Lメモ:『策謀の序曲・前編』  投稿者:でぃるくせん
「…………と、言う訳でな。お前らに協力してもらいたい」
  ディルクセンを中心とする風紀委員数人が、練習中の格闘部を突然訪れて
協力を要請したのは、つい三日ほど前の事だった。
「うーん、面白そうだとは思うけど。で、なんでわたしたちなんですか?」
  タオルで汗を拭いながら綾香が問う。練習中だったほかの格闘部員達も、
意外な来訪者に何事かと集まってきていた。そんな面々を前に、ディルクセ
ンはこともなげに応える。
「なに、科学部に頼んでいた新装備な。白兵戦用の装備なんだよ。だからお
前らに頼むのが一番かと思ってな」
  そこまで言って彼は苦笑しつつ頭を掻いた。
「それに、我々風紀委員会内部だけでの訓練では、色々無理があるのだ。な
にしろ、ウチのSS使いはほとんど直接戦闘に適しない」
  それでは仮想敵の組みようが無い、と肩を竦める。なにしろ、風紀委員会
にしろ何にしろ、校内の風紀・治安を維持する組織の最大の懸案は強大な戦
闘力を持つSS使いなのだから。
「だから、お前ら格闘部に頼みたいんだ」
「うーん、どうしようか?」
  つまりどうあっても校内巡回班とかジャッジとかには頼みたくないって訳
ね、と思いつつ、綾香は傍らの坂下を振り返った。坂下はあまり乗り気では
ない表情を浮かべながら口を開く。
「私たちは喧嘩屋じゃないわ。そんな事に協力する義務はない…………と、
言いたいところだけど」
  ふぅ、と一つ溜息を吐いた。そして綾香の方へ視線を移す。
「生徒会からの要請じゃあね。仕方ないんじゃないの?」
「よし、商談成立だな」
  坂下の言葉を聞いて、ディルクセンが満足げな表情を浮かべた。坂下の言
葉の前半部分を聞いたとき、露骨に殺気立った表情を浮かべたのが嘘のよう
だ。綾香はディルクセンの豹変ぶりに内心呆れながらも、ディルクセンの持
ってきた書類を受け取る。
「商談成立って、そっちから提供するものはないじゃない。で………とりあ
えず、初回の日取りは明後日の午後二時から?  グラウンドね。はいはい、
わかったわ」
「ははは、悪いな。では頼んだぞ。そっちの合宿の都合もあるだろうし、二
回め以降の日取りは任せる」
  用件が済むとすぐに、風紀委員達は格闘部を立ち去った。その間際、佐藤
昌斗とYOSSY、夢幻来夢の三人に剣呑な視線を送り付けていく。それに
気付いて綾香と坂下は苦笑を浮かべた。
「三人とも、嫌われているわね」
「風紀委員に目の敵にされてるものね。ひょっとしたら、今度の話もあんた
達狙いなんじゃないの?」
「嫌な事言うなぁ」
  YOSSYが憮然として応える。
「ディルクセン先輩のアレは、単に偏執狂なだけだって」
「そんな事ばかり言ってるから、なおさら怒らせてるんだろ?」
  自分の事を完全に棚に上げるYOSSYに突っ込んだのは昌斗。ちなみに
彼は遅刻で風紀に睨まれているクチである。もっとも彼は格闘部の部員では
ないが、先ほどの視線から考えて多分同一視されているのだろう。葵に蹴り
技の練習を付けてもらおうと、たまたまこちらに立ち寄ったのが身の不幸と
いうものだ。
「あの先輩、こないだ柳川に身柄引き渡しただけじゃ気がすまへんゆうんか
いな?」
  ぶつぶつと不平を呟いているが、君があまりにも遅刻やらサボりやら常習
し過ぎなのだ、来夢。
  そんな三人の様子を見て、本当に狙い撃ちかもと綾香と坂下は思う。そう
いえば、今日は来ていない部員のT-star-reverseもハイドラントの下でダー
ク十三使徒とかをやっていたし…………
「報復込み、それも私怨、かな?」
「可能性としては、高いでしょうね」
  安請け合いしてしまった事を今さらながらに後悔しながら、格闘部の部長
と副部長は深い深い溜息を吐いた。
  その時、それまで無言だった松原葵がためらいがちに口を開く。
「…………あの風紀委員会の先輩、『生徒指導部』って腕章つけてましたよ
ね?」
「え?  あ、そういえば…………」
  YOSSYと不毛な言い争いを続けていた昌斗が首を捻る。
「でも、生徒指導部って、ずいぶん前に解散させられてたような?」
「あの先輩の事だからね、生徒指導部を復活させるって言いだしても驚かな
いけど」
  坂下も同じく首を捻った。ディルクセンが生徒指導部復活を叫んでも、風
紀委員長の広瀬ゆかりがそれを許すとは思えないが。しかし、ではあの腕章
はなんだ?
