メイドロボの実践における実用性に関する考察(後) 投稿者:悠 朔

着目点No.2――遠距離戦闘。

  黒板にカツカツと音を立ててそう書き記しはしたものの、祐也の表情はあま
り明るいとは言えない。
  理由は簡単な事で、単に近接戦闘と比べて明らかに結論が出るのが早いから
だ。論議の余地も必要もない、と言ってしまえばそれまでだが、どうやっても
議論が百出するようなものではない。
  結論が極め付けにシンプルである以上、正直に言えば議題進行役としては面
白くないのだ。
「まぁ、先程セリオ君自身が言った事ではあるが、武器を持ったメイドロボは、
すでにメイドという規格を離れたと言って良い。この時点でまずメイドロボの
遠距離戦能力の考察というのがすでにナンセンスなのだが……」
  ふぅ、と、祐也は苦笑を浮かべた。
「だが、そんな事を語ったところで埒も無い。この意見は破棄するとして、話
を続ける事にしよう。
  一言で遠距離戦と言っても幾種類かパターンがある。
  まず屋内での射撃戦。近代では近接戦と呼ばれる傾向にあるが、射撃武器を
用いている以上はとりあえず遠距離戦と定義しよう。主に索敵能力と隠密能力。
状況への即応性が求められる。格闘能力を求められるパターンもあるが、先に
ある程度論じたのでここでは除外する。
  次いで野戦。MTBが主力となっている現代では、歩兵の役割は装甲車両へ
の奇襲、撃破。偵察。拠点占拠へと完全に移行していると言っても過言ではな
いかもしれん。二次大戦前期のように塹壕を掘って敵兵と撃ち合うという事は
あまり行われていないようだ。さほど詳しくはない身ではあるが、暫定的に射
撃の命中精度を重視すると考える。
  最後にゲリラ戦。屋内戦と同じく重視されるのは索敵能力と状況への即応性。
それから隠密性だ。それに加えて天候などの過酷な状況に耐える耐久性。長時
間戦闘を継続する継戦能力を求められる。
  実に大雑把だという自覚はあるが、おおまかに分類するならこんなところだ
ろう。MTBや航空機の操縦などを入れると面倒になるが、これらを討議した
結果から結論を得られるものと考えるので、これを除外するものとする」
  祐也は屋内戦、野戦、ゲリラ戦と黒板に書き記し、生徒へと向き直った。
「先程の近接戦闘と同じくまず私が出した結論から率直に言おう。人より優れ
た部分はあるが、少なくとも戦闘で使う気にはなれない。戦争では論外だ。そ
のあたり……そうだな。誰か予測でも良いから説明できる奴は居るか?」
  生徒達は顔を見合わせた。
  教室がざわめきだす。

「居ないのか?」
  重ねて、祐也が問う。
  とりあえずの意見は出せないでもないが、しっかりとした根拠がある訳でも
ない。急な質問に対して思考する時間があまりに少ない。そんな状態ですぐに
返答が出来るのは、よほど頭の回転が速いか、先に答えを準備していた者だけ
であろう。
  その急先鋒と言うべき人物は、二人して教室の後ろでスプラッタとなり、す
でにちびマル救急部隊の手で保健室へと葬り去られた後だ。
  後で授業はどうなったかとやかましく騒ぎたてる事だろう。

  こういう場面で嬉々として説明をする他の人物達は、というと、
「悠は……出てないのか?  じゃあシッポ!  あいつならシャロン・システム
を活用してるんだから」
「駄目だ。答えのわかってる授業をわざわざ取る気にはなれないって言ってた
ぞ。一応記録は取っとくとか言ってたけど来てねぇ」
「とーるは?  HMシリーズの枝分かれだとかなんとか編入してきたとき言っ
てたよな?」
「なんか、メイドロボでは不適切だから、私が生み出されたんだ、とか言って、
授業蹴った」
  戦術・戦略に関して一言を持つメンバーは総じて欠席。

「へーのきとか榊は?  OLHもT−star−reverseも、Dシリー
ズと同僚なんだから、少しは何かわかるんじゃ……」
「仕事、忙しいらしいっすよ。主にその御同僚の活躍で」
「Tは傀儡使ってんだから、人手はあるだろ?  なんで居ないんだよ!」
「なんか緊急で宝貝(パオペエ)作らなきゃならないとか言ってたな。作って
る間は集中しなきゃならなくて、その間は傀儡との接続が不安定だからあんま
り動かしてないんだとか。その傀儡の調整なんかも大変らしいぜ」
「森川先生は……。ああ、そうか。あの人ああ見えても先生なんだよなぁ。授
業に出てるはずないか」
  時給980円にしては過酷な職場だと思います。


