飛び入り学園祭Lメモ「楓祭’98/『A・F・R』」 投稿者:風見 ひなた
 病…。
 常に人類の栄光と隣り合わせにあり。
 いつでも我らを狙う牙。

 それがなぜ発生するのか?
 その問いの答えを知るものなど誰もいない。
 増えすぎる人の種を減らすための大自然による間引きか。
 他の生命を踏みにじる傲慢な人の子への天の鉄槌か。
 人の命を刈る悪魔どもの悪戯か。
 そのいずれにせよ……病魔は決して絶えることはない。
 滅ぼしても滅ぼしても無数にわいてくる凶刃。
 それが病。

 黒死病。13世紀ヨーロッパを死と恐怖の魔界へと変えた。
 天然痘。抗体が発見されるまでそれは永く人を苦しめつづけた。
 コレラ。やはり近代までそれは世界各地で猛威を振るった。
 風邪。最も一般的なこの病はいまだ治療法が発見されない。
 HIV。現在この病魔に苛まれる人々の多くは心をも傷付けられている。
 エボラ出血熱。アフリカを恐怖に染める謎の出血死。

 そんな病と人との終わりないいたちごっこの中で……
 ついに生まれる病。
 全人類を破滅に追い込む最凶の病。


              「A・F・R」


「全ての人類はDNAの遺伝子配列の中にすでに死を内包している。それがア
ボトーシス……いわゆる致死遺伝子」


 西山はがくりと膝を突き、はらはらと涙をこぼしていた。
 特殊加工された透明な仕切の向こうには変わり果てた姿となった彼の弟子……。
 結城光の物言わぬ影。
「治せないのですか……」
 無言で彼の従姉……保険医相田響子が頷く。
 いや、今や保険医ではない。
 学園の危機を救うただ一人の『医者』だ。
「治せないのですか……本当にっ!」
「無理よ」
 今度は声に出して……彼女は答えた。
「病原体は少しでも感染してしまうとごく短期間で体内増殖し、あっと言う間に宿主を
『変態』させるわ。そしてその際脳までも冒してしまう……脳を破壊された生命体はもう
自らの意志を目覚めさせることはない。早い話、一度感染したらもう直すことは出来ない」
 だんっ!
 西山は血管の浮いた拳を壁に叩きつけた。
 凄まじい振動と共に、ぐらっと壁が歪む。
「やめなさい。鬼の力はやすやすとコンクリートを撃ち抜く……病原体が流出したが最後
……あたし達は死ぬわよ」
 そう言って………。
 響子は皮肉げに口元を歪ませた。
「あなたは死なないかも知れないわね。『鬼』の一族は病魔に対して頑健だから…」
「何が言いたい」
 震える声で西山は呻いた。
 だが、その威嚇には何の意味もないことに気付き、口をつぐむ。
 響子はそんな従弟の行動に何の頓着も抱かないように装いながら、訊いた。
「対処法は二つよ。彼の身体を病原体ごとコールドスリープさせるか……さもなくば」
「……殺してやってくれ」
 言われる前に西山は答えた。
 それが彼の感情と意志の全て。
 敢えて問い直すこともなく……。
 相田響子は席を立つ。
 そして一つの命の帳が落ちた。


 試立Leaf学園を襲った謎の奇病……AFR。
 脳を破壊し、著しくその姿を変貌させてしまう恐怖の病気。
 この恐るべき病のためにすでに数百名が犠牲となっていた。
 患者達は隔離病棟に強制入院させられる。
 健常者達は防衛を余儀なくされる。
 そう、脳を破壊されてしまった患者達からの……。


