繁華街。 人の欲望と狂騒を抱く、眠りの無い夜の街。 そこで夜の闇に抱かれれば、人は正直になる。 喧嘩に興じ、酒を飲み、博打を打ち、性に溺れる。 そこに男も女もない。 ただ己の望むまま、少々の傍若無人が許される。ここはそんな街だ。 ――最近特に面白いってこともないけどな……。 そんな感慨を抱きながら、YOSSYFLAMEは何かを求めて、のんびりブラブラと 街を練り歩いていた。 何か。 YOSSYにも、別段明確に探しているものがある訳ではない。 ただ何か興味を持てるものがないか、そんなものと出会う機会があればいい。その程度 の気持ちで歩き回っているだけだ。 新しい、または知らない店。 興味を持てる女性。 この街の知り合い。 そんなものだ。 しばらく街をさまよった後、彼はようやく興味を引かれるものをみつけた。 路地裏の奥から響く打撃音。 罵声。 つまりは喧嘩の現場だ ただの喧嘩なら、さほど珍しくはない。 人間タガが外れれば、自分でも思いもよらないことをするものだ。まして、この界隈は 殊のほかタガが外れやすく出来ている。酔っ払いが看板を蹴り壊したり、包丁を持って座 り込むことだってある。 喧嘩など珍しくもなんともない。 ――ただの喧嘩ならな。 路地裏のさらに奥、というのが引っかかった。 ――美人局か、カツアゲ……か? だったら少々痛い目にあってもらう必要があるだろう。 別に道義がなんだ、正義がなんだという気はないが、彼はこの界隈が気に入っていた。 そんなクズがいるせいで治安が悪くなるというのは気分的によくない。それだけの理由 だ。 そして目に余るようなヤツなら"外道狩り"と称し、狩る。 社会の暗部を見続けてきた少年は、酷く根暗い笑みを浮かべた。それが正義などという 偽善的な言葉で表されるようなことでは決してないことを、知りながらにして。 ――待てよ? 美人局がああいうことするのは、コトに及んだあとか? にしては……。 YOSSYFLAMEは首を傾げた。 美人局でないとしたらカツアゲぐらいしか思い付かないが、カツアゲにしてはイイのが 入ってる音がしている。 ――じゃ、殴り屋か? 金を貰って暴力を振るい、依頼主の恨みを晴らす輩がいる、というのは聞いたことがあ ったが、今までその現場を見たことは無かった。 どちらにしても、目的はわからないにしろ、誰が争っているかなんて事はすぐにわかる。 路地裏に足を踏み入れていたYOSSYはその角を曲がり、喧嘩の現場が見える位置ま で移動していた。 ――チンピラ二人に、ボコにされてるのが一人……か。ん? 思っていたよりは広い空間だった。 とはいっても大人が四人も並べば詰まってしまうような幅だが、その通りで繰り広げら れている光景自体は、YOSSYが予想したものからさほど外れていなかった。 見るからになチンピラ二人に、袋叩きにされている若い男。 ただ予想と異なっていた点は、その若い男の方に見覚えがあったことだ。 ――おいおい……。 知っているどころか、同じ学園の生徒だ。 YOSSYは彼にこれまで二度の敗北を喫している。 どう考えても、二人がかりとはいえチンピラ風情に後れを取るとは思えない。 ――どうなってんだ? そんなことを考えてるあいだに、殴り倒された男がごみの山に突っ込んだ。 意識は失っていないようだし、放っておいても大事には至らないだろうが、知り合いが ボコにされているを見捨てるのはどうも後味が悪そうだ。 「………………」 どうしたものかと思案しているあいだに、ふと気づいた。 ――あいつら、脅えてんのか? ・・・・・・・・ 肩で息をするチンピラは、明らかにその顔に恐怖を浮かべていた。勝っているはずのチ ンピラ二人が、だ。その恐怖はすでに限界近くに及んでいるらしい。 