「フム」  
  祐也が鼻を鳴らしながら教室を睥睨した。
  ふと、両手を頭の後ろで組んで不適に笑う、ジンと視線が合う。一瞬ジンの
意見を聞いてみたいという誘惑にかられたが、あの態度を見るに、既に彼の頭
の中では概ねの結論が出ているらしい。
  ジンの熱血ぶりや戦闘中の様子からは、豪放、大雑把、直感に頼った出たと
こ勝負、といったある意味行き当たりばったりなイメージがある。が、それは
概して間違いだ。
  確かにそういった面があるのは否定できない。だが彼が戦いに望むとき、そ
の行動は大胆にして無謀と見えて、実は精緻な計算に基づく勝利へのルートを
弾き出した上での行動である事が往々にある。
  それでなくても戦力分析は常勝への第一歩だ。
  Dセリオを宿敵と見据えるジンが、それを行っていない筈が無い。
  ――となると、あいつは総てわかった上で授業を受けているという事か。も
しそうであるなら、ここでジンの意見を聞くのはツマランな。
「ゆき」
  だから、祐也は敢えて別の人間を指名した。ジンと同じ科学部でありながら、
それでいて一年生であるが故に機械に関する知識の比較的浅い人物を。
「は、はい!?」
「意見はあるか?」
「え、えっと……」
  祐也の予想通り、彼は一瞬口篭もる。
「多分ですけど、コスト・パフォーマンスが悪いからじゃないですか?」
「ん?  どういう事だ?」
「あ、だから、戦争で運用するにはコストが高くなるからじゃないかと思うん
ですけど……」
「なるほど。だが、そのコストの基準はどこに置いている?」
「え?  そりゃ……人と比べて、です」
「一人前の兵士を育て上げるのに必要な経費がどのくらいか、知っているか?
給料や教育費だけではない。弾薬費はもちろん、特殊車両を使用するならそれ
らの運用費もかかる。事故によって命そのものが失われる事もある。そうなれ
ば損失は計り知れない」
「う……」
「概算ではあるが、現在この国での兵士一人あたりの教育には一億必要だと聞
いた覚えがある。最高級のメイドロボをどれほど多く見積もったとしても、一
億を超えるなどという事はありえん。戦闘データの収集に多少費用がかかった
としても、あとは現場のデータをフィード・バックするだけだ。大量生産すれ
ばコスト面では人間を遥かに凌ぐ」
「うう……」
「では何故、にも関わらず戦争での使用が不適切なのか? 屋内戦、野戦、ゲ
リラ戦の考察を経て、説明していこう。……ああ、ゆき君。着席して良いぞ」


