Lメモ私的奇譚「薔薇部と新たなお友達」(後編) 投稿者:ギャラ

「はぁ……」
 特別教室棟リズエル。その一室の窓辺に、物憂げな溜息をつく女性の姿があった。風が長く
つややかな黒髪をなびかせ、憂いに陰った顔が校庭の一点を見つめている。
 喧噪から離れ、しんとした空気が張り詰める美術室に、木炭が紙を擦る微かな音だけが
聞こえていた。
 彼女の名は長谷部彩。
 他人は彼女をこう評する。
 ――『あの趣味さえなければいい人なのに』と。
「エルクゥユウヤさま……」
 その唇から、熱い溜息が漏れた。潤んだ瞳が、ユウヤの凶悪とゆーか強烈とゆーか1グラムで
成人男性五十人が殺せると言われる姿を見つめていた。
「……なんて、きれい……」
 彼女がそう呟いた時。
「……長谷部さんっ!」
 高い音を立てて美術室の扉が開かれた。
「……姫川さん……?」
「やっぱり、まだいたんですねっ? 早く逃げないと……!」
 琴音が彩の腕をとって連れ出そうとする。
「琴音ちゃん、早く!」
「アレがここに来るまで、もう時間があまりありません!」
 琴音の護衛についてきた東西と神凪が二人を急かす。
 だが、彩はふるふると小さく首を振った。
「……もう少し……絵が……」
「そんな場合じゃありま……」
 彩の前に、大きなキャンバスが置かれている。それを覗き込んだ途端、琴音の身体が
凍りついた。
「…………」
「琴音ちゃん?」
 その様子を不審に思った東西が声をかけた。
 瞬間。

 でろでろでろでろでろでろでろでろでろでろでろ。

「粘液ーーーっ!?」
 いや、正確には粘糸だが。
 琴音の目から鼻から口から耳から粘糸が吐き出された。でろでろと流れ出る白い糸が、琴音の
身体を縛り上げるように包んでいく。
 見ようによってはエロティックな光景であったかもしれない。
 鼻から出ている糸さえ目に入れなければ。
 ……こんなネタをやっておいて何ですが、筆者は琴音が嫌いじゃないです。いや、むしろ
好きなキャラです。信じてお願い。
「ううっ、ヒメカワ星人ネタはもう嫌だ……」
 まるで対抗するかのように東西の目から涙がでろでろと流れる。
 間もなく、琴音の身体は完全に糸に包まれ、繭のようになっていた。
「テリヤキバーガー……」
 その繭ではありません。
「……何なんですか、いきなり?」
 首を傾げながら、神凪が琴音(繭状態)に近寄ってきた。そのまま、問題のキャンパスを
覗き込んだ。
「……」
 彼もまた凍りつく。
 そこに描かれていたのは、エルクゥユウヤであった。しかも劇画調。
 それに一番近い比喩を探すとするならば……女装したワムウだろうか。いや、別にエシディシ
でもいいけど。
 ・
 ・
 ・
 神凪は50ポイントのせいしんダメージをうけた。
 神凪はしんでしまった。
『おお神凪よ、しんでしまうとはなさけない』
 ・
 ・
 ・
「……って、ワケの分からないことをしている場合じゃないんですっ!」
 おお、復活。
「とにかく脱出しないと!」
 だが、その神凪の声に答える者はなかった。
 琴音は繭の中、東西は『僕は何も見てない……ヒメカワ星人なんて知らないんだ……』などと
虚ろな瞳で呟いている。電波覚醒度25%(推定)だ。彩に至っては、何事もなかったかの
ようにデッサンを続けていた。
「……」
 絶句した神凪の耳に、ピンク色っぽい豪快な足音が近づいてくるのが聞こえる。
「……やっぱり、逃げればよかった……」
 神凪はそう呟いて、そっと目尻に浮かんだ涙を拭った。