「想像してみるがいいさ。もしも異星人の集団の中で人間が自分一人なら、きっと君は自
分が異常だって思うから」

「風紀委員第三部隊、対応急げ!」
「駄目です!隔離病棟Dから43名が逃亡しました!」
「現時刻をもって全生徒会員の銃器携帯を許可!発砲任意!殺しても構わない!」

 逃亡者達への対応に騒然とする校舎の中。
 かおりは梓の横でただただ座り込んでいた。
 先に口を開いたのは、梓の方だった。
「なあ……かおり」
「何でしょう、先輩?」
 引き締まった表情で、梓は言葉を選ぶように呟いてゆく。
「あたしたち、いいのかな……。ここでこうやってのんびりしている間にもAFR患者達
はみんなを襲っているのに」
 だが、かおりはそんな梓の腕に自分の腕を絡めると、すりすりと頬摺りするのみ。
 今にでも甘えた声を出さんばかりにうっとりとした表情だった。
「いいじゃないですか。私達には……関係ない話ですから」
 極めて自己本位な考え。
 そんな彼女の思考に若干割り切れない反感めいた思いを感じながら、反面それに違和感
を覚えないその図太さに驚嘆したりもする。
 確かに自分たち鬼の一族はAFRが空気感染する事はない。
 だが、それならよいとするような考え方は彼女の正義感が許さないのだ。
 やはり、何かをするべきだ。
 そう考えて、梓は身体を起こした。
 そこに隙が生まれた。
 天井にへばりついていたそいつは、着地するや否や一直線に梓の首筋を狙い……。
(えっ……?)
 梓の眼が一瞬見開かれて。
 次の瞬間、梓は床に突っ伏していた。
「いやぁぁぁぁぁ、先輩ぃぃぃぃぃぃぃ!?」
 そんな声を上げるかおりを嘲笑うかのように、牙を煌めかせる患者。
 かおりはぎらりと危険な光を瞳に宿らせると、そいつに向かって思い切り平手をかまそ
うと体中のバネを弾いた。
 だがその一撃は命中しない……突然起きあがった梓に止められた。
 腕を取られて硬直するかおりの目の前で、梓の容姿が変わって行く。
 瞳の黒目が大きくなり、唇にヒビが入り、髪が逆立ち……。
 かおりは我知らず絶叫を上げながら、涎を垂らしながら考えていた。
 だけどこれは、こいつはやはり梓先輩なのだと。
 ならばいいではないか。
(私は梓先輩にあやめられるのだから……)
 だらりとかおりの腕から力が抜ける。
 そしてその瞳が閉じられた。


「永劫の闇にも似たこの虚無感の中で追いつめられたウサギ達は考えるのだ。
 何故自分たちはこんなにも不幸なのかと。
 だがそれに答える者などない。
 誰が答えを知っているわけでもない。
 そもそもこの問い自体が無意味である。
 それというのもウサギ達は実は不幸ではなかったのだから。
 ウサギというのは追われる者なのだ。そう決まっているのだ。
 それが当たり前である以上、ウサギ達は不幸ではない。
 時に、我が親愛なる人間達よ、君たちは、不幸か?」

「風紀委員達、最後の防衛の時が来た!我等は今こそ学校の土となるために進むのだ!」
「あなた達をここまで来させるために多くの人たちが散りました。その人達の志を無にし
てはいけません。その人達に答えるべく、少しでも多くの隣人達を救いなさい!」

 なんてことだ……。
 わずか半日でこの有様か……。
 元生徒会長岩下信はぽつりと校舎の跡に立ちつくしていた。
 もはや彼は生徒会長ではないのだ。
 生徒会役員達はもうすでに全滅しているから。
 彼が率いるもう一つの組織ジャッジ……それももうすでに滅びていた。
「そんな……バカな……」
 息も絶え絶えに呟く彼の声は、からからに乾いている。
 そして彼を取り巻くように待機していた患者達がゆっくりと迫る。
 こんな、こんなはずでは。
 こんな馬鹿なことになるはずでは。
 どこが間違っていたというのだ。
 自分の行動の何処にミスが潜んでいたのだ。
 決して……決して自分は間違っていなかったはず。
 悪いのは…自分でも…患者でもなく…ただ、そこにあった……歯車。
 そして……それを招き寄せたのは……どう回っても……俺。
 そんな自己への嘲笑と共に、彼の身体がぐらりと揺れる。
 次の瞬間屍肉に群がるカラスのように無数の牙が岩下を刺し貫いていた。


