「兄さん!!」 風紀委員会生徒指導部管轄下にある地下反省房管理室に松原美也が駆け込ん できたのは、二学期が始まって早々の朝の事だった。 「何事だ、騒々しい」 事務机に向き合って書類を作製していたディルクセンは、煩わしげな一瞥を 妹に送り、すぐに書類へと視線を戻す。 だが、再び紙面に文字を刻みかけたシャープペンシルの動きは、目前に突き つけられた一枚の校内新聞−−−情報特捜部発行のそれ−−−のトップ記事を 目にしたとき、完全に硬直した。 否。 完全に硬直した訳ではない。ぷるぷると小刻みに、震えている。 「…………こ、これは?」 その一言を発するまでにずいぶんと時間がかかった。美也は「はぁっ」、と ひとつ溜息を吐いて、状況の説明をはじめた。 「朝の見回りしてたらね。職員室前の掲示板に人だかりが出来てたのよ。で、 例によって例の如くの『報道審判 judgment days』の発行日だ と気づいてね。風紀を乱すような内容じゃないかと思って確認してみたら、案 の定これよ」 「……………………回収は済ませたか?」 「各校舎に張り出された分は全て、回収済みよ。ただ、時間が時間だったし、 個人に配られた分は、回収のしようが無いから」 しばしの沈黙。だがすぐに、その沈黙は新たな闖入者によって破られる事に なる。 「生徒指導部長! 情報特捜部の長岡達が、こんなものを配ってました!」 「ディルクセン、見たかあの記事を!?」 「指導部長!」 「なんかえらいことになってるぞ、ディルクセン!」 さらに数人の生徒指導部員が駆け込んでくる。そして、その視線は、ディル クセンの身体のある一点に集中していた。 やがて、一人の三年生の生徒指導部員が、余計な一言を感慨を込めて呟く。 「……お前がヅラだったとは、ちっとも気づかなかったよ」 その一瞬、重苦しい沈黙が管理室を支配して。 「こ、こっ、こうきしゅくせえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 さらに一拍おいて、すさまじい絶叫が地下全体を震わせた。 Lメモ:『メディア支配の必要性』 びりっと袋の口を破り、中身の粉末を口に含む。それから、ミネラルウォー ターのキャップを開き、粉末ごと胃に流し込む。そして胃の辺りを抑え、一息 ついてからディルクセンは愚痴の続きを再開した。 「ったく、誰がヅラだ誰が!? 確かに最近心労で抜け毛が増えてたり胃に大 穴が開いて入院の必要性を医者に勧められたりしてるが、だからってヅラが必 要な程禿とりゃせんわ!! 大体、信憑性50%未満の志保ちゃん情報とやら を何故信じられるのか……」 すでに授業開始時刻を過ぎているが、届け出は済ませてある。それに、授業 中の方が『目標』の居場所が特定できて都合がよい。 「……だが、いい機会だ。この機に奴等の刊行物に検閲を加える事を認めさせ てくれよう。それにはまず、連中をまとめてひっとらえてこちらの優位を確立 させねばならん」 「生徒指導部長! 全生徒指導部員、及び動員可能な風紀委員は集結を完了し ました」 直立不動の姿勢で報告する一般生徒指導部員に無言で頷き、ディルクセンは 表へと出る。そこには、完全装備で整列する100名を越える生徒指導部員、 そしてディルクセン派の一般風紀委員達の姿があった。それを確認し、彼はこ とさら重々しく、しかしどこか演技じみた仕種を伴いながら演説をはじめる。 「諸君! もはや我々の忍耐は許容力の限界を超えた……って貴様らどこを見 ている、どこをっ!?」 彼らの視線が自分の額当たりに集中しているのに気付き、彼は顔を紅潮させ て絶叫した。気まずげに、しかし笑いを堪えきれない様子で顔を背ける一同を 前にしばし絶句していたディルクセンだったが、気を取り直すと咳払いして演 説を再開した。 