 ちなみに、後に美術室からは無傷の琴音が発見されたそうである。
 ヒメカワフィールドは、誰もが持っている心の壁なんだよ。



 しつこくその頃のジン・ジャザム。
「俺は人間を殺さねぇ! ただその宇宙船を殺すぅぅぅぅぅ!」
『Noooo! 割と同じコトデース!』
 ちゅがぼーーーん。
 レミィパパ、宇宙の藻屑と消える。
 享年42歳(ミヤウチ星暦換算)であった。
『死んでマセーン!』
 あー、無視無視。



 ゆけゆけユウヤ、どんとゆけ♪
 何処からともなく聞こえるBGMの中、エルクゥユウヤがつき進む。まさに無人の荒野を
行くが如し。
 今のユウヤを止められるものなど、この世にはそうはいない。
 せいぜい、無敵女子高生柏木ちづりんとかMKジンとか貴之の涙とか本気になった耕一とか
……結構あるな。
 まあ、それはともかく、目の前にいないことだけは確かであった。
「鬼畜ストラァァァァァイク!」
「あの標的は嫌すぎますぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
 時折美加香が飛んできたりもするが、ぺちっとはたき落としておく。もうみんな忘れている
かもしれないが、魔法少女に通常の物理攻撃は通用しないのだ。
「くぅっ、無駄骨でしたか!」
「わたしの立場っていったい……」
 地面にめり込んだ美加香が涙を流す。どーでもいいが、筆者は当初このキャラをスパル○カスの
ツーバイフォウみたいな奴だとばっかり思っていた。イラストを見て驚いたのはここだけの
秘密である。いや、風見さまにバレたら怖いし。
 話が脱線した。元に戻そう。
 ともかく、そんな状況に陥った時であった。
 ぽん、と風見の肩を誰かが叩いた。
「ここは任してもらうわね」
「え?」
 風見のあげた疑問の声にもかまわず、その人物はマントを翻してユウヤに近づいていく。
「そっちは危ないですよっ!?」
 返ってきた答えは、振り向きもせずに振られた手だけであった。
「……大丈夫よ」
 そして、また後ろから声がする。
 見れば、三人の奇妙な格好をした女性がそこに立っていた。
「……何なんですか、あなたたちは?」
 思わず半眼になる風見である。
 女性たちの中の一人が一歩前に出た。
「わたしたちは、コスプレを守る会……そして彼女は」
 ひゅんっ!
 瞬間、言葉の続きを遮るように、その足下に一冊の本が突き立つ。
「今のわたしは誰でもない……強いて呼ぶならば」
 風見の視線の先で本を投げつけたポーズのまま、マントの女性が一拍の間、息を溜める。
そして、
「――蒼き風のガッシュ」
 それだけを残して、再び歩き始めた。
 風見の視線が、その後ろ姿を離れて足下の本――「コスプレ登録証」と書かれた小冊子に
落ちる。
「……ようするに変態なんですね」
 そう風見は呟いた。
 慧眼である。



 まだまだその頃のジン・ジャザム。
「……結局、月軌道まで来ちまったか。ま、この際だし、観光でもしてくか。まさかこれ
 以上変な生き物も出ねぇだろ」
「HAHAHAHAHA、お待ちシテましたヨ、ジンさーん!」
「……って、なんでアフロォォォォォ!?」