大事には至らないだろうと思っていたが、どうやらのんびり見ている場合でもないよう だ。緊張の糸が切れる瞬間は、もう目の前に迫っている。 「しょうがねーなー。恩のひとつも売っとくか」 言いながら、YOSSYは音も無く動いた。 一人目の首の後ろに強烈な手刀を叩き込み、 「!? てめっ! なんの……」 「はい黙ってろよ〜」 打撃音に驚いて振り返った二人目の懐に一瞬で入り込み、斜め下から掌で顎をかち上げ る。 「すぐ気持ちよくしてやるからよ」 YOSSYの軽いセリフの通りだったかどうかは酷く疑問だが、二人はものも言わず、 崩れ落ちるようにその場に倒れた。 新手が現れる気配も無い。 「よう悠。似合わねーとこで会うな」 「……YOSSYFLAME……か」 フクロにされていた男――悠朔――は差し出されたYOSSYの手を握ろうともせず、 ゴミに背を預けたまま、ポカンとYOSSYを見上げていた。 YOSSYは似合わないところと言ったが、この出会いは朔にとっても意外なものだっ たということだろう。 「なにやってんだよ、こんな奴等相手に」 「……お前には関係ない」 「関係ないって……。そりゃ、そうだけどな。あーあー、自慢の白衣デロデロにしちまっ て。口切ったのか? 血が出てるぜ?」 「うるさい……。私はお前に用など無い……。どうせお前は俺を……てくれない……」 囁くように反抗的な言葉を返して、立ち上がり、 「あん? お、おいっ!」 身体が傾いた。 ――倒れる! 慌てて支えようとしたYOSSYの腕を、朔は振り払った。 「……平気だ。急所に当てる技術もない、ザコだったからな。……少し数が多かったのが、 誤算といえば誤算だったかもしれないが」 「数? ……なるほど」 暗さのせいで気付かなかったが、周りを見ればさっきの2人以外にも、何人か人影が転 がっている YOSSYの興味が逸れたのを機に、朔は歩き出した。 「あ、おいっ! 何処に行くつもりだ?」 「寮に帰る。門限は過ぎてるはずだからな……」 「せっかく助けてやったってのに、感謝の言葉もなしか?」 「頼んだ覚えはないな。余計な世話だと言ってもいい。……それにどうせ、そいつ等程度 じゃあ……」 「? ……なんだ?」 「俺は、殺す気で、やってるつもりなんだがな……」 それはすでにYOSSYに向けられた言葉ではなかったのだろう。 だが、聞く。 「自殺願望でもあるのかよ?」 「そんなんじゃない……。そんなんじゃないんだ……」 フラフラとした足取りで表通りに戻っていく朔を見送りながら、 「だったら、"殺してくれない"ってどういうことだよ?」 YOSSYは呟いていた。 「ゆーさくが? そんなこと言ってたの?」 「ああ。そういう訳なんだけどサ。綾香、なんか知らないか?」 翌日、少し気になったYOSSYは、ホームルーム終了とともに来栖川綾香に相談を持 ち掛けた。 セリフだけを聞けば、熱意の持って行き場所を見付けられない、往年の不良のセリフそ のままだ。別段気にするほどの事ではない……そのハズなのだが、やはりどうにも気にな る。 「どうしてわたしに訊こうと思ったのよ。本人に訊けばいいじゃない」 「答えてくれるようなタマか、あれが……」 呆れたように肩を竦める。 「本人に答える気がないなら、親しい人間に訊くしかないだろ?」 「それはそうだけど……だったら別にわたしじゃなくてもいいんじゃない?」 「他に誰がいるんだよ?」 「………………。えっと……」 焦る。 思いつかない。 西山英志……は、尊敬する人物だとは言っていたが、親しいという間柄ではなさそうだ。 長岡志保やYF−19、城下和樹、シャロンなどは、情報特捜部での部下。それ以上の 関係があるのかは聞いたことがない。 