  わずかな疑問。だが、深く考える必要も無いように思われた。復活したに
しても、昔の生徒指導部と同じと限った訳ではない。現に、今現在何も変わ
っていないではないか。
「ところで、生徒指導部ってなんです?」
「聞きなれない名前だな。なんだいそりゃ?」
  転校生であり、生徒指導部の事などしらないディアルトとYOSSYが怪
訝な表情を浮かべた。
「ああ、一学期の頭まであった風紀委員会の特殊部隊で、言ってみれば●ィ
ターンズみたいなものかな」
「●ィターンズみたいなものですか。ロクでも無さそうな組織ですね」
「まぁ、あの先輩にはお似合いのような気がするけど」
  昌斗の説明を受け、二人が苦笑混じりに率直な感想を述べた。実際ロクで
も無い組織だったのだが。
「今の風紀委員長の手で解体されたんだけど、あの先輩はその残党なんだ」
  YOSSYが説明を補足する。なるほど、と納得して、ディアルトは先ほ
どの風紀委員の顔を思い浮かべた。確かに、善人の顔ではなかった様な気も
する。
「別になんだってええやんか。暴れられるんやったら俺はそれでかまわへん
で」
  同じく転校生であり、やはり生徒指導部の事など聞いた事のない来夢がへ
らっと笑って言う。そうだな、実害が出ていない以上、別に深く考える事で
もないだろう。他の面々もすぐに思考を切り替える。
  かくして、風紀委員会対格闘部の模擬戦が、夏休み中数度にわたって行わ
れる事になったのであった。




「で、なんでぼく達まで来なきゃならなかったんだい?」
  模擬戦当日。蝉が声を限りにして鳴きわめき、暑さも頂点に達したかのよ
うな、夏休み中も生徒達が部活に励むグランドの片隅で、セリスがもっとも
な疑問を口にした。周囲には風紀委員や結構な数の野次馬達があつまり、小
さな人だかりが出来ている。
「生徒会とジャッジに見せ付けたいんでしょ。ディルクセン先輩としては」
  模擬戦に参加する風紀委員達になにやら訓示を行っているディルクセンを
遠目にして、広瀬ゆかりが投げやりな返答を返した。模擬戦自体は広瀬も同
意しての事だったが、ジャッジのトップ二人、つまり岩下信とセリスを観戦
に呼び付けたのはディルクセンの独断だった。彼らが到着してから事のあら
ましを知らされ、広瀬は憤慨したものだった。
「ジャッジを毛嫌いしてるからね、あの先輩は。まぁ、それに関してはエル
クゥ同盟も校内巡回班も暗躍生徒会もダーク十三使徒もアフロ同盟も同じ事
なんだけど」
  その中で特に憎んでいるのが生徒会とジャッジだった。これは一種のデモ
ンストレーションなのだろう。
  岩下もそれを知っている。だから、溜息交じりに、そして諦めたように呟
いた。
「やれやれ、現状を打破しようというなら、協力しようとするのが普通だと
思うんだが」
「もう、常識の通じる世界にいる人じゃないから…………」
  それはこの学園に通っている生徒全員に言える事では?  などといらん事
は突っ込まず、岩下とセリスは険しい表情で頷いた。すくなくとも、精神の
平衡が崩れつつあるのは彼だけ………とも言えない辺りが悲しい。
  しばらく無言だった三人だが、その沈黙を最初に破ったのは思い付いたよ
うなセリスの一言だった。
「そういえば、指揮を執るのはディルクセンじゃないみたいだね?」
  これももっともな疑問だった。広瀬はここにおり、ディルクセンも指揮を
執る事はない。貞本夏樹はといえばあちらで見回りをしており、とーるはデ
ータ分析を受け持つ事になっている。XY−MENと宮内レミィの二人はそ
もそもこの場にいない。
「どうもね、先輩が新しく引っ張ってきた人がいるらしいのよ。その人に指
揮を任せてるみたい」
  多分、その新人の能力テストって意味合いも持ってるんでしょうね。広瀬
は推論を交えつつ言った。しかし、委員長である広瀬にも知らされていない
とは、ディルクセンの秘密主義もここに極まれりだな、と岩下は思う。
  だが、どうせ今日ばれるものをわざわざ隠しておく真意は何か?