屋内戦

「ゲリラ戦においても言えることだが、まず最も重要視されるのは索敵と隠密
の能力だろう。敵が何処に居るかわからなければただの的だ。逆に気づかれな
いまま接敵できれば殲滅は容易になる。その接敵のため近づく技術を静殺傷法
やストーキングなどと呼んだりするんだが……たとえどれほどこの技能に習熟
していたとしても、人間である以上熱と音が出る。メイドロボなら聴覚の精度
を上げ、視覚をサーモグラフにすれば発見が比較的容易になる。索敵は優れて
いるかもしれん。
  だが、逆もまた真なりだ。
  機械である以上モーターの駆動音はどうやっても発生するし、高速演算能力
の高いCPU のために廃熱も必要だ。索敵能力の高い人間になら、人間を捕捉す
るのとなんら変わりなく発見できるだろう。
  つまりは静殺傷法では一長一短で、優劣を論ずるには根拠が足りないと言う
事になる。ここまでで何か質問は?  ……藤田」
  指名され、浩之が立ち上がる。
「音に関してはともかく、サーモグラフって熱を感知するシステムだよな?
なら、熱の放出を防いで表面温度を気温と同じに保つようなスーツを着こんで
いた場合、メイドロボに感知は出来るのか?  ……ですか?」
「良い質問だ」
  祐也がひとつ頷く。
「先ほどセリオが言ったように、メイドロボが主として外界を認識する手段は
人間と変わらず視覚による。通常の視界とサーモグラフを同時に使用していれ
ば、目視のみでサーチする事になるな。つまりそれでは人間となんら変わらな
い。
  索敵に関しては人間が装備するオプションを常備している。故にある程度の
優位性が認められるが、それは絶対ではない。というところだ」
「金属探知はどうですか?」
「……ふむ、さっきも言ったがそれら機械のオプションを用いるという場合、
人間とメイドロボに差異はない。武装するなら金属パーツを排除するのはどち
らの場合でも困難だ。優劣を論ずる根拠には足らん」
「奇襲を受けたときの対応では?」
「データをフィードバックすればいくらでも適宜対応するだろう。破壊されて
しまってはフィードバックも何もないが、訓練で技能は獲得できる。学習型は
基本的に人間と変わらん。他には?  ないか?」
「持久力はどうです?」
  祐也がそこでニヤリと笑った。
「そう、そこだ。それが人間と比べて最も勝る部分。バックアップ態勢が整っ
ている場合、精神的、肉体的な持久力において、人は比するに足りん。特に精
神面ではストレスとほぼ無縁でいられる。余計なことを考えないでいられる強
みがある。
  だが、基本的には屋内戦は短期決戦だ。戦争ではなおさらな。
  例えば警察が人質を取って立て篭もった誘拐犯を拿捕する場合、まず人質の
保護が最優先だ。では、立場が軍人で敵が要塞に立て篭もっている場合、どう
する?」
「……要塞ごと爆破するのが一番手っ取り早い?」
「正解だ。つまり、その持久力において勝るという利点は、敵の中に保護ある
いは拿捕したい対象があるか、敵近辺に破壊したくない施設がある場合に限ら
れると見なす事が出来るだろう。
  戦闘のプレッシャーに耐えきれるかどうか、という問題もあるが……な。痛
み止めのモルヒネに手を出して中毒になった兵士というのはよく聞く話だ。
  さて、以上の理論から屋内戦ではメイドロボにやや軍配が上がる。
  優劣に大きな差異が無い以上、軍事に利用する場合コスト面で人を大きく上
回ると言えるな」


野戦

「何はともあれ命中精度に重きを置く、と仮定するなら、メイドロボは精密機
械だ。圧倒的なアドバンテージを誇れる。機動力その他が人と同程度とするな
ら言うべきことなど何も無い。異論が無いなら次へ進むぞ」


ゲリラ戦

「短期間で戦闘を終える場合は基本的に屋内戦と大差は無い。戦闘が長期に及
んだ場合を想定する。
  この場合メイドロボにはどうしようもないジャンルになるな。隠密、索敵が
重要視される点は屋内戦と変わらないが、環境がまったく異なる。
  問題となるのはメイドロボの実質的な稼働時間の短さだ。搭載したバッテリ
ーをフル稼働させても三日と持たんのでは戦いようが無い。下手をすれば戦闘
が始まる前に時間切れだ。最近はマイクロウェーブなど、バッテリーを搭載せ
ず活動させるメカの類もあるが、今のところ大量のエネルギーを、しかも長時
間供給するには至っていない。太陽電池を用いるのは論外だ。戦闘中にあんな
目立つものを何処に装備する?  設置しておくという手もあるにはあるが、発
見されればゲーム・オーバーだ。
  いかに防水が施されているといっても精密機械である以上、泥や埃が大敵で、
屋外が可動パーツの多いメイドロボにとって人間以上に劣悪な環境である事に
変わりは無い。これも致命的だ。
  現状メイドロボがゲリラ戦に不向きだという事実に異論の挟みようは無いだ
ろうな。……違うか?」


結論

「以上の事から万全なバックアップを受けれるならば、人間以上の性能を発揮
できる可能性は皆無ではない。どころか一部の環境では人間を遥かに凌駕する。
しかしそれは限られた条件下での事であり、人と比べて適応能力に欠け、常に
100%の力が発揮できる訳ではない。
  将来的には解決していく問題ではあるが、現在の段階では楽観的に見てこん
なところだろうな」



