とある風紀委員の日常  投稿者:でぃるくせん
  風紀委員会。最近は(少なくとも兵庫県第二学区においては)とんと見なくなっ
た委員会である。
  まぁ、最近は生徒にも人権があるとかで、髪の色だの持ち物だのに対する学校側
の規制が困難になってきていることが、多くの学校において風紀委員会が無くなり
つつある最大の要因なのだろう。
「それではいかん、いかんのだ。秩序・規則を守る心、それこそが他の何を置いて
も学生時代に学ばなければならない最大の事だというのに……」
  全く最近の若い連中は規則を目の敵のようにしてなんでもかんでも外人の悪い真
似をしたがると来る全く日本人の良き精神はどこへ行ってしまったんだこのまま教
育が腐っていくと日本自体が腐ってしまうぞ、などと太平洋戦争をくぐり抜けてき
た老人が口にしそうな台詞をぶつぶつと呟きながら、ディルクセンは一日三回服用
している胃薬(粉末)の袋を開け、口に流し込んだ。そして、目の前のテーブルに
おかれたコップに手を伸ばす。それから、
「現状で、俺達風紀委員の存在意義って、どこにあるんですか?」
「げぇっげげほっ、げふげふげふげへ!!!」
  一年生の名も無い風紀委員が口にした疑問を聞いて胃薬を気管に吸引し、盛大に
せき込んだ。
「……先輩、せき込むときはちゃんと口を抑えていただけますか?」
  二つ横に設置さられた折畳式の机を挟んだ向こうに座っていた貞本夏樹が、いま
だせき込み続けるディルクセンをジロリと睨む。彼がせき込むその瞬間には地を蹴
って唾の届かぬ範囲に飛びのいていた辺り、さすがは『草』の中忍というべきか。
「す、すまん貞本。以後気をつける」
  コップの水を喉に流し込み、辛うじてせき込むのをとどめたディルクセンは、眼
鏡を外し涙を拭きながら貞本に頭を下げる。
  ここは職員室の近くにある大会議室。厚いカーテンが日の光を閉ざし、幻灯機の
光のみが薄暗く室内を照らし出すここに、全学年の各クラス男女二人ずつ、優に1
00人を越える風紀委員が全員集まっていた。議題は『最近の校内における風紀の
乱れに関して』である。
「で?  何で君はそう思った訳なの?」
  場が静まったところで風紀委員長の広瀬ゆかりが、ずらりと並べられた椅子の列
の後方、先ほどの発言者に問い掛けた。「ひょっとして俺のせいか!?」とやや動
揺していた彼は、気を取り直して話を再開する。
「はい、委員長。多くの風紀委員が同じように感じていると思うのですが、校内の
風紀は現在乱れきっています」
  カシャッ、という音とともに、スクリーンに映し出される映像が変わった。色と
りどりの頭髪や髪型(含むアフロ)の人々の写真が数枚、次々映し出される。
「まず、髪の色。率直に言って、黒髪かつ髪型に関する規定を守っているの人の方
が珍しいです」
「私も金髪…………校則違反ですカ?」
「いや、レミィさんはもともと日本人ではありませんし、別に構わないのでは?  
