「しっかし、ヒマよねー……」 「そうですねー……」 ある日の昼下がり。 ボードゲーム部の部室では、三人の雀鬼が溶けてたれそうな程にだらけていた。 「せめて、あと一人来ればいいんですけどぉ……」 ルミラ、イビルに続いて、アレイもだらーんとした表情でぼやく。 「……それなら、普通のゲームでもしたらどうです? カタンなんか、なかなか面白い ですよ?」 「やーよ……わたしは麻雀しかしないって決めてるの」 奥の席で詰め将棋の本を読んでいたティーが半眼で見るが、ルミラは椅子にもたれかかった ままあっさりと無視した。 「なー、ティー。麻雀やろうぜ、麻雀」 「だから、脱衣ルールでなければ相手しますよ」 「それじゃつまんねぇよー」 椅子に後ろ向きに座ったまま、駄々をこねるように首を左右に振る。 「なー、ティー」 「脱衣麻雀はやりません」 きっぱりと言うティーに、イビルがふくれっ面になる。 と、その時。 「あ……」 窓の外を見ていたルミラが、ふと声を上げた。 「ちょっと、アレイ。今の男、連れて来て」 「え? あ、はいぃ」 がちゃがちゃと音を立てて、アレイが部室から出ていく。 「……誰か知り合いでもいたんですか?」 のんびりと問うティーに、ルミラはくすりと猫のような笑みを浮かべた。 「まあ、古い知り合いがね……」 Lメモ私的奇譚「生まれ出る薔薇ダイス」 「あれ、ギャラさんじゃないですか」 「おや、ティーさま」 アレイに連れられてきた男を見て、ティーが僅かに驚きを見せる。 魔界の貴族と、薔薇の奇人。 確かに、想定しがたい取り合わせではある。 「いやはや……それで、何のご用ですか?」 「いえ、呼んだのは私ではなくて……」 ティーが視線をルミラに送る。 それを受けて、ルミラが悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「お久しぶり、ね」 「はい?」 ギャラが首を傾げる。 「いやいや……すみません、何処かでお会いしましたか?」 「忘れたの?」 ルミラがゆっくりと椅子から立ち上がる。 そして、三対の怪訝そうな視線が見守る中、ルミラの口がギャラの耳元に近づき―― 「ねえ、……?」 「なっ……!」 ルミラの唇が数度動いた途端、ギャラの顔が驚愕に強張る。 ルミラの顔を見つめたまま数度大きく瞬きし、ようやく表情が元に戻った。 「なるほど……いやはや、確かにお久しぶりですね」 「もうちょっと早く気づいても罰は当たらないけれどね」 くくくっ、とルミラが楽しげに喉を鳴らした。 「……ルミラさま、お知り合いなんですかぁ?」 アレイが問うと、ルミラは悪戯っぽく片目をつぶった。 「まあ、昔のね。ねぇ?」 「そうですね……」 ギャラも唇の端を吊り上げる。 けれど、それは何処か強張っているようだと――そう、ティーには思えた。 「で、何のご用ですか?」 「いや、面子が足りねーからさ」 言ってイビルが雀卓を示す。 「オレとアレイとルミラ様で三人。あと一人捜してたとこでな」 「なるほど。ですが、私は麻雀は出来ませんよ」 あっさりとギャラが言う。 「……それじゃ、なんにもならないですぅ」 「そうでもないわよ」 それを聞いてアレイが肩を落としたが、ルミラは平然と手を振った。 「あなたなら、面子の心当たりくらいあるでしょ?」 「いやはや……急に言われましても」 「集めないと、バラすわよ」 「すぐに集めて参ります」 びっと、ギャラが背筋を伸ばす。 そして、そのまま逃げるように部室を出ていった。 「……いったい、どんな秘密なんです……?」 「ま、それは言わぬが花ってやつよ」 のんびりと問うティーに、ルミラは肩をすくめて見せ、また椅子に腰かけた。 「……にしても、これじゃまたしばらくはヒマねー」 「ふっふっふっふっふ……」 その日、YOSSYは仮眠館の一室に陣取っていた。 理由は簡単。 家まで帰る時間が、勿体なかったからである。 「ついに……ついに、これがこの手に!」 タイタニック号の舳先に立ったデカプリオのような表情で鞄を開く。 そして、恭しいとさえ言える手つきで一冊の本を取り出した。 その表紙を前に、ごくり、と唾を飲み込む。 「それでは……いざ!」 血走った目で表紙に手をかけ―― 「どうしたんですか、YOSSYさん?」 「って、うわあああああああああああああああああああああああっ!?」 本を抱えたまま、一息で部屋の端まですっ飛ぶ。 「……って、な、何だ……東西くんか……」 「何だ、って……びっくりしたのはこっちですよ……」 声をかけた姿勢のまま凍りついていた東西が、目を丸くしてぼやいた。 「い、いや、ちょっと……ティリアさんたちかと思ったから……」 「……ティリアさんたちに見られたら不味いものなんですか、それ?」 心なしか、東西の声が冷たい。 「は、ははははは、そんなことがあるはずないじゃないか」 YOSSYの乾いた笑い声が響くが、東西の視線は冷たいままだった。 「まあ、いいですけど……」 「いやいや、『L学園コスチューム大全・セガランク』ですか。デコイさまの仕事ですか?」 「そうだけど……って、誰だ!?」 何の前触れもなく背後からかかった声に、素早くYOSSYが振り向く。 