集団戦

「さて、ここまでは基本的に一対一を想定して話を進めてきた訳だが、ここか
らは戦闘における本領。多対多の戦闘を想定して話を進めよう。
  格闘戦に関してはほぼ変更点は無い。瞬間的に情報をやり取りできる利点が
加わったために連携の妙は人間を凌ぐだろうが、基本的に格闘戦が苦手だとい
う点は変わらん。瞬間ごとの判断力が人間に劣る点が克服された訳ではないか
らな。味方のフォローに入る、などという余計な負荷がかかる分、下手をすれ
ば個々の戦闘より精度が悪くなる可能性が有る。
  というところだ。

  順当に行けばこれから射撃に関しての論議に入るわけだが、集団での射撃戦
を想定するとなると、これは既に戦争に対しての論議とさほど変わりは無いも
のとなるだろう。
  それを踏まえて実際に武装したメイドロボの部隊を運営すると想定して話を
進めよう。

  チームワークに関しては基本的に絶対的優位を保持できる。
  情報のやり取りはメカの十八番だ。基本は電波通信になるから妨害電波に弱
いという欠点を持つが、通信メカが使えなくなって困るのは人間も同じだ。強
力なジャミングなどそうそうかけ続けてなどおれんし、近距離で視界が通るな
らレーザー通信の使用も視野に入れることが出来る。
  時間にも極めて正確だ。障害が無ければタイムスケジュール通り、正確に事
態を進めるだろう。
  とはいえ想定外の出来事が起こるのが実戦というものだ。それに対しては綿
密な訓練を積んでおけば、あるいは訓練を積んだデータをダウンロードすれば
そう弊害とはならんだろう。
  極論すれば学習型メイドロボに出来んのなら人間にも出来ん。最終的に人間
が勝る部分はとっさの機転。ひらめきとか思いつきとか言われる部分だけにな
るだろう。
  逆にいえばそここそが人間の恐ろしいところでもある。まったく予想外の行
動を取られれば、いかに訓練を積んだ者であろうととっさに対応するのは難し
い。そこを突かれれば、瓦解は人間より早いかもしれん。
  だが奇抜な発想が常識化され、対応策が想定される。これは歴史が証明して
いる厳然たる事実だ。安定した強さの積み重ねという点では、メイドロボは極
めて優秀なユニットであると言うことが出来るだろう。

  続いての問題は部隊の戦闘能力の維持。性能の恒常化だ。

  屋内、あるいは極地戦ではこれは問題にならないものとする。特に拠点防衛
に関してはこれ以上のユニットを配備する事は極めて困難であると言えるだろ
う。センサーの塊が連絡を密に取りあっているようなものだ。

  屋外戦では整備拠点を設ける必要性が生じる。又は整備部隊を随伴させ、各
隊員のメンテナンスに充てるなどの対処が必要だ。さっきも言ったが精密機械
である以上こまめな整備は必須。ちりやほこり、泥などは大敵だ。バッテリー
の補充を行わなければ行動も出来ん。
  問題点はここだな。
  アンチマテリアル・ライフルの発達により軽装甲車両、航空機の破壊がスナ
イパーの任務となっている現代において、音もなく接近し、遠距離からの精密
狙撃を可能とするスナイパーへの対策は無いに等しい。
  敵の補給線を絶つのが常道である以上、常に前線近くに配置されるメンテナ
ンス部隊が攻撃を受けるのは確実だな。性能の低下が防げなければ前線の瓦解
へと繋がり、敗走への至極当たり前のプロセスを辿ることになる。防衛は極め
て困難だ。
  では整備拠点を設けてはどうか?
  頻繁になるであろう部隊輸送等の手間などから考えて、運用効率は極端に悪
くなる。
  多数の部隊が整備のために出入りするとなると、敵の目にも付きやすくなる。
つまりは攻撃を受けやすいと言う事だ。整備部隊より防衛は容易ではあるだろ
うが……実用的かどうかには疑問が残る。
  個々の能力では明らかに人より勝っているものの、活用方法が難しい。メン
テナンス面が今後の課題だな。

