Lメモ異聞録vol.1『オリエンテーション騒動』 投稿者:悠 朔
 4月。
 新入生への入部の勧誘などで、普段でも賑やかな学校は平時を越える盛り上がりを見せ
る。
 Leaf学園に恒例の、毎回毎回懲りもせずに行われる学校行事がやってきたのは、毎
年毎年の事ながら、やっぱりそういう時の事だった。

 オリエンテーション。
 宿泊施設で数泊し、その間に高校生活の心構えなどが教師達から教授される。というの
が世間一般の高校でのオリエンテーションである。それはここLeaf学園でもなんの変
わりも無い。
「しかしな」
「なによ」
 今年の春から編入してきた2年の悠朔(はるか はじめ)は宿泊施設に割り当てられた
鶴来屋の豪奢な廊下を、同級の来栖川綾香とともに全力疾走しながらぼそっと呟いた。
「やはり全校生徒でオリエンテーションをするのはどうかと思うぞ」
「アンタが問題を起こしたんでしょうが!」
「失礼な事を言うな! 俺はただ彼女がこの辺の出身者だという話を聞いたから、面白い
ものでもあれば教えてもらおうと思っただけだぞ!」
「声かける前にどうしてこうなるって予想できなかったのよ!」
「無茶言うな!」
 彼らの少し後方を、すでに獣と化した男が破壊の余波を撒き散らしながら迫る。
「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇ――!!!!!!!」
 かつて西山英志の姿をしていたその獣が、一際激しく吠えた。
 廊下を歩いていた罪の無い生徒達が窓ガラスをぶち割り星になる。
「そっちこそあの有名な『塔』の出身者なら、この騒ぎを収めようと努力してみたらどう
なんだ!」
「収めるのはショウの役目であたしじゃないわよ!」
「彰さんなら10分前に男湯に向かったのが確認されている! 自力で何とかすること
を考えた方が懸命だと思うがな!!」
「なんであんたがそんな事知ってんのよ!」
「情報特捜部部長をなめるな!」
「新入りでしょうがあんたは!」
「影で活動する新組織の結成に許可がいるかぁー!!」

 鶴来屋の屋上、柏木梓と共に星を見上げていた久々野彰はふと、視線を階下へと向けた。
「何やら俗世は騒がしい事になっているようですねぇ」
 震撼する空気を肌で感じ、久々野はまだ余裕がある事を確認する。
「止めに行かなくていいのか?」
「綾香も一緒のようだし、一つ新入り君の実力を拝見する事にしましょうか」
 脇役ネット。信用度の低い情報特捜部と違いいずこにあろうとも…健在。
 
「だいたい、なんであたしがアンタと一緒にこんな風に走りまわらなければならないの
よ!」
「もっともな意見だが、だったらその足を止めればいいだろう!」
 ズドドドドドドドドド!!
 後方に地響きが響く中、不毛な言い争いは花咲いたまま散る様子をまったく見せないで
いる。
「アンタが止めなさいよ! そしたら女性を守って散った勇士として来栖川グループあげ
て名を残してあげるわよ!」
「御免被る! 守る相手は惚れた女と相場が決まっている!」
「あたしじゃ不満だって言う訳!?」
「…誰もそんなこと言っていないだろうが!」
「今思いっきり言ったでしょう!」
「知らんっ!」
「開き直ってんじゃないわよ!」

 廊下の様子が騒がしいのを不信に思ったRuneが個室のドアを開けた。
「あれ、綾…」
 様子を覗こうとしたRuneの顔面に、綾香の飛び前蹴りがクリーンヒットする。
「ご、ごめーん」
 そのままの勢いでRuneを乗り越え、走り去る綾香。
「し…白……って死ねるかこんなことでぇぇぇ!!」
 復活の叫びをあげるRuneに追い討ちを掛けるかのごとく突進してくる西山。その鬼のものとも見分けのつかなくなった太い腕が、Runeに打ち下ろされる。
「うぐわらうぇえええ!?」
 Rune轟沈。