 ざしっ。
 その姿を認めた途端、ユウヤの足が止まった。
 視線が真っ直ぐに、ガッシュと名乗った人物を貫いている。
「貴様は……」
 呻くような声が、その喉から漏れた。
 類は友を呼ぶ。
 ……もとい。達人は達人を知る。
 エルクゥユウヤは、目の前にいる相手の実力をコスプレイヤーの本能で感知したのだ。
 そして、それはガッシュも同様であった。
 互いに身じろぎもしないまま、ゆっくりと時だけが流れる。
 剣豪同士の死合にも似た、凛と張りつめた空気が場を覆う。
 そして――最初に動いたのはユウヤ!
「やっりぃ☆」
 などと声をあげながら、レナの勝ちポーズをきめる。反らした胸が大胸筋の厚みを強調し、
ワセリンが輝く。
「くうっ!」
 ガッシュが痛恨の呻きをあげ、大きくよろめいた。
 だが辛うじてとどまると、そのまま反撃に移る。
「ふっ……愚かなことだ」
 髪をかき上げる、挑発ポーズだ。
 それを目にして、今度はユウヤが苦鳴を発した。
「ぬぅぅっ!」
 だが、すかさずユウヤも体勢を立て直す。
 まさに、死闘であった。
 ユウヤがポージングで僧帽筋を見せつければ、ガッシュが勝利ポーズを決める。続けて
名乗りをあげるが、それに耐えたユウヤは上腕二頭筋をさらけ出す。
 互いに、互角。
 僅かなミスが敗北に繋がる、恐るべき戦いであった。
 遠巻きに見ていた風見の顎が外れる。
 常人には理解できない、異界の戦いであった。
「何をやってるんですか、あれは……」
「ポーズをとっている……んだと思いますけど……」
 いつの間にか戻っていた美加香が、半信半疑の口調で呟いた。
 自分の目が信じられない。
 だが、現実にその戦いは繰り広げられ、互いに痛打を与えている(らしかった)。
 お互いがポーズを決める度、顔に苦痛の色が浮かび、油汗が両者の額を伝う。
「……や、やるわねっ」
「そっちこそ……」
 息が荒い。
 放てるのは、あと一撃が限度か――
 互いの体力、精神力は最早限界であった。
 こうなったら……これで、決める――!
 二人の瞳に炎が宿る。
 そして。
 今。
 最高のポージングが――
「ナァァァイスポォズでぇぇぇぇ!」
 その、瞬間、だった。

 ぶちっ。

 破滅の音が、ユウヤの身体から響く。
 エルクゥユウヤこと、柳川裕也28歳(推定)。お肌の曲がり角。そろそろ運動不足が
祟ってくるお年頃であった。
 腰を押さえたユウヤの体勢が、致命的なまでに崩れる。
 そして、そこへ、
「……オペレーションは完了した! ここをおまえの本当の死に場所にするがいい」
「ぐ、があああああああああああああっ!!」
 ガッシュの渾身のポーズが決まった。
 それに耐えるだけの精神力は、もはやユウヤには残されていなかった。



 いーかげん辛くなってきたけどその頃のジン・ジャザム。
「なんでてめぇがここにいるっ!?」
「……オゥ、ジンさんは知らないのデスカ?」
「……何をだ」
「古くから、コウイウ言い伝えがありマス。月では、アフロが餅つきをしてイルのダト……」
「民間伝承を捏造するなあああああっ!」



「ふっ……」
 風が荒野を駆け抜ける。
 実際には校庭なのだが、気分は荒野だ。アメリカ西部かどっかその辺の。
 そんな風にマントをなびかせながら、ガッシュは一人苦い笑みを浮かべた。
 勝利の味はいつも苦い。
「また、一人のコスプレイヤーを葬ってしまった……」
「ま、だ……だ……」
 その背中に、掠れた声がかかる。
 あまりのプレッシャーに髪までも白く変えながら、それでもユウヤはなおも立ち上がろうと
していた。いや、何がそんなプレッシャーになったのかは知らないけど。
「まだ、わたしは……」
「もう、諦めなさい――」
 呻き続けるユウヤに、目を伏せたガッシュの静かな声が突き刺さった。
 静かに――けれど鋭く。
「あなたでは、わたしには勝てない」
「!? な、ぜ……」
「あなたには――」
 すうっと、ガッシュの――いや、コスプレイヤー・芳賀玲子の瞳がユウヤを貫いた。
「――愛が、ない」

 があああああああああああああああああああああああああああんっ!