「学賊・情報特捜部は、常に信憑性の低い、事実無根といってさえ過言ではな い欺瞞情報をもって、さももっともらしく『スクープ』と称し、学内の風紀を 乱し続けてきた。彼らの欺瞞情報のために名誉を傷つけられたものも数知れな い。そして、今回彼らは私への個人攻撃の形を持って、生徒指導部に挑戦して きたのだ……って、だから笑うなそこぉっ!! このとおり、引っ張ったって ゆすったって取れんわ! 自前だこの髪は!!」 「接着剤?」 「ちゃうわぁっ!!」 「……禿を隠すために総髪にしてるのか?」 「やかましいっ! しばかれたなかったら邪推すんなっ!!」 今回ばかりは次々茶々が入れられるために演説にならなかった。怒鳴りすぎ て喉が痛くなり、息も切れてしばし肩で荒い呼吸をする。そして。 「…………とっとと、行ってこぉぉぉぉぉぉぉいっっっっ!!!!」 絶叫が再度、地下全体を震わせた。 「土佐日記は紀貫之が土佐守の任期を終えて、都へ帰還する旅路で編集したも ので…………って、な、なに、あなたたち!?」 古文教師、小出由美子は唐突に教室内に乱入してきた武装集団を見て硬直し た。まぁ、至極当然の反応である。一般生徒もまた同様。風紀委員に対するほ とんど条件反射に近い反応で逃げ出しかけたYOSSYFLAMEや他の数人 のSS使い達は、相手の出方次第ですぐにも行動に移れるように、さりげなく 身構える。 「失礼、生徒指導部の者です。学賊・悠朔及び長岡志保の身柄を拘束する命令 を受けております。二人の姿が見えないようですが?」 一礼して、生徒指導部の代表らしき男子生徒が由美子に尋ねる。 「え、と、悠くんと長岡さんなら、授業が始まったときから姿が見えないけど ……」 「そうですか、失礼しました」 由美子の返答を聞くや否や、生徒指導部員達は頷きあって退出していく。ほ っと胸をなで下ろす由美子を傍目に、YOSSYはそれまで存在を感じさせな いほど沈黙を保っていた広瀬ゆかりと貞本夏樹を振り向いた。 「どうする? 面白そうだから、ひっかきまわすなら手伝うぞ?」 「さて、どうしようか?」 机の中から件の校内新聞を取り出し、広瀬は悪戯っぽい微笑みを浮かべる。 その表情を見て、YOSSYもまたにやりと笑った。 「決まりだな」 「そうね、それじゃ」 YOSSY、広瀬、貞本の三人が、やおら一斉に椅子から立ち上がる。 『先生、気分が悪いので保健室に行ってきます!』 「いいの? 浩之」 窓の外の廊下をYOSSY達が駆け去っていくのを見て、雅史が浩之の顔を 覗き込んだ。 「あー? なにがだよ」 机に突っ伏し居眠りをしていた浩之が、眠たげな声で返事を返す 「浩之ちゃん、また眠ったふりなんかして……本当は志保の事、心配なんでし ょ?」 あかりも苦笑しながら言う。三人とも今朝配られていた情報特捜部の部誌の 記事は読んでいる。直後に情報特捜部員が全員その身を隠した事も。 「ったく、あいつも捕まって反省房にほうり込まれるのが嫌ならあんな記事作 るなよなぁ」 机に突っ伏したまま、浩之が面倒くさげに言った。 「それはそうなんだけどね。でもしかたないよ、あれが志保の生き甲斐なんだ し」 雅史があくまで志保を弁護する。それにあかりが言葉を続ける。 「そうだよ浩之ちゃん。志保ちゃん情報を触れ回れなくなったら、多分、志保 抜け殻みたいになっちゃうと思うな」 だから、と二人の声が揃った。 「助けに行こうよ、浩之ちゃん」 「今日一日逃げおおせたら、ディルクセン先輩の興奮も冷めると思うしさ」 「浩之、僕も手伝うから、助けに行こうよ」 最後には、それまで黙って話を聞いていた長瀬祐介までが言葉を添える。 