唯一、朔の家族と関わりがある――離れて育った双子の姉と、幼なじみだとか言ってい た――葉岡斗織。 ――なんでか知らないけど、毛嫌いしてたわね……。 となると残っているのは……。 「ハイド……とか」 「仲良く見えるのか? あれが」 「口で言うほどには嫌ってないんじゃないかって思うんだけどね。会えば喧嘩ばっかりし てるけど」 どちらにしろ、友好関係はえらく希薄だということらしい。 「意外と寂しいやつ……」 「そう……かも、ね……」 肯いて、ため息を吐く。 「思い当たることっていうのは、ないわけじゃないのよね……。吹っ切ったと思ってたけ ど、やっぱりそんなに簡単にはいかないって事かしら」 朔の方に視線を向ければ、窓際の机に座って頬杖をつき、ぼんやりと半分閉じた瞳で外 を眺めている。 その頬には、遠目にも目立つ大きなシップ薬。 「なにがあったんだ?」 「うーん……。この件に関してはわたしはどっちかっていうと加害者の側だから、なんと も言えないわ」 数年前のことだ。 朔はいくつかの実験的施設をたらい回しにされた。 中には魔道的な実験の媒体にされるというものもあった。余談になるがその実験の失敗 の結果、その施設ごと、比較的大きな街がまるごと一つ地図上から消えている。 それは来栖川の系列会社が仕組んだ、綾香本人はまったく預かり知らなかった。知って いたとしても、何も出来なかったこと。 それでも、来栖川の令嬢である以上、無関係と突っぱねることは出来ない。 苦笑い。 ある意味、もっとも綾香に似合わない表情だ。 「そうか……。とうとう徹底的にフラれたのか、悠のヤツ」 ゴンッ。 綾香が額を打ちつけた机は、結構いい音がした。 「………………。誰が、誰に、よ?」 「悠がお前に……違うのか? 別に隠さなくてもいいって。考えてみりゃあいつ、最近な んか元気ないみたいだったしな。ま、こーいうことは早めにはっきりさせといたほうがお 互いのために……」 「違うわよっ。だいたいね、ゆーさくは」 「別にお前がフラれたってワケじゃないんだろ? だったら別にいいじゃねーか」 「だからっ、わたしとゆーさくはそんなんじゃないってば!」 「じゃ、どういう関係だっていうんだ?」 「それは……例えば女王様とその下僕とか、庄屋と小作人とか」 それを人は主従関係と呼ぶ。 「お〜い」 「冗談。友達よ。ただの」 「ただの?」 「そ。ただの」 綾香はすました顔で、そう断言した。 別にムキになっていたりも、顔が赤らんでいたりもしない。 「ふーん……」 ――脈無しか……。報われねえな〜、悠のヤツ。 「だいたいわたし、一度も好きだなんて言われたことないのに、どうしてそういう話にな るのよ?」 「ハ?」 「え?」 「………………」 ――あんだけ態度に出てりゃ、見てわからんもんか? ……つくづく報われねぇヤツ。 「なによ?」 「いや。いいけどな、オレにはあんまり関係ねーし」 「なんか、奥歯にものが挟まったような言い方ね」 「気にすんな。オレから見りゃ他人事だっていうだけだ」 「そう?」 「それよりさ、今の話からするとお前、今フリーなんだろ? 次の週末にでも……」 「パース」 「話も聞かずにそれかよ……。つれねーなー」 「本命が別に居る人とそーゆーことする趣味はないの。それとも将を射んとすれば、まず 駒を射よってコト?」 「いやいや。オレは何時だって、一緒に居る女の子に本気だぞ」 「却下」 「軽く映画でも見て食事しようって言ってるだけなんだけどな〜」 「しつこい男は嫌われるわよ? それに、マジメな葵がこのこと聞いたらどう思うかしら ね〜?」 「グッ……。いや、それはそれ、これはこれだ! ここで引いたらさすらいのナンパ師の 名が廃る!」 「廃ってなさい。