私のアフロだって、不可抗力ですし」
  心当たりの有る宮内レミィととーるがぼそぼそと会話する。レミィの髪は生まれ
ながらの金髪で、とーるの髪は戦闘能力を発動させるとそれは見事なアフロに変わ
る。髪の毛に関する校則となると他人事ではない。
  ざっと見渡せば痛いところを衝かれたのは彼ら二人だけではなく、隣と顔を見合
わせてぼそぼそやっているのは以外と数が多い。っていうか、ほとんどの人間が赤
とか青とか藍色とか翠とか……日本人には無い(って言うか、現実世界では人間じ
ゃない)髪の色をしているんだからしかたがない。その様子を見てディルクセンは
広瀬の目配せを受け、やれやれと首を振って立ち上がった。
「あー、髪型はともかく、髪の色は気にしちゃ駄目だ。これはどうしようもない不
可抗力なんだ、俺達がゲームやアニメに魅力を求める限り、これは不可避の問題な
んだよ」
「はぁ、そうですか」
  なんだか良く分からない理屈だが、狂信的な規則の守護者として知られる彼がそ
う言うならしかたがない。発言者は不承不承といった感じで頷いた。そんな不満そ
うな顔されても、、ゲームのキャラまでみんな髪黒くて瞳も黒やったら魅力も面白
くもなんも無いやん(爆)
  ともかく、またカシャッ、という音がして、映像が別のそれに移る。
「次にですが…………制服のことです。我が校は取り敢えず学ランが制服というこ
とになっていますが、これまたまともに守られていません」
「…………今に始まったことではないが、これは手段を講じる必要があるな」
  映像を見て、眉を神経質に細めディルクセンが呟いた。今も学生服のボタンを第
一ボタンまで掛けた彼にとっては、こういう状況は許せないものがあるらしい。
「また、授業中の態度ですが…………」
  次に映像に映し出されたのは、授業中にコンパクトを取り出し化粧をする女生徒
(THで委員長と同じクラスになる前の、教室内授業中CG参照)の姿だった。
「このように、居眠りや無駄話から、授業中の化粧、サボタージュまで、様々な生
徒の意識の低下から発生する良からぬ行為が報告されています」
「………………だって、私女優だもん」
「………………広瀬委員長……………」
  『授業中の化粧』という言葉にぴくりと反応した広瀬に対し、ディルクセンが泣
きそうな表情で広瀬の顔を見やった。その間にも発言者の話は続いていく。
「さらに、廊下の安全なのですが」
  カシャッ、カシャッという音が部屋に響く。音が響くのと同時に映し出されてい
く映像を見て、ディルクセンは胃薬を飲んだばかりであるにもかかわらず、胃酸が
胃を虫食んでいくのを感じていた。
「先の三つの問題と違い、この問題は一般生徒に明確な危険を与え続けています。
昼休みの購買部参りどころか、普段の休み時間においてもSS使いの暴走や戦闘に
巻き込まれ、保健室に担ぎ込まれる生徒が跡を絶ちません」
  特に、第二保健室に担ぎ込まれると最悪ですね、と呟きかけて、貞本はすさまじ
い悪感を感じて口を噤んだ。ふと見ると、廊下側カーテンの隙間から、どこかで見
たような顔がにこやかに貞本を見つめている。貞本は命の危険に関わることを口走
る前に、殺気を感じ取ることが出来た自分の能力に感謝した。
  千鶴ちゃん14歳と貞本の間に、そんな密やかなやりとりが繰り広げられている
間にも、映像はどんどん進んでいく。そしてその度にディルクセンの胃も胃酸によ
って傷を広げていく事になる。
  最初に映ったのは、マルチを連れて購買部に群がる一般生徒を次々沈めていくセ
リスとゆきの姿。続いてやはり昼休み、競争相手を減らすために、外道メテオで周
囲の敵(?)を一掃する風見ひなた(オプション赤十字美加香付き)。次に、校舎
を破壊しながら暴走する西山英志。来栖川綾香の周囲で魔法の爆炎を振りまくハイ
ドラントと悠朔の二人。
「もういいわ、見なくてもわかってるから」
  ジン・ジャザムvsDセリオのフィルムが映し出される前に、広瀬は額を抑えて
発言者に指示する。彼女の目の前の机では、映像が進むにつれて湧き出る胃酸が本