とは言え、構えたアルバムがそこはかとなく間抜けではあったが。 「……何をしてるんですか、ギャラさん……?」 東西が呆然とした声で呟く。 その視線の先では、天井からぶら下がった、タキシード姿の男がいた。 「いやいや……葛田さまのお力ですよ」 薔薇の花を口にくわえたギャラから、ずれた答えが返ってくる。 その横では、外れた天井板の隙間から葛田の顔が覗いていた。 「……生物部謹製、天井薔薇です……」 「……いや、そんな事が聞きたいんじゃなくて……」 確かに、ギャラの足は天井から生えた薔薇によって天井に固定されていたが、そんな ことはどうでもよかった。 「とにかく! 俺はこれからこのアルバムを堪能するんだから、さっさと消えてくれ!」 どこから取り出したのか、YOSSYが喧嘩刀を構える。 「いやいや、まあ話を聞いて下さいよ」 「断る」 きっぱりと言い切るYOSSY。 だが、ギャラはそれを無視して語り始めた。 「実は、今ボードゲーム部の部室で麻雀が始まろうとしているのですが……」 「それがどうしたんだ?」 「脱衣です」 ぴくっ。 さらっと言い放ったギャラの言葉に、YOSSYの耳が大きく動く。 「さらに言えば、面子のうち三人は女性です」 ぴくぴくっ。 YOSSYの手の中で、喧嘩刀が大きく跳ねた。 「……薔薇部の連中は?」 「いません」 ――YOSSY、リミットブレイク。 「その空席、もらったああああああああああああああああああああああああっ!!」 ごうっ! 部屋の中を、一陣の風が通り過ぎる。 『そのとき、YOSSYさんは音速を越えていました』とは、東西の弁である。 「いやはや……容易いものですね」 にやり、とギャラが唇を吊り上げる。 それを見て、心底どうでもいい気分に襲われながら、東西は一応ツッコんでおいた。 「ところで、いつまで逆さまなんです……?」 「それもそうですね。葛田さま、どうすれば外れるのですか?」 「……薔薇だけに、バラバラにしてください……」 くくくくくっ、と怪しい含み笑いが天井裏から漏れ聞こえてくる。 「……どうやって?」 東西の素朴な疑問に答える者は、誰もいなかった。 「……東西さま。精霊に語りかけて、外したりはできないでしょーか?」 「うーん……」 嫌々ながら、念を凝らす。 と、 『ヘイ、ブラザー! いい脚してるじゃねぇか! オゥ、そっちのブラザーも何か用かい?』 「意志疎通は無理です」 きっぱりと東西は言い切った。 「……なら、こうしましょう……」 天井裏から、ぼそっと声がした瞬間。 「プアヌークの邪剣よ!」 どがあっ! 光の奔流が、天井板を打ち抜く。 そして、 「……何だ、今の音は!?」 「あっちの方からよ、幻八!」 どやどやと足音が近づいてくる。 「えーと……」 東西は、しばらく悩んで、 「さよなら」 逃げることにした。 「侵入者発見! フィルスソード!」 「このテロもどきが! 刃拳!!」 などという声と、ぐしゃっという嫌な音が聞こえたような気がしたが、とりあえず 気のせいだということにしておいた。 『結構ヒドいですね、東西……』 「いや、だって薔薇だし……」 そして、三十分後。 「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 ボードゲーム部の部室から、疾風のように一つの影が走り去っていった。 後に、宙に漂う一枚の布を残して。 「ふーん……トランクス派だったの」 「縞柄かぁ、けっこう派手だな」 「ごめんなさいですぅ」 「ってわけで、身ぐるみ剥いでみたんだけど、幾らになるかしら?」 「いやはや、そうですね……」 ルミラの差し出す衣服を手に、ギャラはしばし考え込んだ。 ちなみに、まだ血痕が残っていてスプラッタだったりする。誰も気にしていないが。 「ブルバラショップに売れば、二万くらいにはなるでしょうか?」 「何だ、その店は」 イビルがツッコんできたが、とりあえず無視しておく。 「でも、結構お金になるんですねぇ」 「そうね……あんたたち、これで稼いでみたら?」 感心したように言うアレイに、ルミラが冗談めかして口を挟む。 もちろん、ルミラ自身、ただの冗談のつもりだった。 ――だが、ここに冗談を本気にする人間が一人いた。 「ああ、いい考えですね」 「「「え?」」」 かくして。 その翌日、薔薇部の部員名簿に「アレイ」の名前が新たに記されることとなった…… ======================================= どもども、ギャラでございます。 薔薇部もこっそり増強したいなーと考える今日この頃、皆さま如何お過ごしでしょーか。 というわけで、とりあえずアレイはいただきます(笑) この調子で、Lキャラをもう一人二人と、SS使いを引きずりこみたいものですが…… どなたか入部しませんかー?(笑) まだ人数少ないですから(正規は橋本、矢島、ギャラ、アレイのみ)今がチャンスですよ(笑) ちなみに、ルミラとギャラの過去については次の話あたりで書こうかと思っています。 と言うほど、大袈裟なものでもないですが……(笑) なお、シリアスにはなりません(笑) それでは。