「…多少の時間稼ぎにはなったか?」
「酷い事いうわね」
「言ったのは俺だがしたのは君だ」
「不幸な事故だったのよ! ……だいたいなんで誰も助けに来ないのよ!」
「話を逸らしたな。…助けなど来るはずがないだろう。冷静に考えてみることだ」
「なんでよ!」
「いいか、前回の学園祭、体育祭などで暴走した西山英志を単独で止められたものは存在
しない! 組織的な対策がなされていないなら逃亡が最良の手段だ!」
「それで?」
「判らないか? 俺達は今その英志から逃げ続けているんだぞ! 英志が近付く分だけ生
徒が逃げていくのは自明の理!」
 悠の明朗快活な3段論法の前に、日ごろふてぶてしいほど余裕のある綾香の顔が初めて
曇った。
「じゃ、じゃああたし達、捕まるか、それともアイツが諦めるまで延々と逃げ回らなきゃ
ならないっていうの!?」
「そういうことになる」
 苦り切った悠の声に、その時一条の光が差込んだ。
「おーっとぉ! そいつは短絡な思考ってもんだぜ!!」
「「ジン先輩!?」」
 誰あろうメタリックなボディを燦然と輝かせながら登場したその人物は、Leaf学園最大
級爆裂問題児と目されるジン・ジャザムその人であった。
「どういう風の吹き回しだ?」
「ジン先輩が人のために動くだなんて…」
「勘違いしてんじゃねぇよ。今回の俺様には西山英志を止めるという立派な大義名分があ
る! つまり少々の無茶は許容範囲だ!!」
「…そうか?」
 ――だいたい今までも手加減や周囲への気配りをしていたとは到底思えないが。
「安心して柳川博士に装着してもらった新兵器、究極まで進化した真・ゲッタ…」
 悠と綾香は止めていた足を再び全力で動かしはじめた。後ろも振り返らず、必死の形相
を張り付かせて。
 こんな所で突っ立ったまま、訳の判らん大いなる意志に取り込まれたくはない。

「ジンが西山に挑んだだと?」
 UMAは鶴来屋のモニタールームに飛び込み、先ほど知らされた事実を確認した。
「ああ。もう接触する」
 忌々しげにそれに答える健やか。
「勝てると思うか…?」
 誰にともなく呟くアルル。
「そんな事より早く対<ブラッツ−K>の対策を!」
 岩下信の悲痛な声がモニタールームに響き渡る。
 <ブラッツ−K>。
 たびたび暴走する西山英志。その暴走時のコードネームである。
「もう遅い……。こうなったらもう、鶴来屋が壊滅しない事を祈るのみだ。頼むジン! こ
こで止めてくれ!」
 セリスは初めて、好敵手に祈った。

「前々からてめえとは決着をつけたいと思ってたんだよ……暴走する貴様となぁ!」
 爆音ほども響く地響きをあげて向かい来る西山に指を突きつけ、ジンは威勢良く啖呵を
切った。
「いくぜ新必さ……なにぃ!?」
 見上げるほどの西山英志の巨体が一瞬の間にジン・ジャザムの目の前に立つ。
「しゅ、縮地だと? 西山にこんな力は…」
 信じられない物を見るような目でジンが西山を見る。しかし無情にも目の前の現実は消
えてはくれなかった。
 西山にとっては必殺の、ジンにとっては近すぎる間合い。
「か、か……楓ぇぇぇぇぇぇええぇぇぇー!!!!」
 また一つ、星が流れた。
 今夜は流星の多い夜である。

「そう言えば、流星は凶兆でしたか」
「いいのかなあ」
 屋上でのんびりと星を眺める二人。
 都会ではなかなか見る事の出来ない輝く星々。
 久しぶりに眺める夜景とそこに流れる時間に、二人は身を任せていた。
 彼らのもとに危険が訪れるのは、可能性としてもまだ先の事であった。
「少し、近付いてきたかな」