「…………もしかして、彼は彼なりに楽しんでやっているんじゃないか?」
「見てのお楽しみ、と言う事かな?」
「…………そうかも」
  それはそれで不気味だな、と三人は顔を見合わせた。




「さて…………どうする?」
  30メートルほど離れた風紀委員会陣営を眺めながら、綾香が周囲に尋ね
た。
  グランドは暑い日差しが照り付けていた。その中でストレッチ運動をしな
がら最後の作戦会議に入ったところである。といっても、ほとんどの者が集
団戦など初めての事だから、ろくな作戦会議にはなっていないのだが。
  風紀委員の多くは制服姿に頭部や腕部、脚部を防護する簡単なプロテクタ
ーにプラ製の円盾、それにいつもながらの特殊警棒(ややデザインは変更さ
れていたが)と、一見大した変化は見られない。
「数も大した事無いし、指揮官も見た事無い奴だし。正面から挑んでも楽勝
………というのは甘いかな?」
  そう言ったのはYOSSY。転校生ながら、この面子の中で夢幻来夢と並
んで風紀委員との戦闘経験が豊富な男である…………って、誇れた事じゃな
いが。
「ただ、コンビネーションだけはかなり鍛えられてるからなぁ。新装備とや
らに関しても、こっちには伝えられてないし」
「私も、集団戦なんて初めてですから…………」
  葵はやや緊張気味だった。また、もともと得物が刀である昌斗は、この状
況下では恐らく最弱の部類に入ってしまう。もっとも弱いとはいってもこの
面子の中での最弱であって、一対一ならば無手でも完全武装の一般風紀委員
に後れをとることなど有り得ない。
  だが、今現在求められている事は、多対一の戦いに勝つ事だ。それは武道
より喧嘩の技術を必要とする。その意味で、格闘技が本領でない昌斗と、喧
嘩なれしているとは言えない葵は他の面子に比べて後れを取る。
「そんな弱気な事でどうするのよ、葵。あんたは実力は高いんだから、気後
れさえしなければあんな連中に後れは取らないわよ」
「はい、好恵さん…………」
「まぁまぁ、坂下さん、どうせあっちの訓練に付き合ってあげているだけな
んですから、そんなにむきにならないでも」
「そうそう、力む事はないよ、葵ちゃん」
  怒ったように言う坂下に、却ってしゅんとしてしまう葵。苦笑しつつ、テ
ィーや佐藤達が宥めに入る。
「いえ、私が弱気なのがいけないんです。せっかく好恵さんや綾香さんに評
価して頂いているのに、私自身がそれじゃいけませんよね」
  パンッ、と自分で自分の頬を張り、葵は笑みを作って見せた。その笑みを
見て、ティーや昌斗、YOSSY、ディアルトらがにこりと笑って頷く。
「そうね……わたしと好恵が先鋒になって一気に大将首を狙うから、葵と昌
斗を他のみんなでカバーしながらついてくるってのは、どう?」
「それで構へんよ、俺は」
  綾香の提案に来夢が即答した。戦う相手がいればそれで幸せな彼としては、
その辺りのことはどうでも良い事なのだろう。他の面子にも代案がある訳で
はなく、自然にその策(と言うほど複雑なものではなかったが)にまとまっ
た。
「さて、じゃぁ作戦も決まった事だし。あとはおっぱじめるのを待つだけだ
な」
  ほとんど陣形を整え終った風紀委員側を遠目に、YOSSYは楽しそうな
笑みを浮かべて呟いた。




「なぜお前がいる、ハイドラント」
「…………そっくりそのまま、その言葉お前に返すぞ、悠」