「浩之ちゃん」 「…………ったく、しょーがねーなぁ!」 がばっと勢い良く上半身を机から起こし、浩之がにやっと笑ってあかり、雅 史、祐介の三人を見渡した。 「いっちょ志保救出作戦をはじめるとしよーか!」 「そんな訳で。あたし達は授業を受ける権利を不当に侵害され、生徒指導部の 卑劣な弾圧から逃れるために、このようにエディフェルの某所に隠れ潜んでい る訳なのよ!」 「……誰のせいだ、誰の」 エディフェルの一角に身を隠すようにして、ハンディカムカメラに向かい熱 く訴えかける志保にシッポが半眼で突っ込んだ。 「まったくだ。今回の記事には私はまったくノータッチのはずだが」 「……あんたの場合はいつもノータッチじゃないのよ」 悠朔の言葉に今度は志保がジト目で突っ込む。 「部のことはおまえに任せているからな」 だが悠はそれに動じることもなく、面倒くさげに言い放った。その彼の態度 に志保がいつものごとくぎゃあぎゃあと騒ぎかけたが、シッポが険しい視線で 廊下の向こうに関心を集中させたのを見てそちらへとカメラを向ける。 「きたぞ……八人。それに二人うちの部員が捕まってるか。まだこちらには気 づいてないみたいだけど」 「あー! 結構ボコられてるじゃない、無抵抗の人間に対してひどい事するわ ね〜!!」 廊下の向こう、おそらくトイレに潜んでいた情報特捜部員を捕縛したのだろ う生徒指導部員の様子を眺め、志保が憤然と呟く。彼女の視線の先には、激し く殴打されたのだろう、顔のあちこちに青痣を作った下級生の姿があった。 「無抵抗だったのかどうかは知らないけど、確かにあれはひどいなぁ」 志保やシッポ同様扉のかげから向こうを覗き見て、城下和樹がさすがに眉を 潜める。そして振り返り、使われていない教室に身を寄せ合うようにして隠れ ている情報特捜部員たちにたずねる。 「で、どうしよう? このままじゃ埒があかないけど」 最大の問題である。生徒指導部に反発する生徒たちや志保ちゃんネットワー クの手助けのおかげでこの一時間は逃げ切っていたが、そろそろさすがにエデ ィフェルの中は逃げ場がなくなってきた。情報特捜部の中心メンバーが全員二 年生であるためか、生徒指導部が人員の大半をエディフェルに投入しているか らだ。 「人海戦術でしらみつぶしだからなぁ」 「出入り口は全部陣地化されてたしね」 どうやらこちらには気づかないまま、捕縛した情報特捜部員を反省房へと連 行していくらしき生徒指導部員を遠目に、シッポと城下がため息を漏らす。 「シッポ、あんた確か戦闘機かなにかもってたじゃない。あれ、遠隔操作でも って来れるんでしょ? こういう時こそ有効利用しなさいよ」 「それならもう試みた」 志保の言葉に即答する。 「格納庫、まっさきに生徒指導部に制圧されてしまったみたいで…………」 シッポの言葉を受け継いで、シャロンが申し訳なさそうに頭を下げた。 「もー、肝心なとこで役に立たないわね」 「騒動の種だけまいて、解決には何も貢献できん奴にいわれたくないぞ」 ぼそっとシッポが突っ込むが、もちろん志保は気にしない。シッポとシャロ ンから悠に視線を移動させ、我関せずとばかり悠然としていた彼に食って掛か る。 「あんた、部長なんだから、一人で悠然と構えてないでなにか解決策考えなさ いよ!」 「どっちにしたって、今は動けないだろう。それより、あまり騒がしいと見つ かるのも早まるぞ…………」 そこで悠の目が細められる。場の雰囲気が変わったことを敏感に感じ取り、 志保もまた次に予想される事態に備えて身構えた。見れば、シッポもソウル・ ハッカーズを構え、黒板の向こうを見据えている。そして、 『先手必勝!』 「真・魔皇剣!!」 「ゴルン・ノヴァ!!」 