そんな名前」 ケラケラと笑いながらも、もう一度だけ、朔の方に視線を向ける。 先ほどと変わらない姿勢で、外を見続ける朔。 ――心配するほどのことじゃ、ないわよ……ね? そんな綾香の心配を余所に、朔が問題を起こしたのはその日のうちだった。 明らかに無謀。 自らの目の前に立つ漢に戦いを挑むと言う事に、朔が抱いた感想は概ねそんなところだ った。 黒光りする鋼のボディと、そこに内蔵された兵器の数々。 サングラスに隠された、強固な意志の輝きを持つ瞳。 そしてその闘争本能。 それらをもって学園最強を自負する男、ジン・ジャザム。 それが、今まさに戦いを始めようとしているその相手だ。 正面きって戦いを挑んで勝ち目があろう筈が無い。 それはわかっていた。 喧嘩を売った以上、無事には済まない。 それもまた、わかりきっていることだった。 わかっていて、それでも挑まずにはいられなかった。 結局、ジンが自身をバトルマニアと称するように、朔もまた、戦いに魅せられてしまっ た者だということだ。 戦いによって何が得られるかではなく、戦う事そのものに価値を見出してしまう、言わ ば同種の人間。 これまでその場がほとんど無かった事こそ、不思議だったのかもしれない。 だが、彼らが争う状況に陥る事がほとんど無かった理由はひどく単純である。 朔が戦う事を避けていたからだ。 前言に矛盾しているようにも思うが、別に朔は殴られるのが趣味なわけではない。まっ たく勝ち目がない場合、争いを避けるのは必然というものだろう。 理由はもう一つある。 仮に戦ったとしても接点が無かったのだ。 基本的に中距離から遠距離専用の兵器を駆使して戦闘を展開するジンに対し、朔は二本 の刀を用いての近接戦闘を得意としている。 真・魔皇剣などの遠隔攻撃を頻繁に使っているため。そして一部で狙撃の名手として名 を知られているために、学園では全距離戦術士(オールラウンダー)という間違った認識 をされる事もあるが、彼が本領を発揮するのは間違いなく接近戦だ。少なくとも本人は自 身を近接武術士(ストライク・フォーサー)だと思っている。 確かにそこそこの威力はある。しかし所詮魔皇剣などは中距離以上離れて対峙した敵に 刀で対抗するために生まれた技に過ぎない。 そんな"そこそこ"以下の期待しか持てない攻撃で圧倒的な火力を誇るジンに挑むなど、 これが無謀でなくてなんだというのか。 ジンにもそれはわかっていた。 だから彼も戦いを避けていた。 彼は"戦いたい"のであって、"弱い者苛め"がしたいわけでは決してない。 勝敗のわかりきった戦いなどに興味はなかった。 その二人が対峙するきっかけになったのは、ほんの些細な出来事に過ぎない。 しかし争い事を好む彼らが互いに牙を向ける理由は、些細なもので十分だった。 「おう! オーラソードだろうがビームサーベルだろうが、いくらでも使ってやるぜ? なんなら相手してみるか?」 それは教室で交わされた会話。 クラスメートの「近接武器は使わないのか?」という、素朴な疑問にジンが答えた事に 端をなす。 そのセリフを、たまたま廊下を歩いていた朔が聞きとがめたのだ。 「使える? まさかそれは、戦えると同義ではないだろうな?」 あるいはそれは、朔の剣士としてのプライドが言わせたセリフだったのかもしれない。 「当たり前だろが。てめぇは武器を使って校内清掃でもするのかよ?」 「それはっ……」 傍らに立っていたセリスが一瞬眉をひそめ、天神昂希が何かを言いかける。 奇妙な武器を使う彼らに対する皮肉だったのだからその反応は当然だが、ジンは相手に しなかった。 「目障りな者を掃除するのになら、意外と役に立つさ。貴方は子供相手にチャンバラをす るのがせいぜいかもしれないがな」 それらを遮って放たれた、朔も言葉を聞いてしまったからだ。 