  悠朔とハイドラントは野次馬達の中に混じっていた。無論、どこからか綾
香が(格闘部が、ではなくして)風紀委員会と一戦やらかすという噂を聞き
及んでの事だ。そうでなくては、悠はともかく暑さに弱いハイドラントが炎
天下この場にいようはずが無い(ちなみに浴衣姿)
「……そんなにだるいなら、さっさと帰ったらどうだ?」
「やかましい」
  揶揄するような悠の言葉に反論する言葉も力無く、ハイドラントはパイプ
椅子にだらしなくもたれかかる。天気予報によると、本日の最高気温は36
度。ハイドラントの耐熱耐久力を軽く突破していた。
「なぜ地球には温度調節機能が付いていないのだ。こんな不完全な天体は認
める訳にはいかん、断じて認められん」
  ぶつぶつとうわ言を呟くハイドラント。暑さと明るさという彼の苦手な二
大条件を完備したグランドに、すっかり参ってしまったらしい。そんな彼を
呆れたような表情で見やり、それから悠はゆっくりと視線を格闘部と風紀委
員会両者の間に巡らせる。
「そろそろだな」
「ああ、そろそろだ」
「…………なんだ、まだ意識は正常なのか」
  ほとんど独り言のつもりで呟いた自分の言葉にハイドラントが反応した事
が意外で、悠が相変わらずの姿勢で椅子に垂れているハイドラントを見下ろ
した。
「どういう意味だ、それは。この程度の暑さでどうかする私ではないぞ」
「すでに十分どうかしていると思うが?」
「……………………」
「……………………」
  普段ならとっくに魔法が飛んできているところだが、どうもハイドラント
は本格的に暑さに滅入っているらしく、それらしい気配も無い。なんとなく
肩透かしを食らったような気分で、悠は再び関心を前方へと戻した。
  だからかもしれない。悠が気づく事はなかった。ハイドラントの視線があ
る一方に注がれていた事に。




  模擬戦の開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。
  ホイッスルと同時に、両陣営が行動を開始する。格闘部側は、先に定まっ
たとおりの中央突破戦術。最大の攻撃力を持つ綾香と坂下を正面に押し立て、
その後に他の六人が一気に続く。
  それに対し、風紀委員会側の動きはセオリー通りの包囲戦術だった。わざ
と突破路を開放し、司令部の役割を果たしている四人の周辺に八人が防衛線
を張り、残る28人が突入してくる格闘部側の側面や背後に回り込む。その
動きには、さながら軍隊のように統制が取れてまるで無駄が無い。
「とーる、戦況を良く分析してくれ。新装備と新フォーメーションのもっと
も効率の良い運用方法を研究する必要がある」
  ディルクセンが背後のとーるを振り返って言った。とーるの側はというと、
いわれるまでも無く、すでに分析を開始している。情報分析こそ、彼が本来
得意とする分野であった。
「ハイエナの動きだな」
  ディルクセンの左隣に立っていた柳川が笑った。
「群れでの狩猟か。確かに、巨獣を非力な獣が討つにはそれしかあるまい」
「だからこそ、あの新装備の開発をお願いしたのですよ、先生。我々はエル
クゥの様な高い身体能力も、来栖川のような高度な魔法も持たない非力な狩
猟者。そうである以上、非力な我々がそれを補うには連携を高めるしかない
…………さながら全体が一つの個体であるかのように動けるほどに」
  ディルクセンも笑みを浮かべる。狡猾な、狐のような笑み。ずれた眼鏡を
