Lメモ私的奇譚「愛と正義の名の下に/孫六を君に(劇場版)」(壱) 投稿者:ギャラ

 ――導師は行ってしまわれた。

 がらんとした第二茶道部の部室を前に、葛田玖逗夜はそっと溜息をついた。
 二秒ほど考えて、改めて思いを心に浮かべる。

 ――導師はイッてしまわれた。

 なんだかちょっぴり淫靡な感じ。
 ……だからどーした、と読者諸卿は思われるかもしれないが、どうして
こーゆー妄想がなかなか重要なのである。
 なにしろ、とりあえず本人は幸せになれる。
 ……いや、他のメリットは今のところ思いつかないが、それだけでも十分
というものではなかろーか。
 あ、あと、電波の力を身につければ学園を薔薇色に染めたりもできるが。
 瑠璃子さん狙いの四人のうち二人が、くずたん&みずのんであることを
考えると、割と未来は暗いのかもしれない、この世界。
 頑張れ、とーる&昂河。
 未来は君たちの肩にかかっている。
 いやいやマジで。



Lメモ私的奇譚・もーいーです風紀動乱っぽくなくなってしまいました認めます編
       「愛と正義の名の下に/孫六を君に(劇場版)」



 さて、舞台変わって代々森中央公園である。
 代々森駅からほど近く、テニスコートなども揃ったなかなか大きな公園で
ある。昼はデートスポット、夜は青カンのメッカとして名高い。
 いや、夕方に励む方々でもいないではないが。
 YOSSYFLAMEの言によれば、ここと学園裏の神社が覗きの穴場ということに
なる。
 とは言え、昼にもカップルや若者たちで賑わう場所ではあるのだが……
今日ばかりは、普段の賑やかさがまったく鳴りを潜めていた。
 その原因は、たった一つ。

 ――噴水の前で睨み合う、二人の男たちの存在である。

 岩下信とハイドラント。
 学園でも有数と噂されるSS使いの二人が、殺気に満ちまくった表情で
激しく睨み合っていた。
 熱い視線がとっても素敵。
 ここに玲子がいたら『キスまであと10センチ。このささやかな距離が
遠すぎて遠すぎてああんっ☆』などと余計なナレーションを入れそうな光景
でさえあった。
 多分その翌日、身元不明の死体が学園近くの川にでも浮かぶことになる
だろうが。
 月夜の晩ばかりではないのだ。
 ……いや、割と本編とは関係ない話ではあるが。



「ふっふっふっ……」
 そこから、上空遙かに数十キロ。
 超高空に浮かぶ戦艦「冬月」の中で、ギャラは満足げな笑みを漏らした。
「如何です、この私の完璧なる策略の冴え! あのよーに熱く見つめあう
 お二人ならば、必ずやデートも成功裡に終わりましょうて!」
「……まあ、熱く見つめあってるのは否定しないけどねー……」
 そこはかとなく疲れた口調で美也が呟く。
 たしかに、岩下とハイドを繋ぐ視線は、これ以上ないくらいに熱いもの
だった。戦艦冬月のモニター越しでさえ、火花の飛び散る音が聞こえそうな
気さえする。
 ただし、ここから恋愛に発展する可能性があるかと聞かれれば、答えは
ノーだ。
 殺し合いに発展する可能性ならあるかもしれないが。
『はっはっは、よく来たなぁ、岩下……』
『そっちこそ、本当に来るとは思わなかったさ……』
 ぎすぎすぎすぎす。
 スピーカー越しにも関わらず、ぎすぎすした雰囲気が全力で伝わってくる
会話が交わされている。
 聞いているだけで胃が痛くなりそうだった。
 美也でさえそうなのだから、真人間に近い性格の冬月などたまったもので
はない。先ほどから、コンソールに突っ伏したままぴくりとも動かなく
なっていた。
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……」
 ぼそぼそと呟く声だけが僅かに漏れ聞こえてくる。
 シンクロ率がそろそろ200%くらいにはなっているかもしれない。
 いつ暴走してもおかしくはなかった。
 だが、それを気にするほどギャラが繊細な人間ならば、最初からこんな
騒動になりはしない。
「さあ、冬月さま! 今こそ『オペレーション・相合い傘でランデブー』発動
 の時っ! 我らがあかり様の報復のために!」
「……了解です……」
 あかりの報復、という一言だけに反応して、冬月の手がコマンドを入力する。
 なんとなく騙されているような気がしたが、それを追求するだけの気力は
彼には残されていなかった。
 ……合掌。