ビームと衝撃波が左右の壁を砕く。その向こうに隠れていた生徒指導部部隊 もろとも。 「逃げるぞ!!」 崩れた壁の向こうに討ち漏らした指導部員の数を見て、悠は躊躇なく廊下に 飛び出した。いかにバトルマニアの彼も、一般生徒とは言え統制の取れた50 人近い武装集団を相手に正面から戦うほど無謀ではない。廊下にも展開してい た敵を真・魔皇剣の一撃で吹き飛ばし、血路を切り開く。 「あっ、追えっ、逃がすな!!」 「発砲許可!! 撃て撃て撃て撃て!!」 そんな声が包囲網の中からあがり、次いで銃を構えた生徒指導部員達が次々 に銃口を彼らに向けた。 「どひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」 「いったい、何時まで逃げ隠れしたらいいんだろうなぁ」 ゴム弾が雨あられと降り注ぐ中、万感の思いを込めたシッポの言葉を合図に 一同は疲れたような溜息を漏らした。 「よぉし、連中を確実に上に追いやっているな」 最初の奇襲が失敗に終わるのは承知の上のことだ。あとは、下に通じる階段 や渡り廊下を封鎖して、徐々に上に上に連中を追いつめていけばいい。そうす れば、すぐに片がつく。 ……彼らは空を飛ぶことなどできないのだから。 (よし、五階西側の防火壁をすべて閉鎖しろ。ベルタ、カールは東側からマウ スを追い立てていけ。アントンは六階に先回りして踊り場でマウスと軽く交戦 して後退しろ……ドーラは待機。アントンが後退した後に上に上がって退路を 完全に遮断しろ) 額に巻いた『鉢がね』を介し、思念による指示を飛ばす。勝利を確信し、デ ィルクセンはにやりと笑みを漏らした。 「……ククク、人をヅラ呼ばわりした報いは受けてもらうぞ」 あとは狙撃班が牽制を加えつつどんどん屋上に押し上げて、そこで全戦力を つぎ込んで厄介な連中を殲滅するだけ……なのだが。ディルクセンは訝しげに 眉をひそめた。 「しかし、エミールは何をやってるんだ?」 エミール……つまり、上層階に配置した永井の指揮する班の動きが見られな い。本来上で待ち受け、徐々に屋上へと引き込んでいくべき彼らが動かないか ら、下から追い上げていく班の一つだったアントンを先回りして上に上げなく てはならなかった。傍らの生徒指導部員も、怪訝そうに首を傾げて報告する。 「それが、先ほどから連絡が取れませんで」 ふむ、と頷いて、ディルクセンは顎に手を当てた。 「なにかトラブルがあったのかもしれんな」 だが作戦は順調に進行しているし、もともとどの班かはトラブルに遭遇する 事を前提に作戦を組み立てていたから大して問題もないだろう、と彼は判断す る。もし彼らが何者かに襲撃されていたとして、下手人どもにはあとで鉄槌を 下してやればよい。 そう結論づけて、次の指示を飛ばそうとしたその瞬間だった。 「正体不明の連中による襲撃?」 連絡不能だったエミールから唐突に入ってきた思念による報告に、ディルク センは眉をひそめた。 (永井がやられた? ……それは捨ておけんな。わかった、ベルタをそちらに 回す。現状を維持しろ) とりあえずの指示を終え、ディルクセンは溜息を吐いた。 「まったく、永井もふがいのない。それに、交信のときは符丁を使えといっと るのに、なっとらんな」 事が片付いたらもう一度徹底しなければな、と舌打ちして、彼は周囲の風紀 委員を見渡した。 「止むをえん、移動する。我々が後詰めとして出るぞ。急げ!」 「上手く行ったみたいだよ」 『鉢がね』を頭から外しながら、周囲の面々に頷いたのは雅史だった。 「じゃぁ、もうすぐ次の連中が来るのか」 「どうする? また別の作戦を考えないと」 打ち倒した生徒指導部員を隠し終え、浩之と祐介がトイレの中から現れる。 