格的に胃に穴を開けはじめて悶絶しているディルクセンと、その姿に目頭を抑え、
さらに事態の悪化を防げない自責の念からか「事ここにいたるは私の不覚でもあり
ます」などとのたまいつつ、脇差しを抜き放って割腹に及ぼうとしている貞本の姿
が見うけられた。
「で?  何が言いたい訳なの?」
  そんな二人をさりげなく無視し(ちなみに他の風紀委員もきれいにスルーパス。
だっていつもの事だし)、広瀬は分かりきった現状を懇切丁寧に解説する発言者の
真意を尋ねた。発言者は広瀬に軽く頷き、二つ飛ばして新しい映像をスクリーンに
映し出す。
「私と……広瀬さん、貞本さん、それにレミィさんとディルクセン先輩?」
  とーるが小さく呟いた。スクリーンに映し出された連中の名前である。
「風紀委員のSS使い本人か、SS使いと戦う事が出来る……出来ない訳ではない
人々、と言う事ですか?」
「そのとおりです、とーる先輩」
  とーるの言葉に件の発言者が深く頷く。
「我々風紀委員会の中で、暴走するSS使いをまともに相手取る事が出来るのは…
…一人でか多数でかはさておいてですが、ともかくせいぜいこの五人くらいです。
しかもこのうち、ディルクセン先輩は、銃を持ち出さない限り役に立ちませんし、
銃を持ち出しても他のSS使いに到底及びません」
「げふっ」
  復活しかけのディルクセン、『一般生徒のくせに!!』と血の涙を流しつつ、爆
沈。広瀬の方は苦笑するしかない。
「つまり、今の風紀委員会には執行能力が無いって事?」
「はい、そのとおりです」
  あくまで遠慮無く、発言者は広瀬の言葉をはっきりと肯定した。なるほど、と一
つ頷いて、彼女は姿勢を正して発言者を見かえす。その表情にはそれまでの苦笑は
見られない、真剣そのものだった。
「で、君はどうしたらいいと思うの?」
「それはもちろん……」
「生徒会に掛け合って、ジャッジや校内巡回班も支配下において風紀委員の締め付
けを厳しくしたら良い?  それとも、風紀委員会の武装化を進めて武力で学園を支
配したら良いの?」
  広瀬は矢継ぎ早に問い掛けた。提案しようとした議案をすべて言い当てられて、
発言者はぎょっとしたような表情になる。あらためて、まじまじと広瀬の顔を見直
す。良く見れば、その視線は彼の方を向いていない。
  何時の間にか、先ほどまで机に突っ伏して周囲に涙の洪水を起こしていたディル
クセンが、その姿勢を正して広瀬の方に視線を向けていた。あまり友好的とは言え
ない視線が絡み合う。広瀬はディルクセンの方に視線を向け続けながら言葉を続け
た。
「知っての通り、私は、風紀委員長に就任してから一時期厳しい……独裁的な取り
締まりを行なったわ。けど、どこかおかしいと思ったから、生徒指導部を解散させ
たし、今みたいな風紀委員会を作り直しもした。あなたの言っている事は、風紀委
員会を昔に戻そうとしているだけの話よ」
  その言葉を聞き、ディルクセンが皮肉げに笑った。振り返り、発言者にむかって
無言の合図を送る。心得た発言者はやはり無言のまま席に着いた。
「とーる、これってなにがどーしたの?」
「別に、話題が他に移っただけですよレミィさん。なんでもありません」
  何がなんだか分からない、といった様子のレミィに対し、とーるはやや強張った
表情で首を横に振った。風紀委員の多くは何事が起こっているのか分かっていない
ようだったが、もちろんとーるは事態の推移を飲み込んでいる。だが、判っていな
い方が良い事もあるのだ。わざわざ説明する気にもなれなかった。
  そして、委員長である広瀬も何事もなかったかのように議事を再開する。場はし
ばらく奇妙な事態にざわめいていたが、議題は他にも多数あった。じきに、そちら
に関心が戻っていく。
  一時間ほどして委員会が大した決定事も無く終ったとき、この奇妙な緊張に満ち
た一幕を覚えているものは、ほとんどいなかった。




「ディルクセン先輩」
  委員会が終ってディルクセンが会議室を退室しようとしたとき。広瀬は彼を背後
から呼び止めた。
「…………広瀬委員長、なにか御用ですか?」