「それにしても、自分をこんな所に呼び出すとは何のつもりだ?」
 日頃の学生服とはうって変わって、こざっぱりとしたシャツとジーンズの岩下。
「……ふん。呼び出したのは貴様の方だろうが」
 薄いベージュのスーツ姿のハイド。
 外見だけを見れば、学校の友人がつるんで遊びに行こうとしているように
も見えるが、二人のまとうおどろ線のオーラが、そのような甘い予測を完膚
なきまでに打ち砕いている。
 なお、『ハイドラント服装選抜・13使徒女性陣バトルロワイヤル』は、
7R目に電芹のジャパニーズオーシャンスープレックスをかいくぐって皇華
の必殺ラリアートが炸裂。そのままジャーマンスープレックスに持ち込んで
見事フォールを奪い、スーツということで決着した。
 『次こそは必ずキャミソールで』とは日陰パワーボムに敗れた弥生さん
の弁。『次のドームで雪辱を晴らします』とは電芹の言である。
 いや、思いっきりどうでもいい話だが。
 キャミソールを期待していた人は反省するよーに。
「……待て、ハイドラント。お前が呼びだしたんだろう?」
「……どういうことだ? 私は貴様に呼び出されて来たんだが……」
 ぎすぎすした雰囲気が僅かに納まり、変わって不審の色が両者の瞳に浮かぶ。
軍師型でないとは言え、組織の長は間抜けでは務まらない。
 ……ベネやん率いる魔族部隊は務まってるじゃないか、という意見もある
だろうが、彼もきっと本質は間抜けではない……かもしれない。
 多分間抜けじゃないと思う。
 間抜けじゃないんじゃないかな。
 まあちょっとくらいは、覚悟しておけ。
 (c)さだ○さし。
「……自分たちを呼び出して得をする者と言えば……」
 はっと、何かに気がついた様子でハイドの顔が上がった。
「……まさか、弥生さんか!?」
「なんでそうなる」
 どうやら被害妄想の気があるらしい。
 いや、無理もないが。
「すまん。間違えた」
 こほん、と咳払いを一つ。
 それから改めて、
「……まさか、生徒指導部か!?」
「ああ、それが妥当だろう」
 たしかに、常識的な線である。
 問題は、今彼らが相手をしているのが常識の通じない人間だということだが。
 常識で問題が解決できると思っているあたり、まだまだ甘い。アフロ同盟
に一週間ほど体験入部して、世間の奥深さを味わってくることをお勧めする。
 ダークなアフロと炎使いのアフロ。後者に至っては自分の髪に引火して
エラいことになりそうな気もするが、それも人生勉強であると信じたい。
 まあ、若い頃の苦労は買ってでもしけおけと言うし、若い頃のアフロも
悪くはあるまい。
「しかし、生徒指導部だとすれば……」
 二人が顔を見合わせて頷く。
 と、
 ――ぽつ。
 ――ぽつ、ぽつ。
「……む、雨か……」
 それを狙っていたかのように、雨が降り出していた。
 この公園を含む、僅かな地域にだけ。