瞬時に、ジンの瞳に獰猛な輝きが宿る。 「ガキのチャンバラ相手にしかならないか、試してみるか?」 同様に、朔が口の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべた。 「……上等だ」 彼らが争う理由は、それで十分だったのだ。 放課後。 ひとけの無い学校裏山にて。 ジンが西洋風の両刃の巨大剣を構えたのに対し、朔は小太刀と野太刀の二刀を手にして 戦いに望んだ。 二人の剣質は極めて対極的なものだった。 防御さえ許さぬ豪快な、力任せの剣を振るうジン。 流麗な動きで相手を翻弄し、躱し、受け流す朔。 見る目のない者がその戦いを見ていれば、それはジンの一方的なリードで展開されてい ると思ったことだろう。 鋭い踏み込みから大剣を振り下ろし、斬り返し、なぎ払う。 戦いが始まってから朔は一度も攻勢に出る事無く、ジンの攻撃を防ぐのに精一杯に見え たからだ。 しかし実際のところ、ジンは早くも焦りを感じ始めていた。 ダッキング。 体捌き。 バックダッシュと、ジンの攻撃はことごとく回避され、触れる事さえままならない。 素早い踏み込み。 一切の無駄の無い苛烈な斬撃。 しかし朔はその総てを見切り、ほんの僅かな距離で回避して見せていた。 ――剣士としての格が違う! ジンの背筋に寒いものが走る。 それは戦慄と呼ばれるもの。 同時に心が震えた。 ジンが強者と対峙した戦いの中でしか感じることの出来ないそれは、歓喜という名の感 情だった。 ――さすがに手強い。動きにほとんど無駄が無い。隙をつくのは難しいな……。あの鋼 の肉体では下手な攻撃をしたところで効きもしないだろうし……。 内心朔は舌を巻いていた。 簡単に言うと、攻めあぐねているのだ。 軽い一発を防ぐ事が致命傷に繋がるジンの剛剣。 防がずに躱す。 いかに常識外れな敏捷性と機動力を誇る朔と言えども、そんなことがそういつまでも続 く訳がない。防御に徹している今ならまだ、しばらくは避け続けることが出来るだろうが、 反撃に転じるとなればまた話も違ってくる。 攻撃を加えると言う事は、敵の射程距離に踏み込むということだ。 当然リスクが増える。 攻撃を受けず敵を倒す方法は、言葉にすれば酷く単純だ。 敵が攻撃してくるより速く己の攻撃を当て、攻撃ごと相手を叩き伏せるか、あるいは攻 撃を躱し、その隙に反撃を叩き込むかしかない。 ――後の先を取るか……。 神経を針のように尖らせ、己に出来る最速の動きで身を躱し、反撃に転ずる。 ――出来るか? 一瞬迷いが浮かんだ。 ――踏み込みの速さ。反応速度。剣速。やつの動きはどれをとっても一級品だ。……こ れで剣が本業でないっていうんだから、まったく鬼神というやつは……。 「手におえんな」 呟く朔に、しかし絶望はなかった。 今なら、出来そうな気がした。 別に死にたい訳ではない。 死が恐くない訳でもない。 ジンの持つ剣は飾りではない。その重さで人を叩き潰すことを目的とした剣だ。 当たり所が良くて重傷。 悪ければ確実に死ぬ。 それなのに何故だろう? 心が躍る。 戦いを止めたいとは微塵も思わない。 YOSSYに「自殺願望でもあるのか?」などと言われた時には否定した。自分が求め ているのは戦場だと思っていたから。 それが否定だったのか今もって謎だが、今ならあの問いを肯定するかもしれない。求め ているのが"死の恐怖に溢れた戦場"ではなく、"己に相応しい死に場所"ではないかと思い 始めた、今なら。 ――今なら! 比較するならば、ジンの剣の技量は朔のそれに及ばない。しかしその差を、ジンは己の 持つ圧倒的なパワーで補っていた。 