  最後にゲリラ戦だが……これは微妙な判断が必要になる。
  ゲリラ戦を展開する時点で、すでに物量において相手より大きく劣っている。
あるいは物量において勝っているが、相手の望む戦闘にまんまと乗せられてい
るという事になる。
  物量において勝っているなら、正面から叩き潰したほうが効率が良い。物量
において劣る側は、いかに敵にそれをさせず、消耗を強いるかが課題となる。
その一つの答えがゲリラ戦で、ベトナム戦争はその典型的な例と言える。
  メイドロボというハイテクノロジーな兵器を使用している時点で、資本力、
技術力において勝っている可能性が高い。である以上、明らかに苦手であるゲ
リラ戦をメイドロボにさせる意味が無い。首脳部はいかに戦場を移すかを早急
に考えるべきだ。
  それでも敢えてメイドロボを投入するなら、それは拠点防衛か、足止めを目
的としたものか、無駄な浪費に終わるかのいずれかだろう。
  では資金面に劣っているにも関わらず、メイドロボを戦線に投入する場合は
どうか?
  もう気付いている者も居るだろうが、戦争という極限状態では、おそらくメ
イドロボはランニングコストにおいて人間に劣る。……人間が死ねば労災だと
か遺族年金だとかを支払わなければならなくなるから、本来ならこの意見は間
違いだ。しかしそれは戦争が終わってからの話だ。戦争中……いや、戦争が終
わった後も赤字などを理由に踏み倒す可能性が残っている。負けた場合はスズ
メの涙ほども出るかどうか……」

  そこまで言ってふと気付いたかのように、祐也は咳払いをした。

「話を戻そう。
  当面の部隊維持に関しては、おそらくメイドロボの方がコストがかかる。身
内を殺された人間なら、徴兵などしなくても自ら志願して兵になる。その場合
は武器と食料さえ与えておけばいい。両親を殺された少女がトイレの窓からア
メリカ軍戦車にRPGを撃ち込んだ話もある。
  資金面で劣っている側がコストのかかる部隊を動かすとなると、そうそう場
面は無い。整備が疎かになるのは目に見えているからな。
  具体的には、
1.鉄砲玉。
2.拠点防衛。
3.拠点防衛に見せかけた囮。
  簡単に考えられるのはこの辺りだ。
  1.に関しては語る必要もあるまい。文字通り玉砕覚悟の特攻だ。相手により
大きな打撃を与える事が出来るなら悪い手段ではない。……下策である事に変
わりはないが、有効でもある。全体の作戦立案次第だな。
  2.の拠点防衛だが、実のところ役には立たないと考えたほうが良いかもしれ
ん。
  さっきも言ったようにメイドロボはランニングコストがかかる。である以上、
防衛能力に優れるとはいえど、発見された場合メイドロボが守護している場所
は重要拠点であると宣伝しているのとなんら変わりない。
  つまり、発見された段階で全滅させるか、敵の斥候に気づいた時点で速やか
に3.へと移行する必要がある。
  あるいはそう考える敵さえも逆手に取るか、だ。

  戦争は高度なばかしあいだ。
  戦術に興味があるなら考えてみるのも一興だろうが、今回の論点ではないの
で以降は個々で判断して欲しい。


  さて……ある程度考察を重ねた結果、こう考えた者も居るはずだ。『割とメ
イドロボって使えるんじゃないか?』……とな。
  確かにそうだ。
  兵器として使用して、使う余地が無い訳ではない。
  が、それでもメイドロボを戦争に使うのはナンセンスだ。
  その理由は奇しくも現在わが国で最も有名なロボット・アニメが暗に語って
いる。モビルスーツと呼ばれるそのロボットには様々なバリエーションが存在
する。重装甲型、重武装型、核装備型、試作型、量産型、高機動型、水陸両用
型、陸戦型、宇宙戦型、ステルス型、合体、変形、コア構想などなど……。
  その実態は他のアニメーションとの差別化を図るため、プラモデルを恒久的
に販売するためであり、デザイナーが発狂し、アニメーターを困惑のどん底に
叩き込み、プロデューサーを破産させてきた。
  では消費者は何故、それらの犠牲に成り立つ姦計に乗ってしまったのか?
  答えは簡単だ。
  主人公が駆る機体は基本的に強力な個体であり、極めて万能だ。宇宙であろ
うが地上であろうが水中であろうが何処ででも戦える。だが、いかに強力であ
ろうが万能である悲しさ故に、極地に特化した機体よりも明らかに性能が劣る。
  そこに説得力があったからに他ならない。
  職務分担が徹底されている軍隊において万能は敵だ。戦車に対空砲が無いの
は何故だ?  自走砲に厚い装甲が無いのは何故だ?  潜水艦が陸を走れないの
は?  戦闘機が水中に潜れないのは?  MTBが空を飛べないのは何故だ!?
  必要無いからだ。
  弱体化するからだ。
  実現しないからだ。
  そもそも人型機動兵器とはなんだ?
  戦車よりも攻撃力が低く、装甲も薄く、車高があり、バイティング・アング
ル(侵徹限界角度)も低い。ヘリよりも機動力が無く、自走砲ほどの射程も無
い、最強の兵器だ?
  どこかの誰かの未来の為に、そうよ未来はいつだってこのマーチとともにあ
る。オールバンデトゥガンパレード。総ての兵はことごとく戦って死ね!」