 ユウヤの背景に黒ベタフラッシュの集中線が現れた。
 これがJ○J○(一応伏せ字)なら「ズッギュゥゥゥゥン」とかいう擬音が入っている
場面だ。
「愛……あいっ!?」
 愕然とした表情でユウヤが呟く。
「そう、愛……コスプレには愛が必要よっ! レナなんかじゃない、あなたが本当に愛する
 キャラを教えてっ!」
「愛……そうか、愛っ!」
 ユウヤの身体が光って唸る!
 さっきまでの衰弱が嘘のように、雄々しくユウヤは立ち上がった。その全身が金色に光り輝き、
レナのコスプレを構成していた衣装が弾き飛ばされる。
「そうっ! 俺が真に愛するキャラは……っ!」



 とどめのその頃のジン・ジャザム。
「サア、じんサン。コレがお土産の玉手箱デース! ソレニ、帰りのバリュートも用意
 しマシタヨ!
「……実は、開けたらアフロになるってオチじゃねーだろうな?」
「HAHAHAHAHA! ソ、ソンナコトはありおりはべりいまそがりデース!」
「うっわ、なつかし」
「ト、トモカク、れっつごーデス、じんサン!」
「なんか誤魔化されてる気もするが、分かったぜ! オペレーション・メテオ始動!
 任務了解ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 そして、ジンは流星となった。
 きらーーーん。



 その頃のきたみち静。
「あ、流れ星だぁ」
「お、本当だ。三回お願い事をすると叶うって言うけど、静は何かあるかい?」
「うんっ! えっと、えっとね……静とちちうえと、みんなで、ずっといっしょに……」
 きらーーーん。



 でもって、再びエルクゥユウヤ。
「そう……俺はついに目覚めた! コスプレとは愛っ! ならば俺の為すべきコスプレは……!」
 高まったユウヤの気が奇跡を呼んだか、はたまたナノマシンの成せる技か。
 ユウヤの全身を、何処からともなく現れた装甲が包んでいく。

「――完成っ! マジック・ナイト・ジ……!」






 その時。





 空から降ってきた一筋の流星が。





 全ての悪を。










 ――打ち砕いた。











 きゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!

 一瞬のうちに校庭が爆炎に覆われ、周囲を光が埋め尽くす。
 それが晴れた時。
 そこに残っていたのは、煤だらけのジン・ジャザムと、直径1キロにも及ぶクレーター
だけであった。

 世に言うセカンド・インパクトの到来である。
 ここは試験にも出るのでしっかり覚えておくよーに。





 明けて、翌日。
「そんなわけで、この学園に正しいコスプレを伝えるために入部した芳賀玲子ですっ!」
 薔薇部の部室で、無駄に元気な女性が入部の挨拶をおこなっていた。
「……コスプレ、ですか?」
「そ。もう、この学園の子たちってば、コスの基本もなってないんだから。ここは一つ、
 お姉さんが一から指導してあげようってわけよ」
「……別にコスプレしてるわけじゃないと思うんだけど」
「まあ、コスプレと間違われても仕方のない方も多いですから……」
 疲れた様子で頭を振る美也に、微妙に呆れた口調でギャラが言う。
 男爵ディーノもどきにだけは言われたくない台詞であるが。
「とりあえず、最初のターゲットはあのエルクゥユウヤって子ね。頑張っていきましょー!」
 こうして。
 試立りーふ学園に、新たなる奇人が誕生したわけである。
 (一部の人間にとって)めでたし、めでたし。



 追記。
「おおっ、来たか、ジンよ!」
「センセ!? よく生きてたな……って、いつものことか」
「そんな細かいことを気にするな。それより今日はお前に用があってな」
「用?」
「ああ。……実は、俺はついに真のコスプレ道に目覚めた」
「目覚めるな、そんなモン」
「そして! 俺はその対象にお前を選んだ! さあ、科学のためだっ! スケッチを取る
 から、早速マジックナイトに……」
「ロケット裏拳んんんんんんんんんんんんんんんんっ!」

 今日も科学部は平和であったそーな。
 どっとはらい。



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ここしばらく大学の都合などで忙しかったので、リハビリを兼ねて書いてみました。
小ネタ勝負ということで、文体をわざと崩してみましたが、いかがなものでしょーか?

今回、ノリだけで書き殴った感がありますので、かなり失礼な内容になっているかも
しれませんが……ご容赦下さいませ。最早どなたから謝ったらいいのかも分からない
ような状況ですし(笑)
リベンジの覚悟は出来ておりますので……(汗)

それでは。