「人はいずれ死ぬが故に人生に希望を感じる。
 迫り来る死から逃げようと藻掻く、その努力こそが彼の生を有意義にする。
 待ち続ける死へと向き合う、その覚悟こそが彼の生を意味づける。
 だが死というものが目に見える場所に立ってはおらず、待ち伏せるのみだというのなら
私達には一体何が出来ようか?」

「六時になりました。部練をしている生徒はただちに今ザビィィを辞めザビィィげこザビ
ィィィィに入りなザッ……………ズザザザザザザザザザザ」

 浩之はあかりの手を引きながら必死に暗闇満ちる道を疾走していた。
 ようやく生まれたこのチャンス、これが恐らく最後の機会となろう。
 恐らく今を逃しては明日の朝まで生き残ってはおられるまい。
 自分たち以外の者は多分全員元の姿を留めていない。
 あの恐ろしい姿となり自分たち最後の生存者を追っているはずだ。
 逃げなければ……逃げなければならない。
 学園の外まで。そこまでさえ抜け出せるのなら、生き残ったも同然だ。
「ひ、浩之ちゃん……もう駄目だよ。走れないよっ……!」
「諦めるなあかりっ!生き残るんだ……俺達を庇って死んだ雅史や志保のためにも!」
「う……うん!」
 ずきっと心が痛む。
 二人の死に様を思い出すだけで、浩之の眼には涙が滲み出る。
(浩之、もう…もういいんだ。君のために死ねるんなら、それで……)
(あかり…幸せになんのよ。ヒロも、あかりを泣かしたら化けて出てやるんだから)
 構うな!
 死を悼むことはいつでも出来る!
 今は、それよりも逃げるんだ!逃げ切れば……それが何よりの追悼になる!
 血が滲むほど強くあかりの手を掴み、浩之は逃げ続ける。
 あっ……。
 見えた。校門だ。
 あと数十メートルの距離。
 周囲には誰もいない。
 逃げられる!
「あかり、最後のラストスパートだ!俺の手を離すな!」
 だが、返ってきた答えはそれではなくて。
「ごめん。あたし最後までいけない」
 突き飛ばされた浩之がふっと振り向いた頃には………。
 あかりは自ら奴等の群の中に飛び込んでいた。
 澄み切った笑顔を浮かべながら……。
(サヨナラ、浩之チャン)
 浩之は絶叫を上げた。
 それじゃ。それじゃ、意味ねえだろ。
 なんのために。俺は。
 せめて……俺が死んで、おまえが生きるべきなのに……。
 数秒の空白。
 目の前にそびえる、黒い影。
 一際大きなアフロを持ったそいつはニヤリと口元を歪ませ、言った。
「HAHAHAHAHAHA!アナタはアフロを信じますカー!?」
「殺せぇぇ!!!!!ちくしょぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
 血を吐くような叫び。
  そして………暗転。


 END



 試立Leaf学園映画研究会自主制作映画『AFR 〜アフロ〜』

 CAST

 岩下 信
 柏木 梓
 日吉 かおり
 西山 英志
 相田 響子
 結城 光
 藤田 浩之
 神岸 あかり
 長岡 志保
 佐藤 雅史
 Tas

 撮影協力

 アフロ同盟



 しゃ……とカーテンが引かれ、眩しい日光が入ってくる。
「ど、どうですかみなさんっ!?」
 そんな期待に満ちた声を掛ける映研部長に向かって一同は震える手でポップコーンを入
れたカップを高く掲げると……。


                滅殺

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ひ:病原体が体の中にはいるとねぇ。髪の質が変化してねぇ。
み:はぁ
ひ:アフロになっちゃって噛み付いて仲間を増やしちゃうんだよ。
み:何か言うことは?
ひ:ごめん(汗)ちょっと変えればホラーになるノリをいかにギャグに持っていくか、と
  いう実験だったんだけど……。失敗したねぇ。
み:はい、とっても。しかも飛び入らないで下さい(苦笑)
ひ:深い事は聞いてはいけません(汗)
み:それでは他には?
ひ:「体育祭SSはどうしたんだろうね(汗)」風見 ひなたと!
み:「テンション低いっ!」赤十字美加香がお送りいたしましたっっ!!