並みの人間が持ち上げるだけでも苦労するような大剣を、ある時は片腕で軽々と振り回 し、ある時は両腕で全体重を乗せて振り下ろした。 動きが衰えた一瞬を狙い、身体を両断すべく真横に大剣を振るう。 しかし今回のそれも、朔の胴を薙ぐことはなかった。 剣先から僅か数cm。 しかしその距離が恐ろしく遠いものに感じる。 決して相手の剣をそれ以上近づけさせない、並外れた朔の機動力。 「ちっ。ちょろちょろちょろちょろ、カトンボみたいに逃げ回りやがって……」 「これが私の戦い方なんでな」 「うっとおしいんだよっ!!」 叫びながら、大きく前に出る。 それに応えるように、朔もまた前に出た。 この戦いが始まってから、初めて前へ。 距離が詰まる。 剣と刀が打ち合わされるかと思われた瞬間、一瞬で朔の身体がジンの右手に移った。技 法も何もない。ただ横に跳んだだけだ。 だがそのスピードが尋常ではない。 ジンが大剣を振り下ろしているその真横に、朔の身体が移動する。 決定的な隙が目前にあった。 迷う事無く、朔はジンの胴体に斬撃を叩き込む。 ギリィンッ! 金属の触れ合う鈍い音。 ジンの脇腹から血が吹き出る。 「クソッ!!」 そして朔の舌打ち。 ――浅かったっ!! 致命傷どころか、戦闘不能に陥らせることさえ出来ないような傷だ。戦闘はまだ終わっ ていない。 「おおおおおぉぉぉらあああああぁぁぁっ!!」 咆哮と同時に、ジンが振り下ろしたその姿勢から、大剣を真横に振り回す。 「くっ……」 しかしやはり、それも目標に当たる事はなかった。 朔は己の距離、優位をあっさりと捨て、早々に後方へと引いていた。 冷静に、ジンの現状を離れた位置から観察する。 ――目は死んでいない。力もまだ衰えていない。傷は軽傷……。鋼の肉体、予想以上だ な。それにまだまだ元気一杯……か。スタミナ切れを待つのも無駄ということか……。 かといってこのままずるずる戦い続けるというのは性に合わない。 ――速攻。 傷を受けたショックから立ち直る前に決める。 ――百戦錬磨のジン相手では、難しいな。なら……。 どうする? どうすればいい? 「思った以上に、楽しませてくれるじゃねーか」 油断なく刀を構え思考する朔に、ジンは傷をものともせず平然としながら、ニヤリと太 い笑みを浮かべた。 「戦うことが、楽しいのか?」 「あったりめーだ! 漢は拳で語ってナンボだろうがよっ!」 「貴方が戦いに価値を見出す点はそこか?」 「おうっ!」 「……予想通りの答えだな。私とは違うだろうとは思ってはいたが」 「? なんだ、馬鹿にしてやがんのか?」 「まさか。……羨望で気が狂いそうだよ」 「あん?」 「眩しすぎるんだよ。貴方は」 ――俺のように、狂気に片足を突っ込んでる奴にはな! 言葉の終わりに、無造作に、ジンの領空に踏み込む。 相手の些細な意識の隙間。ほんの僅かな虚を突くことを可能にする合気と、彼我の間合 いを一瞬でゼロにする神速の踏み込み――縮地――を組み合わせれば、真正面からの一撃 が必殺の技に変わりうる。 「ッ!!」 舌打ちとも声にならぬ悲鳴とも取れるジンの呼気と同時に、金属を打ち合わす不快音が 二度、響き渡った。 「……やるな、さすがに」 感嘆の声を上げた朔は、すでに打ち込む前の位置に戻っている。 太刀は大剣で弾き返し、反撃は小太刀で受け流された。響いたのはその音だ。 一瞬の攻防は、互角のうちに幕を閉じた。 「てめぇ……今まで三味線を弾いてやがったな!?」 「さて?」 合気とは戦いにおける機を読む術であり、その間を計る技である。 必勝を期した打ち込みを受けきられた上に反撃を受けたのは、多少驚く事ではあったが、 意外という程ではない。 優れた技量を持つ者の合気に抗しきるのは並大抵の事ではない。少なくとも仕掛けた側 と同程度、あるいはそれ以上の力量を要求される。 