中指で押し上げつつ、言葉を続ける。
「人はそれぞれ自己の意思で動いている。互いの意志疎通は言葉や文字によ
ってしか行う事は出来ない。それではどうしてもタイムラグが生まれ、また、
音ないし形として外部に表現される事によって、第三者に自己の意思を知ら
れる事にもつながる。さらには、言葉は時折誤解をも生む事もある。まった
く、厄介な意志伝達手段だ」
「だが…………互いの意志を直接伝達する事が出来れば一気に問題は解決す
る。まぁ、私は科学部に予算が下りて、研究が出来ればそれでいいのだが。
面白い話しなら、これからものってやらん事も無いぞ」
  柳川とディルクセンはニヤリと笑みを交わし、それから右隣に位置する工
作部の面々に声を掛けた。
「悪いな、無理をさせた。短期間での量産化、恩に着るよ」
「構いませんよ。なかなか興味深いものでしたしね。少し手間はかかったが、
ああいう用件なら大歓迎ですよ」
「柳川先生、いつもみたいな派手なんとちゃうんも作れんねんな。正直ゆう
たら少し驚いたわ」
  菅生誠治と保科智子が応じる。で、副部長たる美加香はというと、
「あれ?  あうぅ、ひなたさんとはぐれちゃいましたぁ〜〜」
  人の話を全然聞いてなかった。
  取り敢えず三人は彼女を無視して話しを続ける事にする。
「次は、全風紀委員の分の量産を発注する事になるだろうな。度々悪いが、
お願いするよ」
  ディルクセンの言葉と視線は主に智子の方に向けられたものだった。だが、
軽い咳払いとともにすぐに視線を外し、誠治の方へと向き直る。
「ええ、納期とか正式な量産化に当たっての仕様変更とか、、詳しい事はち
ゃんと文書で知らせてくださいよ」
「ああ、まぁ頭部防具と警棒以外は量産するかどうかわからんが。今回の結
果次第だな。多少の仕様変更はあるかも知れん」
  ディルクセンと誠治は再び視線をグランドに移した。思いのほか、風紀委
員が戦況を優勢に進めている。彼自身これは意外だったが、新装備が奏功し
たという事と、地道な訓練がようやく実を結びはじめたという事なのだろう
と納得する。
  見たか、これが生徒指導部の実力というものだよ。そんな笑みを少し離れ
たところにいるの広瀬や岩下、セリスらに向けた時。
  その時、背後で騒ぎが起こった。


  とーるはひとり黙々と戦況を分析していた。ディルクセンという人物は、
性格はアレだが能力に関しては決して悪い人物ではない。しかし、結局性格
的な問題になるのだが、極度に自信過剰なためよく大ポカをやらかすきらい
があった。
  今回のこの模擬戦も、やや無謀にすぎる。
「まぁ、これで負ければ先輩の不穏な行動も少しは…………」
「とーる。君はこの模擬戦の勝率、どう見る?」
  データ分析を行いつつ、そんな感慨にとらわれていたとーるは、不意に柳
川から声を掛けられてやや動揺した返事を返す。
「え?  あ、ああ。今までのデータから推計すると、勝率は39%。高いと
は言えません」
「まぁ、そんなものだろうな」
  柳川は薄く笑って納得したように頷いた。
「いかに連携が取れていても、所詮一般生徒ではな。やはり、君のように生
体強化でもしない事には、SS使いにはなかなか太刀打ちできまい」
「はぁ」
  あいまいな返事を返すとーる。何故か、悪感がする。まぁこの教師の性格
を知っていれば無理も無い事だが、そんな一般的な違和感ではない、どこか
差し迫った身の危険を感じるような?
