? 豪華な暮らしもできるし、飯も毎日ご馳走だし、面 倒な小用はみんな召し使いにやらせちまえばいいし…」 そんな浩之の言葉を聞いて、琴音は悲しくなった。 知らないうちに涙がぽろりとこぼれる。 「…とまあ、いい点はたくさんあるわけだが…」 浩之は琴音の変化を知ってか知らずか、話をマイペースに続けていく。 「…それでも琴音ちゃんは女王になるよりここに残る方がいいんだよな? なんで? な あ、オレに本当の理由を教えてくれよ」 「なんで…なんでそんな事言うんですか…」 琴音は完全に泣いていた。 涙は次から次へと流れ、もう止めようと思っても止められない。 「浩之さんは私の事分かってくれてると思ってたのに…」 「分かってるさ」 浩之は間髪いれず答えた。 「もしかしたらオレの己惚れかもしれない。でもオレはそこらへんの奴等よりは琴音ちゃ んの事を理解できてると思う」 「ならどうしてこんな事…!」 「本当の気持ちを聞かせて欲しいからさ」 浩之は再び真面目な顔になった。 「オレが持ってるのはあくまでも自分の推理と琴音ちゃんの態度から割り出した結果に過 ぎない。オレは本当の琴音ちゃんの気持ちが知りたいんだ」 「本当の気持ち…ですか?」 「ああ、琴音ちゃんはどう思ってるんだ? 帰りたいのか? それともここに居たいのか?」 「ここに居たいです!」 琴音ははっきりと、力強く答えた。 「わたしはこの学園に来て、たくさんの友達ができました。そして、まだうまくはありま せんが人付き合いの仕方も覚えました。それに…」 うんうんと嬉しそうに肯く浩之。 「…何より、ここにいるととても楽しいです!」 「よっしゃ!」 浩之は掛け声と共に勢い良く立ち上がった。 「そうと分かればオレが強力するぜ」 「え? 何をですか?」 「琴音ちゃんの逃避行をさ」 「ええっ!? そんな! これはわたし達ヒメカワの問題ですから!」 慌ててぱたぱた手を振る琴音。 しかし、そんな彼女に対し、浩之は優しい目で言った。 「言ったろ? 逃げるぐらいなら頼れって」 「はい…」 やがてチャイムが鳴り、ふたりは教室へと戻って行った。 その後から、ひとりの少女が現れる。 その細い髪をなびかせながら、彼女は誰に言うでもなく呟いた。 「そっか…だからそんなに悲しい電波をいっぱい出してたんだね、琴音ちゃん…」 〜続く〜