「なんか、神岸さんがいれば作戦なんか必要無い気がしてきたわ」 疲れた声で呟いたのは広瀬。その横であかりが「えへへ」と照れくさそうに 笑っている。 広瀬・YOSSY・貞本組と、浩之・あかり・雅史・祐介組が合流した後、 永井率いる20人ほどの生徒指導部・風紀委員の混成部隊と出会ったのは数分 もしないうちの事だった。都合のいいことに永井たちは情報特捜部が上がって くるはずの前方の階段に関心を集中していて、背後の広瀬たちには全く気づい ていない。これ幸いと広瀬たちは生徒指導部に背後から奇襲を掛けたのだが… … 『えっと…………………ギガデイン』 これですべて終わってしまった。効果範囲外にいたりしてその一撃を逃れた 生徒指導部員も、すぐさま祐介の電波で全滅。他の連中に活躍の場は一切与え られていなかったりする。 「俺達何のために……」 「なんか虚しいわね……」 YOSSYや貞本が黄昏ているのはそんな訳である(浩之組の男子どもは、 いい加減慣れきってしまっているらしい) 「取り敢えず、面が割れなかったからいーじゃねーか」 「まぁ、それはそうだけどね」 苦笑混じりに慰める浩之に、広瀬もまた苦笑で応じた。さすがに、風紀委員 長が形の上では風紀委員会傘下にある生徒指導部の活動を邪魔しているという 事実が発覚するのは、そのまま彼女の進退問題に直結する。正体がばれるのを 避けるため、ゲリラのようにスカーフで顔の下半分を覆っているとは言え、知 り合いが見れば一発で正体を見抜かれてしまうだろう。 だから、一瞬で勝負が決まったのは歓迎すべき出来事だったのだが。 「せめて、永井は一発殴っておきたかったんだけど」 いかにも残念そうにそう言って、広瀬は軽く肩を竦めた。その永井は、あか りのギガデインで程よくボイルされたところをさらに祐介の電波をくらい、広 瀬の出る幕も無く気絶している。 「まぁ、しかたないって……ってなんでお前がそんなに永井を嫌ってるのか知 らないけどさ」 まぁ悪人面だし、嫌われそうな男だわなと無責任に呟いて、YOSSYが立 ち上がった。 「で、どーすんだこれから? もう一つ生徒指導部の部隊を引き付けたのは良 いけど、連中も馬鹿じゃないからひょっとすると気づかれてるかもしれない」 「はっはっは、気づかれてたって一撃じゃねーか」 「それはそうだけど……言ってて悲しくないか、藤田?」 「もう慣れた」 「……苦労してるんだなぁ、やっぱり」 疲れた笑みを浮かべる浩之にYOSSY思わずもらい泣きである。 「まぁ、作戦はあまり考えないでいいわね。そこに教室移動で空っぽになって る教室があるから、ここで待ち伏せしましょ」 とりとめも無くなりそうだった会話の流れを遮り、広瀬がさっさと結論を下 した。可能な限りの生徒指導部員は、こちらで引き付けた。あとは情報特捜部 の動き次第である。 「学賊めがっ、ここで食い止めろっ!!」 「てやぁぁぁぁぁっ!!」 「邪魔だっ!!」 「ぎゃわぁっ!?」 そんなこんなで情報特捜部。結局戦闘力の高い悠を先頭に、それをシッポが フォローし、何故か生徒指導部員の攻撃がへろっと反れる城下、戦闘力のない 志保とシャロンが護られるように続く。 まあ、志保に関しては、 「志保ちゃんキィィィィィックッ!!」 「ぐぁっ!?」 「へぶしっ!!」 背後に回り込んだ敵に飛び蹴りをかまし、後方の守りの要となっていたりす るが。 「くっ、支えきれないか……退けっ、態勢を立て直す!」 やがて、生徒指導部のリーダーの忌々しげな叫びとともに、上階への階段を 阻んでいた20人ほどの生徒指導部員が一斉に後退をはじめた。それとほとん ど同時に背後に多数の新手の気配が現れる。 「げっ、しつこい!」 