 ところ変わって再び廊下を走り続ける二人。
 血のつながりがないとはいえ、兄弟姉妹と思っている人物と比べてこちらは随分ババを
引いている。
「やはり無理だったか……」
「やはりって、じゃあアンタはジン先輩に勝ち目が無いって判ってたって言うの?」
「まあな…。彼には勝てない理由があった」
「勝てない…理由? なによ、それ?」
「スーパーロボットがたった一つ勝てないもの……つまり……」
 悠が言いづらそうに言葉を渋る。
「……つまり、西山英志は…"愛"の使徒だ」
「…はぁ? アンタ…どっかおかしいんじゃない?」
「くそ。だから言いたくなかったんだ。……スーパーロボットものでは"愛"があれば、
何がしかの奇跡が起きるように出来てるんだよ!」
 己の存在故に敗れたジン・ジャザム。
 人は彼を笑うだろうか。
 否。ここでは敢えて称えよう。
 彼こそ漢の中の漢だ、と。
「で、…ってことはつまりあれって」
 綾香は疾走しながらちらりと背後を示す。
「ああ。あれも"愛"の為せる技なんだろうさ」
 二人を追走する西山英志が衰える様子は全く無い。
 どころか時間が経てば経つほど、一撃の破壊の規模が大きくなっている感すらある。
「やはり、宿泊施設ってことで殺気立っている時に、無神経に声をかけたのがまずかった
か…」

「なぜなんだぁぁぁぁー!!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉん!」
 祐介とへーのきというめずらしい組み合わせは、それぞれ別な理由で殺気立ち、大いに
荒れに荒れていた。
見かけるカップルに毒電波を送り、ことごとく廃人にする祐介。
 物に当たっているので人的被害はないが、へーのきは(祐介+セバスチャン)/2という濃ゆい顔だ。それが滂沱の涙を流している様は、荒れ狂う祐介との比較もあいまって異様としか言いようが無い。
「どうして3人とも帰ってきてくれないんだああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「セリオさんがオリエンテーションに参加できないなんて…あんまりだよー!」
 どうやら恋人がいない祐介の方が切れっぷりでは勝っているようである。
 でもDセリオはそういう仕様なんだから仕方ないんじゃないか?

「今日も元気に巡回だー」
 自分で元気に、と言っておきながら覇気はまったく感じられない。
「たまにはこの似非逆刃刀真打を振り回して活躍したいよなぁ。せっかく校内巡回班に入
ったんだから、バッタバッタと敵を張り倒してさぁ……」
「そんなもんすかねぇ」
 浅黄色のだんだら袴をヒラヒラ振りながら、ぶつくさぼやくきたみちもどると、なんと
はなしに付き合う結城光。
 その5mほど先の曲がり角から、一組の男女が勢い良く飛び出してきた。
「あれ?」
「校内巡回班!?」
「ちいっ! マズい時に!」
「こらこら。廊下は走っちゃいけないよ……」
 注意するきたみちをいともあっさりと無視して走り去る二人。
 ピキッと額に青筋が浮かぶ。
「てめえら! 甘い顔してっと思ってなめてんじゃねぇぞコラァ!!」
 その背中に影が落ちたのを確認する暇も無く、きたみちと結城は空を舞っていた。
「どうせこうなると思ってたんだ…。お約束ってもんだよ。そうだろう?」
 空中で器用に肩をすくめるきたみち。
「違うんだ……俺のキャラクターはやられ役なんかじゃないんだ」
 結城光は今現在定着した感のあるこの立場に涙していた(Lメモ超外伝SP16参照)。

「……こういうのを矢尽き刀折れ、というのだろうな」
 刀を持っている者もいたが文字通りまったく手が出なかった。
「どっちも使ってない気はするけどね」
「対抗の手段があるなら教えて欲しいものだな、綾香?」
「入学早々にクラスを破壊する事3回。学食を吹き飛ばす事2回。…彼に対抗できないとは思えないけど?」
「……ここに私の愛銃があれば少しは状況も変わってくるんだが…」
「愛銃って……なによ?」
 悠がにやりと意味ありげに笑う。コレクターが見せるアレだ。
「よくぞ聞いてくれた! BARRETT M82 .50。通称バレット・ライト−フ
ィフティ。現在市販されている最強のライフルだ!」
「……そんなもん持ち出してどうするって?」
「正面から挑んで勝ち目が無い敵は、超遠距離からの精密射撃で倒すのが基本だぞ」
「この状況でどうやって狙撃するって言うのよ!」
 一瞬の沈黙。
「…ああ!」
 愕然とする悠。
「よく考えたら尊敬する英志さんに銃を向けるなんて、そんな事が出来るはずがない!」
「この馬鹿あぁぁぁ!」