  冷たい、詰るような視線を受けてもディルクセンの表情は揺らぎもしない。広瀬
の傍らには貞本の姿がある。一方のディルクセンの傍らには先ほどの発言者や、他
にも数人の風紀委員会内部でも強硬派と見なされる連中の姿があった。それを一瞥
し、「やっぱりね」と口の中で呟く。
「自分で強硬論を吐いても、いつものことだから他の共感を得られない。だから、
一見自分とは接点の無い人間を使って自分の意見を代弁させる。もともと委員会内
部には現状への不満が燻っているから、強硬論への共感は自然と生まれる。………
…いかにも先輩らしいやり方ね」
「…………何の事かわかりかねるな」
  口調ががらりと変わり、普段の敬語が消える。ディルクセンはにやりと笑った。
言い逃れしても無駄と悟ったのか、その開き直ったような表情を見て、広瀬は大き
な溜息を吐いて呆れはてた声を出した。その顔からは冷たさが消え、変わって苦笑
が浮かんでいる。
「…………最初の咳き込みから下手な演技だったわ」
「……そうか。最初からばれていたか」
「だって私、女優だもん」
  そういって胸を張る広瀬。今度はディルクセンが苦笑する番だった。そんな彼に
対し、広瀬は再び真剣な表情を作る。
「まぁ、気持ちは分からないでもないけど、単なる強硬路線は反発を生むだけよ。
純粋な効率論から言っても無益な話だわ。それに、私に圧力を掛けるためにまずサ
クラを使って委員会内部に世論を作ろうっていうのも、姑息な手段ね。…………気
に入らないわ」
「さっきお前も言っていただろう?  ……これが俺のやり方だからな」
  最後の言葉を目を細めていい放った広瀬に対し、ディルクセンは軽く肩を竦めて
受け流した。広瀬はそんな彼をしばらくじっと見据えていたが、また一つ溜息を吐
いて再度苦笑を浮かべる。
「まぁ、いいわ。どうせ、最終的にあなたは私に逆らえないんだもの」
「…………わからんぞ。実は単なる権力志向の人間かも知れん」
  広瀬の言葉にさすがに憮然として、ディルクセンが挑発的な物言いをする。する
と広瀬は笑って手を横に振り、かなり失礼な事を口にした。
「あなたにはそんな気骨はないわ。絶対卒業後は大学経由でお父さんの意向通り警
察官僚になって、組織の中であくせくするタイプね」
「お前………………ちょっとは失礼だと思わんか?」
  あまりにひどい言われように、ディルクセンは思わずこめかみを抑える。だが、
広瀬の言い様が実に自分の本質を言い当てているように思えて、何も反論を発する
事が出来なかった。周囲の取り巻きが笑いを堪えている様子も背中越しに伝わり、
なんとも情けない表情になる。
「はふぅ……もう用はないですね?  じゃぁ、俺は先に帰らせてもらいますんで」
  気を取り直し、口調を上司に対するものに戻す。これで今日の件に関する話題は
全て終った、という意思表示だった。
「ええ、お疲れ様。また明日」
  対する広瀬の挨拶もまた割り切ったものだった。まるで何事もなかったかのよう
に。


  こうして、今日も風紀委員会の平穏な一日は終った。


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ディル「と、ゆーわけで!」
作者「風紀委員会の日常第二部です〜」
ディル「今回は他の方がほとんど出てこないな」
作者「ちょっと君のスタンスと広瀬委員長のスタンスの違いを押し出してみたかっ
たんで……  構想30分(テスト中)、製作5時間という強行軍が祟った面もある
な(汗)」
ディル「なんでそういう無理をするかね、お前は……」
作者「あ、あはははは……いや、自己紹介Lシリアスバージョンだと思ってくださ
いませ(平謝)」
ディル「あ、あと広瀬委員長と俺は別に仲が悪い訳じゃなく、方法論での意見対立
があるものとご理解下さい」
作者「そこらへんの伝えたいとこ、ちゃんと作品の中で伝えられるようにならへん
とあかんね、俺(汗)」
ディル「全く。まだまだ研鑽を積まねばな」
作者「うぃす、頑張りますので、お見捨てなきよう……では!」
ディル「失礼する」