志保が顔を引き攣らせ、難しい顔をして立ち尽くしている周囲の男性陣に向 き直る。 「ちょっと、あんた達何してんのよ! 早く逃げないとまた追いつかれるじゃ ない?」 「……不自然だと思わないのか?」 視線を下階に通じる階段に向けたまま、シッポが言った。 「連中は廊下とか下への階段は厳重に守るくせに、上への階段はあっさり放棄 してる。追い込まれてるんだよ、私達は」 「そういう事だな。この分だと非常階段も抑えられてるだろう……ひょっとす ると破壊されてるかもしれないが」 階段の下、踊り場から放たれるゴム弾の射線から身を反らしつつ、悠が淡々 と頷く。 「うーん、逃げ場の無い屋上に追い上げるのが目的って事か」 「ちょ……ちょっと待ちなさいよ、屋上って言ったらもうこの上じゃない! あたし達、もう袋のネズミってワケ!?」 城下の言葉を聞いて、志保が完全に泡を食った表情になった。それが事実な ら、情報特捜部は完全に逃げ場を失い追いつめられている事になる。 「まぁ、ここまで来た以上は連中の思惑通り屋上に追いつめられてやるしかな いだろう」 悠の言葉と前後して、背後からの威嚇射撃が一層激しくなる。見れば、先ほ ど後退して両脇の廊下に展開していた部隊もじりじりと距離を詰めはじめてい た。ここまで来た以上、生徒指導部も力押しででも屋上に追い上げる事を決意 したらしい。 「じゃぁ、行きますか!」 何時の間にか屋上への階段を上っていた城下の声に、一同はあるものはどこ となく嬉しそうに、大半のものは緊張気味に階段を上った。 「……これだからバトルマニアは」 「? 何か言ったか?」 「いや、何にも」 下から大勢の人間が慎重に階段を上ってくる気配がする。あからさまな恫喝 ではあったが、どちらにせよ選択肢はない。 「行くよっ!」 バタンッ! 扉を勢い良く押し開け、一斉に飛び出して遮蔽物を探す。 「ふふふふふ、来たな学賊ども!」 予想通りの待ち伏せ。さっそくスタンバトン片手に襲い掛かってきた生徒指 導部員を撃退しながら貯水タンクの陰に隠れた情報特捜部の面々に対し、優越 感に満ちた嘲笑が浴びせ掛けられた。 「大人しく投降すれば良し! ……さもなくば、反省房にぶち込んで強制労働 を課す前に、相応の報いを受けてもらう事になる」 「どーせ、大人しく捕まってもただで済ます気はないんでしょうが」 シッポの言葉にディルクセンの嘲笑がさらに悪意を込めたものになる。 「当たり前だ。あんなデマを広めておいて、反省房で強制労働ごときで済まさ れると思うなよ。生徒指導部の再設立をすっぱ抜かれた事もあったしな……貴 様らには人身御供になってもらう。我々生徒指導部に刃向かったものがどうな るか、全生徒は貴様らの末路を以って知る事になるだろう!」 「……あの特ダネ持ってきたの、デコイくんなんだけどなぁ」 「そーいや、今日は姿見ないな。志保、デコイはどこに隠れてるんだ?」 「知らないわよ、あたしも今日は手下B見てないのよ」 ディルクセンの言葉にひそひそと囁きを交わす城下、シッポ、志保。その間 にも下から上がってきた生徒指導部側の人員が屋上に展開し、包囲網を強化し ていく。スタンバトンと盾を装備し、格闘戦に備えたものと、小銃をや短機関 銃を携えた支援部隊とがほぼ半々というところか。 「……ほぼ八十人か。相手にとって不足はないな」 「……部長はいいけど、私らは片が付くまでに全滅だろうな」 ええいこのバトルマニアめ。やっぱりどことなく楽しそうな悠に情報特捜部 の全員が、心のうちで突っ込んだ。しかし、事ここに至った以上、彼に頼るほ かに策はない。 「そう言えばシッポくん、『ゴルン・ノヴァ』は?」 「エネルギー切れ」 「さいで」 そんなこんなでMAP兵器も使用不可能。