  ダンッ。
  拳を机に打ち下ろす。
  くっくっく……クッカッカッカッカ……。
  肩を振るわせ、祐也が不気味に笑う。

「……現実を、戦争を舐めるなドリーマーがッ!
  机上の空論にもなっとらん!  絵空事を語れば現実になるか?  無茶を語れ
ば道理が引っ込むか?
  そんな夢や幻が現実で通用すると本気で信じるくらいなら、理想を掲げて世
界平和と病の根絶、自然破壊の防止でも声高に叫んでいろ!!  その方が遥か
に有益で現実味があるわッ!!」

  ハー、ハー、ハー。
  荒げた呼吸が静寂の教室に響き渡る。
  生徒達はただただ動揺し、異常な迫力を備えた祐也に対し、明らかな恐怖の
視線を向けていた。

「……古代集団での狩猟によって生計を立てていたにも関わらず、人の姿は決
して戦闘に向いた形態ではない。人間を模したメイドロボは、戦闘におけるそ
の多くの欠点をも引き継いでしまった」

  周囲を見まわし、深呼吸を一度。
  続けて話し始めた祐也の声は、恐ろしく落ち着いたものだった。
  先ほどの怒声が夢だったのではないかとさえ思え、そしてその精神のアンバ
ランスさを考えれば背筋が凍る。
  もう誰にも、この空間から逃れる術は無い。

「兵器の……いや、兵器に限らず製造物というのは構造が単純であれば単純で
あるほど良い。構造がシンプルであるほど故障は減る。
  となると衝撃に弱く、構造が複雑な手足は邪魔だ。足の代わりに車輪か無限
機動を取りつける。踏破性をフォローするためにキャタピラにするか、あるい
は移動速度を重視して車輪にするかは状況に応じて変えればいい。二足歩行で
はアンバランスだった点もこれで補える。腕が無い以上近接戦を捨て、火器弾
薬を積み込みファイヤー・コントロールで制御する。
  耐弾性能の低いボディーも要らん。二足歩行を捨てた事で重量限界も大幅に
増えた。装甲で覆う事にする。
  欠点を省けばプラウラ。米国ロボット・ディフェンス・システムズ社製自立
型哨戒車両Programmable Robot Obsever With Logical Enemy Responseの出来
あがりだ。
  戦闘機に関しては言わずもがなだろう。メイドロボに操縦させるよりシャロ
ンに操縦させた方が確実なはずだ。ゴーストバードという実例が、すでにこの
学園内に存在している。
  人間程度のサイズのものをお望みならリモートコントロール・カスタムライ
フル――文字通り遠隔操作が可能なライフルが実在する。これに攻撃用ルーチ
ンを積めばメイドロボに撃たせる必要は無い。移動させたいなら車輪でも付け
ろ。
  人を殺傷するにあたっては、人型であるというのは欠点に他ならない。
  これら兵器を配備した方がコストは安く済み、整備は簡略化が図れ、良い事
ずくめだ。
  以上の事から、メイドロボというハードは戦場での使用に向いていない。と
いう結論を得る事が出来る」

  その一言で生徒達の顔に、一様に安堵が浮かんだ。
  なにはともあれ結論としての答えが出たのだ。これで本日の授業は終わりの
はずである。
  科学に興味を持つ人間にとっては面白い授業であったかもしれないが、なに
しろこの教師の受け持つ授業である。
  受講すると、異常なほど精神を消耗する。

「……本当に?」

  だから祐也が口元を歪めニヤリと笑いながらそう尋ねた時、生徒の顔が引き
攣ったのは、やむを得ない事だったのだろう。

「本当にそうか?」