 雨が降り始めるより、ほんの少し前のこと。
 噴水の位置からは見えない茂みの中で、ごそごそと動く人影があった。
「あの……こんなことして、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「だいじょぶだいじょぶ、まっかせなさ〜い☆」
 青空のような爽やかさで玲子が笑う。
 もちろん、青空は青空でも「抜けるような青空」というやつだが。何が
抜けているのかは、この際語るまでもないだろう。
(どこを信用して任せろって言うんですか)
 言葉にならない呟き。
 これを口に出せるようなら、僕にも今とは違う人生があったんだろうか……
 思わずしみじみと考え込んでしまうkosekiであった。
「にゅっふっふっふっふ……こう見えても、お化粧は得意中の得意なんだ
 からぁ……っと、ほらできたっ!」
 きゅっ、と最後に口紅を引いて、玲子がkosekiの眼前に鏡をつきつけた。
「どお? 結構いい感じでしょ〜?」
「……これが……ボク?」
 頬に手を当てて、呆然とkosekiが呟く。いつの間にやら「僕」から「ボク」
に変わっているあたりがポイントだ。いや、何のポイントかはともかく。
 もっとも、kosekiが呆然としても無理はない。
 鏡の中に映っているのは、もはや気弱なサイボーグ高校生ではなかった。
 きらきらと輝く大きな瞳。ほんのりと薔薇色に染まった柔らかそうな頬。
小さく慎ましい唇は、口紅でほの紅く彩られている。そしてとどめとばかり
に、顔の両側に鎮座まします金髪縦ロール。
 今時少女マンガでも見ないだろう、というくらいに完全無欠の金髪美少女
がそこには存在していた。
「にゅっふっふ、コスするならお化粧は必須技能だからね〜」
 もはや化粧と言うより、特殊メイクの世界である。
 そもそも、どこから持ってきたのか縦ロール。
「それにしても、kosekiくん、肌のノリがいいね〜……ね、次のこみパで
 いっしょにコスやらない?」
「い、いえ、ボクはそんな……それより、本当にこんなことで誤魔化せるん
 ですか?」
「むぅ〜、あたしの腕を疑うのぉ?」
「あ、そんなつもりじゃないんですけど……でも、これが……」
 そう言って、背中を指差してみせる。
 そこには、巨大なキャノン砲がそびえ立っていた。
 しかも、二門。
「いくら顔だけ変えても、これですぐに分かると思うんですけど……」
 まあ、当然ではある。
 いくら何でも、ロケット砲かついだ金髪美少女と言うのは不自然だろう。
 ……確かに、弓矢構えた金髪美少女とか、包丁抱えた赤毛美少女とか、
電柱抱えた橙毛美少女とかも存在する世界ではあるが、それにしても。
 そう言えば、自爆装置抱えた箱形美少女もいたか。
 『美』少女かどうかは微妙だが。
 求むD箱萌え。
 そして更に求む、D箱初夜SS。
 ……相手は神海だろーか、やはり。
「だいじょーぶっ! そこはちゃんと準備が……ほらっ!」
 自信満々に取り出したブツを、kosekiの背中に添え付ける。
 赤くて四角い、一抱えほどの大きさの物体。
 それを目にした瞬間、kosekiの脳裏に電流が走った。
「――これはっ!」
「そう! これこそがロケット砲を無理なくカムフラージュする奇跡の
 アイテム……SC大喜びのランドセルッッッ!」
「おおっ!」
 kosekiの背中に、燦然と真紅のランドセルが輝く。
 たったそれだけで、ロケット砲の違和感は消失した。
 そこにあるのは、もはや無骨なロケット砲ではない。それはランドセルの
端から覗く縦笛に過ぎないのだ。
 しかも、それを担ぐのは金髪縦ロールの少女。
 まさにちゅるぺた番長大喜びである。
「この純真無垢なS学生を疑う人がどこにいる、いやいないっ! 完璧よ
 kosekiくん、いえむしろkose子ちゃん!」
 あまりの興奮に反語表現まで使って叫ぶ玲子。
 ネーミングセンスは腐っていたが。
「kose子っ!?」
 しかも、何故かkosekiがショックを受けてみたり。
「いかに岩下くんやハイドくんでも、このパーフェクトなコスを見破ること
 はできないわ!
 さあ、自信を持ってれっつらごー!」
「……分かりました、ボク、やります!」
 ぐっと拳を握って、kosekiの瞳に炎が宿る。
 その顔の横では、びよびよ揺れるよ縦ロール。
 ヘリウムガスを吸い込んで、傘を片手にkosekiが旅立つ。背には赤い
ランドセル。そこから伸びる二本のリコーダー。
 ただし、直径20センチ。だってロケット砲だし。
 しかも体重100キロオーバー。だってサイボーグだし。
「がんばれ〜☆」
 ハンカチをひらひらさせながら見送る玲子。
 ――だが、その顔が突然に強張った。
「しまった!」
 引き留めようにも、もはやkosekiの後ろ姿は見えなくなっている。
 愕然とした表情で唇を噛みながら、玲子はただ呻くことしか出来なかった。
「お化粧に夢中になって……コスを着せるの忘れてた……」
 ……kosekiの人生、風前の灯火。
 いや本気で。