情報特捜部、創設以来の大ピンチ である。 「さて、レクチャーは終ったかね? 所詮無駄ではあるがね」 右手中指で眼鏡のずれを直しながら、ディルクセンが嘲弄する。彼の右手が 天に向かって高々と差し上げられ、それに応じて生徒指導部員がそれぞれの得 物を構え直し、隊列を組み直して半歩ずいと前に出た。 「来るぞ」 一同にあらためて緊張が走る。そして。 「賊どもを、制圧せよ!!」 ディルクセンが右手を振り下ろした瞬間。 巨大な轟音と閃光が、彼らの立つ屋上の床を突き破った。 時間は少し戻って、広瀬や浩之たちが待ち構える教室の前。 「…………永井達の姿が無いわね」 十数人の生徒指導部員を率いた松原美也が、険しい目付きで周囲を見渡しな がら呟いた。 (……全周防御陣形) 彼女から放たれた思念と同時に、十数人の風紀委員はそれぞれ得物を構えて 円陣を組む。 (謀られたか……早速レジスタンスができたとでもいうのかしら? 永井を倒 したからには……SS使いかしら) 円陣の中央で周囲をにらみながら、美也は内心思考を巡らせた。その思念が 周囲の生徒指導部員にも伝わり、やや動揺したような気配が伝わってくる。 (まったく、思った事がそのまま相手に伝わるってのも考え物ね) 今度は『鉢がね』のスイッチを切って、美也は内心毒づいた。そして視線を 再び周囲に戻し−−− 「あっ」 使われていない教室から覗く顔と視線がぶつかり、慌ててスタンロッドを構 え直した。 (敵襲!) と頭の中で叫んで『鉢がね』のスイッチを切っていた事を思い出し、自分の 迂闊さに舌打ちしながら声に出して指示を下す。 「敵襲! そこの教室よ、急げ!!」 「げっ、見つかった!」 わずかに扉を開け、外の様子を窺っていた浩之が、美也ともろに視線をかち 合わせ小さくうめく。慌てて振り返り、背後で呪文を紡いでいたあかりに呼び かける。 「あかり、任せた!!」 「うん、浩之ちゃん! ……ギガデイン!!」 …………しかし何も起こらなかった。 「……神岸さん、どうしたの?」 原因については大方予想は付いていたが、広瀬が引きつった笑顔であかりに 問い掛けた。あかりは困ったような笑みを浮かべ、PS版「なんちゃって」ポ ーズをとりながら 「えへへ……MPが足りないだって」 「なにぃぃぃぃぃ!?」 「って、こんなとこでぇぇぇぇぇぇ!!?」 浩之と祐介が絶叫するが、それで事態が好転するものでもない。見れば、あ ちらも動揺しているのか指示を出すのにもたついている。 「なら、今がチャンス!」 「あっ、よっしーくん!?」 「こうなったらやるしかないか!」 YOSSYに続き、広瀬、貞本が教室から飛び出した。それを見て浩之も気 を取り直し、 「ええい、こうなりゃ得意の見よう見まねで……!!」 「浩之、それはランダムだから、今はやめておいた方が…………!」 不安を感じた雅史の制止も届かない。浩之の必殺技が今、発動する!! 「いっけぇぇぇぇ! 『サウザンド・ミサイル』!! …………って、何ぃぃ ぃぃぃぃっっ!!?」 無数のペンシルミサイルが、浩之の身体から放たれた。相変わらず妙なもの を真似する奴である。 「へ?」 「はい?」 「うわっ!?」 「……言わんこっちゃ無い」 雅史が疲れた様な呟きを漏らした直後、場は閃光と爆音に包まれた。 そんな訳で、 「うわわわわわわわわわ!?」 「屋上が……校舎が崩れる!!」 「謀ったな●ャアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!」 エディフェル崩壊。 「ここま引っ張っといて、これで終わりかぁぁぁぁぁぁぁ……!!(ぷちっ)」 そして全てが、瓦礫の中に飲み込まれた。 翌日の校内新聞(生徒会発行)より抜粋。 