「学園最強と呼ばれているのは、やはり伊達ではないということか。……面白い」 朔の口元が歪む。 暗い、歓喜の笑みに。 「たまには熱血もいいだろう。……是が非でも剣だけで勝ちたくなった」 「この俺を相手に、大した自信じゃねーか……。泣いて後悔しやがれ!!」 「この期に及んで大剣しか使わない人間に、説教される覚えはない!」 二人の攻防は、まだ終わらない。 **************************************** 朔 「というところで前編終了。ども。学園一躁鬱の気が激しい、悠朔です」 綾香「笑えないわよ。それって……(汗)」 朔 「いや、まあ……。実際浮き沈みが激しいからな〜。今回も鬱で歯止めが利かない暴 走状態だし」 綾香「これって『VSジン』のつもりで書き始めたのよね?」 朔 「そうなんだが……ジンと戦う理由とか、戦いが好きな理由とかを考えているうちに、 なぜかどんどん話が伸びていって……これはもう、私的なストーリーとして異聞録に してしまおうということになった訳だ」 綾香「時期的には5月辺り?」 朔 「そう……だな。4月の頭に編入して、大暴れして(異聞録vol.1,vol.3 参照)、その後しばらくしてからになるか……」 綾香「なんにしろ、今後の見所はケ程も実力を見せてないジン先輩ってとこかしら?」 朔 「こっちもそうなんだが、意味的に相当差があるからな」 綾香「鬼の力に重火器の山。果たして物質主義に神秘主義が勝てるかってとこ?」 朔 「……俺は呪技(祝詞を唱えることによって奇跡を起こす技法)も霊技(魔皇剣に代 表される封神流の技)も得意とは言えんからな。それは外れだ。剣だけでどこまでや れるか……かな?」 綾香「ま、何はともあれ、後編に期待してね☆」 ===+++=== 朔 「いつ上がるかな〜?(汗)」 これを『VSジン』と認識するかどうかは、読者様に任す(汗笑) 感想なんかも書こうと思ったけど、時間がないのですみません。パス(汗) ただ、一言! 『Lメモ「鮮血の下着売り場」』 投稿者:陸奥崇さん 誰がストーカーだ、固羅(汗) 自分がそうだからって、かってに人を同類にしないように(汗) そーいう状況だと、多分ハイドラントと仲良く喧嘩して、見つかって、綾香に仲良く怒 られるというのが妥当かと……。 ……確実に綾香に嫌われるとわかっているのに、付け回すほど度胸はないぞ(笑) ===+++=== 中間CM それは、赤い月を見上げた時に、始まった……。 ルミラ「貴方それでも夜族(ミディアン)の……しかも、誇り高き吸血鬼(ノスフェラトゥ) のつもり?」 氷室京介「……なりたくてなったんじゃない」 太陽の輝きが消える夜。月の光はただ優しい。 神凪遼刃「いいじゃないですか。夜は貴方の世界だ」 追う者と、追われる者。 悠朔「宮内庁並びに陰陽寮の要請により、キサマ等を狩る!」 皇日輪「人の社会に害なす者め!!」 氷室京介「俺が生きることが! 生きているだけで罪だって言うのか!!」 その中での出会いは……運命だったのか………………。 姫川琴音「悲しまないでください。自分の血を呪ったりしないで……。 私は……。私は貴方を……」 食料とすべき人間に抱いた、淡い恋心に苦悩する若きヴァンパイア。 自分の正体を知られることに対する恐れ、疑惑、葛藤。 その中で見付けた、ほんのささやかな幸せ。 しかしそれも長くは続かない。 迫り来る刺客に、対抗する術は残されているのか? 魔王大戦の悠朔が送る、珠玉の新作! 吸血鬼『ミディアン』 近日公開!! 姫川琴音「私は……幸せでしたよ? 京介さん……」 氷室京介「俺は……俺は化け物(フリークス)なんかじゃない!!」 ホンキにしないように(笑)