「それでだ。私はな、君の身体構造に非常に関心を持っているのだ。この意
味が、わかるな?」
「えっ?  ええっ!?」
  ようやくここで、とーるはある事に気がついた。柳川のとーるを見る眼が、
マッド魂に輝いている!?
「と、言う事で!  ご協力感謝する、とーる君!!」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
  データの分析を続ける余裕も無くなり、とーる、遁走。その後を柳川が追
う。
  戦闘モード全開で決死の逃亡を図るとーると狩猟者の本性むき出しに彼を
追う柳川の追跡劇に巻き込まれて、校内各所で部活中の生徒に100人を越
える重軽傷者が出た事は、また別のお話である。


「あっ、ちょっとそこの変態、とーる君になにしてるの!!」
  騒ぎに気づいた美加香は、さすがに無視もしていられずとーるの助太刀に
入った。
「あっ、そこっ!  直ちに戦闘行為を止めなさい!!  もうっ、手空きの全
風紀委員は、ただちにFフィールドに急行せよ!」
  さらに貞本率いる警備の風紀委員が戦闘に介入し、騒動雪ダルマ式に拡大。
「先輩…………なんやとーる君と柳川先生と美加香ちゃんと風紀委員が暴走
しとるけど?」
「気にするな、保科」
「ディルクセンさん、どうも負傷者が続出しているようだけど」
「気にするな、菅生。頼むから」
  そんな訳で、ディルクセンが涙を流しながら胃薬を流し込んでいた事もま
た別のお話しである。




  中央突破の正面に立つ綾香と坂下の前に、八人の風紀委員が立ち塞がった。
いつもの三人一組のそれとは違う、四人一組のフォーメーション。さらにフ
ォーメーションの中で二つに分かれ、左右から挟み込むように連携攻撃を行
ってくる。
「くっ!?」
  左側の風紀委員が放った最初の一撃を受け流し反撃を叩き込もうとして、
とっさに綾香は背後に身を引いた。その瞬間、左側のもう一人の風紀委員が
空振りからまだ体勢を持ち直していない風紀委員をカバーするように割って
入り、さらに右側の風紀委員の攻撃が寸前まで綾香の頭部があったところを
なぎ払う。
  風紀委員の連携攻撃はさらに続く。
  左側の風紀委員Aが特殊警棒で突き込み、それを手刀で叩き落としたとこ
ろに右の風紀委員Bが殴り掛かった。身を沈めてやり過ごし、それからロー
キックをその風紀委員に放ったが、それも右の風紀委員Cが間髪入れずに牽
制を仕掛けてきたために浅く入ったにとどまった。当然、特殊警棒を叩き落
とされた風紀委員Aは、そのころまでに警棒を拾って再び戦列に復帰してい
る。
「…………やるじゃない。一人一人の技量は低いけど、それを相互にうまく
フォローしてる」
  これじゃ葵や昌斗には辛いかもね、と綾香は周囲に視線を巡らした。見れ
ば、坂下もてこずっている様子だ。さすがに背後を振り返る事は出来ないが、
後続集団も声の様子からすると苦戦しているらしい。
  油断していたか。本当に稽古をつけてやるくらいにしか考えていなかった
綾香は、楽しそうな表情を浮かべた。
「なら、なおさらこんなとこでもたもたしてられないわね〜。好恵、そろそ
ろ本気出さないとだめよ!」
「言われなくたって、分かってるわよ!」
  坂下がそう怒鳴りかえす。巧みなフットワークで風紀委員の攻撃を躱しつ
つ、側面に回り込んでなるべく少ない数を同時に相手取るようなポジション
を探った。
  だが、風紀委員側も坂下の動きに良く反応し、なかなか隙を見せない。い
や、一人一人は隙だらけなのが、それが四人になるとほとんど隙が無くなる
のだ。
(一人一人は有象無象なのに、なんでこんなに連携が良いのよ!)
  口にはせず、表情にも出さず坂下は心の中で毒づいた。だが、彼女とてま
だまだ本気は出していない。もうそろそろ、本気を出してもいいころか。
  その時、誰かの短い悲鳴が聞こえた。