「昨日一時間目、生徒指導部と情報特捜部が交戦中に二年生校舎エディフェル が崩壊するという事件が発生した事は記憶に新しいが、原因を詳しく調査して いた風紀委員会は、交戦中第三者の襲撃を受けた生徒指導部員が『サウザンド ・ミサイルによる攻撃を受けた』と証言している事から、来栖川警備保障がこ の先頭に介入した事による事件との見方を強めている。一方の来栖川警備保障 側は「昨日は一度も出動していない。生徒指導部によるあからさまな言いがか りだ」と反発しており、また事実Dセリオの姿を直接見たものがいない事から 生徒指導部の自作自演ではないかとの声も関係者からは上がっている……」 「……ばれたら殺されるだろーな、俺達……」 「多分、間違いなく」 授業中の校舎崩壊会のために、ほとんど全員が重軽傷を負ったリーフ学園二 年生が収容されている来栖川系列の総合病院の病室の一つで、校内新聞の記事 の内容に浩之とYOSSYは乾いた笑みで頷きあった。 「まぁ、今回の事はうやむやにしておいてあげるから」 「悪ぃな、広瀬」 軽く頭を下げる浩之に、広瀬は肩を竦た。 「詳しく調べられると、私たちにだって火の粉が及ぶしね」 「それにしても、あそこ、相変わらず元気だね」 「ほんとにね」 そう言って微笑むあかりや雅史の視線の先で、 「綾香の隣のベッドはお前には相応しくないっ、ハイドランド!!」 「貴様らの戦闘に巻き込まれたんだぞ、俺も綾香も!? 出過ぎた事をぬかす なっ!!」 「すっかり元気ならさっさと退院しなさいよっ、二人とも!!」 元気な連中は相変わらず元気であった。おかげで周囲のベッドの連中の入院 期間が伸びたりもしているが、それはご愛敬というものだろう。 「それで良い訳ないじゃない!!」 「ご愛敬で済まされてたまるかっ!!」 「まぁまぁ、二人とも」 「あまり騒ぐと怪我に障るよ」 黒焦げで抗議する志保とシッポを、何故か無傷のシャロンと城下が苦笑混じ りに宥めた。そこに唐突に扉が激しく開け放たれ、総髪眼鏡で松葉杖をついた 男が、肩を怒らせて怒鳴り散らす。 「貴様らっ、ここは病院だぞ!! 少しは場を弁えて行動せんか!!」 「黙れ、ヅラ」 …………ぷちん。 「誰がヅラかぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!(じゃきっ!)」 この後の展開は…………言わずもがな。 そんなこんなで、リーフ学園の生徒達は今日も元気である。 その頃デコイ君は。 「ども〜、beakerさんいますか?」 「いますよ、デコイさん。今日はどうしました?」 「いや、写真の納入ですよ」 「あ、はいはい、いつもすみませんね……っと、これは?」 「いやー、今回は例のゴタゴタでロクな写真が撮れなかったんで、それならと 昨日一日生徒指導部に密着して戦場写真っぽくしてみました」 「…………不許可」 「がぁぁぁぁぁぁん!!」 だって、リーフ学園は毎日戦場だしね(笑) ___________________________________ ディル「………………」 作「………………」 ディル「………………」 作「………………えーと、ひょっとして、怒ってる?」 ディル「当たり前だろうが!!! どっから出てきた、ヅラってネタは!?」 作「…………いや、アートネイチャーの宣伝見てたら(笑)」 ディル「なんでそこで俺とつながるんだ!? このまま定着したらどうする! !」 作「あー…………アフロヅラが良かったか?」 ディル「やめれ、それだけは(涙)」 作「安心したまい、俺も嫌だから(笑)」 ディル「いかんせん信用できんが……」 作「では、皆様さようなら〜♪」 ディル「って、人の言う事を聞」 終わり(笑)