 馬鹿馬鹿しいやり取りをさんざん繰り返してきたが、実際のところもう後はない。
 西山との距離はもう詰まっている。
 疲れ知らずのモンスターと化した西山とは違い、こちらは生身だ。
 疲労がたまれば、自然足も遅くなる。
「……やむをえんか」
 悠は覚悟を決めた。
「綾香……お前は止まらず全力で進め。名を残すって言ったの、忘れるなよ…」
「え?」
そのまま足を止める。
「ちょっと悠!」
「生きろ! お前は美しい!」
 悠の周りに風が集う。
 総てを切り裂き、無に帰す風が。
「殺戮と破壊しか生まない忌むべき力…。封印していたこの力を使ってでも! 英志さ
ん! 貴方を止める!!」
 カッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「……………………………………………………………………………………………ああ?」
 大見得を切ったその瞬間、悠は西山の放った閃光に巻き込まれていた。
 綾香もろとも。

「ふむ……5階ですか。なかなか頑張った方ですかね」
 久々野は"浩之に芹香先輩が落とした魔法大全を渡す男子生徒"から報告を受け、星を
眺める姿勢のまま呟いた。
「ほら。アイツはあんたを探してんだろ? 行ってやんな」
 梓が"噂話に花を咲かせていた志保の左隣にいた紫の髪の女子生徒"の手で、一階ロビ
ーで保護されていた楓を促す。
 その頬が赤く染まっていたかは、夜の帳の悪戯か、誰にも判らなかった。
 西山の暴走が止まるのは、その後わずか数分の事である。

「ゆーさく。あんた結局は何がしたかった訳?」
「ゆーさくってお前、俺をそう呼ぶなって入学から何度…!」
 そこで小さく舌打ちする。
「……すまん」
「ま、いいわ。最後は守ってくれたんだし」
 綾香がケタケタ笑う。
 言葉通り綾香の体には傷一つ無い。
 対して悠はズタボロだった。
「そう思うならどいてくれ」
 西山の閃光から庇った上、5階から地面に激突する際に律義に下敷きになったのだ。風
のガードが無ければ確実に死んでいる。
「……綾香? 頭でも打ったか? ……おい!」
「うるさいわね。……いいじゃない、もう少しこのままで居ても。星がすごく綺麗よ」
「……ああ。そうだな」
 かくして伝説に成り損ねた男は、それなりの幸せを感じる時間を手に入れていた。

エピローグ

「そうか。ジンにとっては残念な結果に終わったな」
「貴方にとって…ではないのですか。柳川先生?」
「ふ。所詮、奴と俺とでは求める力が違う。奴が敗れたからと言って俺が敗れる理由には
ならん」
「…なるほど……ね」
 彼の脳裏をエルクゥユウヤのスネ毛やミニスカが過ぎったかどうかは定かではないが、
久々野はいささかうんざりした表情を浮かべた。
「こらぁぁぁぁ!!」
 突然ガラリとドアが開き、科学部部室の薄暗い空間に廊下の明りが差し込む。
「ち、千鶴先生!?」
「む?」
「このあいだ、鶴来屋を破壊した騒動は…あなた達が手を引いたんですってね……」
 シャキン!
 千鶴さんの爪が30cmほど伸びる。すでに戦闘態勢だ。
「弁償しなければ、あなたを……殺します!」

「ハイドラント! 久々野さんは認めたかも知れんが、貴様のような怪しい風体の男に綾
香を渡せるか!」
「面白い! 神威のSSの技の冴え! 見せ付けてくれるわ!!」
「てめぇら面白そうじゃねぇか! 俺も混ぜやがれ!」
「学園の風紀を乱す者と……」

 かくして波乱に満ちた学園生活が、再び始まる。

                                <どっかに続く>